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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第5章【シンなる竜頭の上オウ】
246/343

第246話「トキシード-22」

「世話になった」

「いえ、こちらこそ」

 数日後。

 トキシードで細かい諸々の仕事をこなした俺たちは、ダイオークスに帰るべくトキシード空港の滑走路にやって来ていた。


「また機会が有れば会おうな」

「うんそうだね。その時はよろしく」

 なお、『アーピトキア』組は昨日の時点で、既に別の飛行機に乗って『アーピトキア』に帰っている。

 勿論、『春夏冬(ノーオータム)』の三人と例の箱も一緒にだ。


「で、ハルは本気なのかい?」

「ああ、勿論本気だとも」

 で、俺たち第32小隊+トゥリエ教授も、本来ならば今滑走路に停まっている専用の飛行機に乗ってダイオークスに帰るわけだが……うん、俺だけちょっと別行動をとる予定である。

 いやまあ、行き先も航路も変わらないんだけどな。


「まあ、装備はきちんと整えてあるし、たぶん大丈夫なのじゃ」

「ハル君。寂しくなったらいつでも話しかけてね」

「迷った時も直ぐに我たちに聞くのだぞ」

「はぁ、慣れるためとはいえ、無茶はし過ぎないでくださいね」

「ハル様。本当に気を付けてくださいね」

「無事を祈ってます」

「ああ、皆ありがとう」

 俺は改めて自分の装備を見直す。

 基本は防寒対策を施した防護服だ。

 ただ、そこに加えてトトリの『サーチビット・テスツ』を元に改造した通信機器、ボウツ・リヌス・トキシード-ダイオークス間の地図、コンパスを始めとした観測機器、万が一に備えた数日分の食料と言ったものが動きの邪魔にならないように付けられている。


「ではハル。出来る限り、私たちの乗っている飛行機を追いかけるように」

「分かりました」

 シーザを最後の一人として俺以外の全員が飛行機の中に消える。

 そして、少し時間が経ったところで飛行機のエンジンが始動、ダイオークスに向かって順調に離陸する。


「じゃ、俺も行くか」

「じゃあな。羽井」

「おう」

 飛行機が無事に離陸したのを確認した所で、俺は湯盾たちに別れの挨拶をしつつ、低出力版の【威風なる後】【堂々たる前】を起動。

 箱の中の世界でやったように、【堂々たる前】を風防として宙に舞い……


「またな」

 【威風なる後】の力でトトリたちの乗った飛行機を追いかけはじめた。


--------------


 さて、二時間は経っただろうか。

 既に周囲は一面瘴気の海、もしくは瘴気の丘であり、目印になるものと言えば、俺の前……1km以上先を飛ぶ飛行機ぐらいなものである。


「ただ、飛行は順調。体に感じる疲れも無しっと」

 で、現在の俺の状態だが、飛ぶと言う行為をイメージしやすくする関係で腹這いの状態である。

 その為、【堂々たる前】本来の効果もあって、疲労感のような物は感じていないし、周囲の風景を眺める余裕もある。


 うん。行きの時はほとんど寝ていたから気づかなったけど、意外と瘴気の海も変化に富んでいるんだよ。

 まず、瘴気は地表または水面から500m離れた場所までしか存在できないと言う特性から、下の地形に合わせて瘴境は変化する。

 そのため、瘴気の海だけでなく、瘴気の丘や瘴気の滝と言った地形が出来上がっているエリアも時折存在しているのだ。


 そして、ミアズマントの中には空を飛ぶ者も居る。

 そのため、時折ではあるが瘴境の上にまで顔を出し、慌てて瘴気の海に引っ込み返すミアズマントと言う者も居る。

 ん?襲われないのかって?今俺たちが飛んでいる場所の高度は低く見積もって数千mだからなぁ……これを襲うミアズマントが居るとしたら、それに特化したミアズマントぐらいだと思う。

 と言うわけで、トゥリエ教授からの依頼もあるが、瘴境から飛び出てきたミアズマントをカメラで撮影するぐらいの余裕はある。

 何でも、瘴境から飛び出てくるミアズマントの写真と言うのは、貴重な資料になるらしい。


「ん?」

 そうやって安定を保ったまま空を飛び続けている時の事だった。


『ハル君どうしたの?』

「いや、なんか妙な感覚が……これは……なんだ?」

 唐突に、頭の中に妙な感覚が訪れる。

 うーん、第六感とでも言えばいいのだろうか?

 とりあえず通常の五感とはまるで趣が違う。


「トトリ。ロノヲニトを」

『分かった』

 俺はまさかと思い、ロノヲニトを呼び出してみる。


『代わったぞ』

「ロノヲニト。お前の方は何か妙な感覚のような物を感じているか?」

『いや?我の方では特に何も感知していないぞ。ハルハノイの気のせいではないのか?』

「ふうむ……」

 一瞬、イヴ・リブラ博士が妙な方法でもって俺に干渉を仕掛けてきたのかとも思ったが、ロノヲニトの反応からしてどうやら違うらしい。

 まあ、ロノヲニトの予測では直接的な干渉をイヴ・リブラ博士は現在行えないと言う話だったし、当然の結論とも言えるか。


「……」

 となればだ。

 俺は先程よりも強くなっている妙な感覚の方に、耳を傾けるように意識を向ける。


「ふんっ」

 そして、妙な感覚の出元に向かわせる認識でもって【威風なる後】の力を極僅かに放出。

 すると、この感覚の出元に対して【威風なる後】の力が無事に炸裂したのか、一瞬で妙な感覚は無くなり、俺の頭の中は静寂を取り戻す。


『何をしたんだ?』

「いやまあ、ちょっと新しい力を試してみた。そしたら静かになったから、心配しなくてもいい」

『ふうむ?』

 俺は念のために時計を確認して、今の時刻を確認、記録しておく。


 そうして、その後は何も無く、飛行機も俺もダイオークスに到着したのだった。

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