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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第5章【シンなる竜頭の上オウ】
247/343

第247話「ダイオークス空港-1」

「何時まで待つんだろうねー」

「まったく。妙な事になったのじゃ」

 ダイオークスに着いた俺たちは、本来の予定では入都審査を受けた後、26番塔の自宅に戻る予定だった。

 これはダイオークス-トキシード間にある時差の関係や、移動に伴う疲労などを考慮しての事であり、予定ではトキシードで何が有ったのかについて口頭で報告を行うのは明日以降となっていた。


「空港のロビーも妙に物々しい雰囲気でしたよね」

「そうですね。ですから、何かが有ったのは確かだと思います」

 が、何故か今の俺たちはダイオークス空港の一角、VIPルームのような場所に通され、そこで担当者が来るまで待つように言われていた。

 しかも空港を管理する22番塔の塔長、俺たちの上司である26番塔の塔長、ダイオークスのトップである中央塔塔長三名が連名で署名した命令書でもってである。

 うん、これで何も無かったら、そちらの方が驚きのレベルだ。


「それにしても何が……ああ、来たみたいだね」

「遅くなって済まない。情報が錯綜していてね。まとめるのに、少々手間取った」

「アゲートさん」

 で、ダイオークスに着いてから一時間ほど経過した頃。

 部屋の中に入ってきたのは、中央塔の役人であるアゲート・セージさんだった。

 手には頑丈そうなアタッシュケースを持っている。

 この人が出てきたってことは……最低でもダイオークス全体に関わる事っぽいな。


「それで用件は……」

「あー、済まないが、先に告げておくことが有る」

 シーザさんの発言を阻むように、アゲートさんは手を伸ばし、アタッシュケースを部屋に備え付けられている机の上に乗せる。


「この先、この場に居る全員の発言は記録されることになる。それも裁判で使用可能なレベルでだ」

「「「……」」」

「よって、全員、発言をするなら、きちんと考えて発言するように。揚げ足を取られると面倒だからね」

 裁判で使えるレベルとは……物騒なんてものじゃないな。

 本当に何が有ったんだ?


「では、記録を始める」

 アゲートさんが机の上にレコーダーのような物を置き、スイッチを押す。

 どうやら本当に記録するらしい。

 これは迂闊な事は言えないな。


「さて、自宅に帰る予定だった君たちダイオークス26番塔外勤第32小隊と、ダイオークス中央塔大学教授トゥリエ・ブレイカン。君たちを予定を捻じ曲げてもダイオークス空港の一室にこうして待機させたのは、早急に君たちに確認してもらわなければならない事案が発生したからだ」

「確認してもらわなければならない事案……ですか。何でしょうか?」

 俺たちが確認しなければならない事か。

 うーん、考えられるのはトキシード関連の何かかな。

 トキシードから帰ってきた直後に留められているわけだし。


「これだ」

 アゲートさんがアタッシュケースを開け、中身を俺たちに見せる。


「これは……」

「なにこれ?」

「んんっ?」

 アゲートさんが俺たちに見せたのは、小さな黒い金属片のような物だった。

 いや、金属片と言うよりかは……


「これ……ハルが【堅牢なる左】とかを使った時に出てくる鱗によく似ていないかい?」

「言われてみれば、色艶などは似ているな」

 そう。鱗、それも、俺が【堅牢なる左】などを通常出力で発動した時に生えて来ている鱗によく似ていた。

 それこそ、目の前の鱗と、俺の鱗を見比べても、分からないであろう程に。


「ロノヲニト、トゥリエ教授」

「ふむ、触っても問題は?」

「ない。それで正体が分かるなら、むしろ触ってほしいぐらいだ」

「分かったのじゃ」

 トゥリエ教授がアタッシュケースから鱗を取り出し、額の角で触れる。

 そして、トゥリエ教授が調べた後はロノヲニトが受け取り、指で触りつつ様々な方向から観察をする。


「ふうむ……ハル。低出力版で構わないから、何かしらの能力を発動して欲しいのじゃ」

「分かった。【堅牢なる左】起動」

 トゥリエ教授に言われて、俺は低出力版の【堅牢なる左】を起動。

 ただし、屋内なので左腕を覆うだけのサイズに留めておく。


「ふむふむ」

「ううん……」

 で、トゥリエ教授とロノヲニトがそれぞれに俺の左腕に触れ、何かを調べる。


「二人ともどうだった?」

「ふうむ……吾輩の特異体質で調べた限りは、生えていた場所が違う事によるであろう差しか感じ取れない程に似ていたのじゃ」

「我も鱗の組成や構造などの面から調べてみたが、十中八九、この鱗はハルの物だと思う」

 二人の結論としては、アゲートさんが持ってきた鱗は俺の鱗としか思えないものであるようだ。


「なるほど。この鱗がハル・ハノイ君の物であることは間違いない。と」

 アゲートさんの言葉にロノヲニトもトゥリエ教授も静かに頷く。


「では、もう一つ質問を。ハル・ハノイ君。君は五時間ほど前、何をしていた?」

「五時間前……ですか」

 アゲートさんの言葉に、俺は自分の記憶を辿る。

 五時間前……トキシードからダイオークスに向かう途中、【威風なる後】で空を飛んでいた時間だよな。

 その頃と言うと……


「あっ」

 俺は一つの事柄を思い出す。


「何か有ったらしいね。何が有ったんだい?」

「えと、関係が有るかは分かりませんけど……」

 そして俺はアゲートさんに、その時間帯に丁度妙な感覚を覚えた事、その妙な感覚の出元に向けて力を放った事、念の為にその時の時刻を記していた事を告げる。

 後ついでに【威風なる後】の能力についても話しておく。


「なるほど……その時に記録に使った時計は?」

「これです」

 するとアゲートさんは俺からメモ帳と時計を受け取り、何かを考え込み始める。

 そして、しばらくの間悩み続けた所で……


「ビンゴだ。やはり君は無関係では無かったらしい」

 アゲートさんは何か安心したような笑みを浮かべながらそう言った。

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