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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第5章【シンなる竜頭の上オウ】
248/343

第248話「ダイオークス空港-2」

「アゲートさん?」

「さて、君らに事情を説明しよう」

「「「!?」」」

 アゲートさんがそう言うと同時に、部屋の中にヘルメットにボディアーマー、銃と、瘴気の外で活動するのであるならば、完全武装していると言っていい状態の人間が何人も入ってくる。

 その物々し過ぎる武装内容に俺たちが警戒しようとするが……直ぐに気付く。


「と言うわけで、しばしの間待ってくれ」

 彼らに敵意は無い。

 加えて、部屋の中に入ってきた彼らの手にはパソコンや組み立て式のスクリーンなどがあり、俺たちのことなど気にした様子も無く、慣れた手つきでそれらの機材を組み立てていく。


「ハル君これって……」

「たぶん、俺の発言次第で対応が変わっていたんだと思う」

 うん、これはトトリの懸念通り、俺がこれから説明される事情の原因だと判断された場合、彼らは武力を以て俺たちを制圧するつもりだったんだろう。

 そうなれば、個人が携行出来るレベルの火器が、俺に対して有効かどうかはともかくとして、トトリたちの事を考えれば、素直に身柄を預ける他無かっただろうな。


「準備完了しました」

「ご苦労」

 スクリーンに映像が投影される。

 ふむ、投影されたのは……ダイオークスの俯瞰図か。


「事が起きたのは、今から五時間ほど前。今、地図で表示されている場所の全てで同時にそれは起きた」

 投影された俯瞰図に複数のバツ印が記される。

 バツ印の位置に規則性は……無いな。

 ダイオークス中の至る場所で何かが発生したようだ。


「何が有ったのですか?」

「暴行……場合によっては殺人だ」

「殺人……」

 アゲートさんの言葉に全員の顔が険しくなる。

 恐らくは人死にが出ている事に対しての物だろう。

 だがそれ以上に気になるのは……ダイオークス内の複数箇所で暴行と殺人が同時に発生する。

 そんな事が果たして偶然に有り得るのか?


「容疑者の共通点については現在調査中だ。だが、一つ確かな事として容疑者は全員が全員、突然茫然自失となり、その直後から近くにいる人間に対して襲い掛かっている」

「全員が……ですか」

「全員がだ」

 いや、有り得るはずがない。

 有り得ないからこそ、今俺たちはこの場に留められているのだろう。

 だがしかし、この事件と俺の間に一体どのような関わりがあると言うんだ?


「ただ幸いな事に、容疑者たちが暴れ出してから数分後。全ての容疑者たちが姿の見えない誰かに殴られたかのように吹き飛ばされ、気絶。事態は収拾した」

「ほっ……」

 安堵のため息が聞こえてくる。

 しかし、五時間前、姿の見えない誰か、殴られたようにってまさか……。


「そして、気絶した容疑者たちの周囲には……これが一人につき数枚有った。ああ、現場によってはこの鱗が容疑者の体内から出てくるのを目撃されている場所もある」

 アゲートさんはそう言うと、先程俺たちに見せてくれた俺の鱗によく似た何かを指差す。

 ああうん、何となくだが、状況が飲み込めてきた。


「つまり、何者かがこの鱗を通して容疑者とされている人たちを操り、周囲の人々を襲わせた。と言う事ですか?」

「で、襲わせ始めた直後にハルが【威風なる後】を使って、容疑者たちを全員気絶させた。と」

「誰が操っていたのか。どういう原理で操っていたのか。この鱗をどこで手に入れたか。この鱗の役割は何なのかなど、分からない事は多々あるが、現状集まっている証拠から考えれば、だいたいそのようなものだと私は考えている」

 アゲートさんを含めた、部屋中の人間の視線が俺に集まる。

 正直居心地が悪い。


「しかしそうなると……えーと、もしかしなくても、俺が犯人だと疑われていましたか?」

「一部の人間……君の事を良く知らない者たちはかなり疑っていたし、私たちも可能性はゼロではないと思っていた。まあ、君の性格やこんな事をして何の利益が有るのかと言った疑問点から、可能性は低いとも思っていたが」

「……」

 ああうん、これは冗談抜きにトトリが懸念した通りの展開もあり得たな。

 何と言うか、【威風なる後】を使った時間を記録していて本当に良かったと思う。

 後、出力を抑えていた事も。

 全力で撃てば、数百人分の人間の体を難なく吹き飛ばせるだけの破壊力はあるからな。あれ。


「さて、事情説明はこれで終わりだ。手間をかけた上に、不安にさせて申し訳なかった」

「あ、はい。こちらこそ」

 アゲートさんと、完全武装の人たちが一斉に頭を下げる。

 うん、居心地が悪い。

 アゲートさんたちは何も悪くはないしな。


「では、事態は収拾しているが、念のために君たちを自宅まで送るとしよう」

「感謝します」

 しかし、これだけの護衛が有るのはありがたい事なので、素直に受け入れるとしよう。


「ではこちらへ」

 そうして俺たちが椅子から立ち上がり、部屋の出口に向かって歩いて行った時だった。


「っつ」

「ハル君?」

「ハル?」

 走る様な足音が聞こえた。

 ただそれだけの事だったが、何故か俺はその音に身構えてしまった。


「【堂々たる前】!」

「ハル様!?」

「ハルハノイ!?」

 そして何故か、【堂々たる前】を発動してしまった。

 だが、その事に周囲が驚く間にも足音は近づいてくる。


「見つ……」

 扉が開く。

 そして見えたのは桃色の髪の毛。


「けた……」

 部屋の中に飛び込んできた人物は、周りの人たちが止める暇も無く、まるで俺の出した【堂々たる前】が見えているかのように、その上辺に手を掛ける。


「の……」

 そして有ろうことか、俺の【堂々たる前】を乗り越えたその人物……エイリアスさんは、叫び声を上げながら……


「ねええぇぇ!!」

 俺の顔面に向かって飛びかかり、己の股間を押し付けたのだった。

10/26誤字訂正

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