第244話「トキシード-20」
「ロノヲニト!それはまさか……」
「全員、その先は言うなよ」
「「「……」」」
ロノヲニトの言葉に全員が慌てて口を紡ぐ。
危ない危ない。
「一応我に出来る限りの方法でもってこの部屋は隔離してあるが、エブリラ様の作った箱と違って別の世界に行ったわけではないからな。ニルゲたちはともかく、『虚空還し』なら感知出来る可能性は十分にある。だから言うな」
そして、全員が呼吸を整え、どの言葉を発していいか、どの言葉を発してはいけないかを自分の中で改めて確認し合ったところで、お互いに頷き合う。
「さて、瘴気に触れることで生じる瘴液や瘴金属の多様な性質からも分かるように、マーナは使い方次第で様々な現象を引き起こすことが出来る」
「えと、それこそ、何も無いところ……僕の掌の上で火を起こしたり、水を出したりすることもできるって事ですか?」
「必要な条件さえ整えられれば、理論上は可能なはずだ」
セブの質問にロノヲニトが小さく頷く。
「ただ、トゥリエ教授とエイリアスの二人で発現している特異体質が違う事からも分かるように、魔力と言う力は個人差が著しく生じる力でもある」
「ふむ。個人差と言うと……性質に量の多寡と言ったところじゃな」
「他にも密度など、要素は色々とあるだろうが……まあ、だいたいはそんな所だろう」
ふうむ。
質、量、密度……魔力を物質のように見るなら、確かにその辺の要素はありそうだな。
まあ、ロノヲニトの表情からして、そう単純な物でもなさそうだが。
後、さりげなく、スクリーンの絵が刻一刻と変わっていってるな。
「えーと、でもどうやって魔力の性質なんて見極めるの?」
「分からない。と言うのも、必要ない知識と判断されたのか、あまりにも多様過ぎて収まり切らないと判断されたのかは分からないが、我の中に在る魔力に関する知識は最低限の物だけで、どの性質だからどういうことが出来ると言う知識は入っていないのだ。おまけに、我には魔力の性質を見極める能力は殆ど無いしな。だが……」
ロノヲニトの視線がエイリアスさんに向けられる。
「ん?どうしたのね?」
ああなるほど。
そう言う事か。
エイリアスさん自身は分かっていないようだが、ロノヲニトの視線だけで、他の面々は理解する。
「我が観察した限りでは、『真眼』は見た相手の魔力の性質も一部捉えていると見ていいだろう」
「確かに。特異体質と魔力の間に深い関係があるのなら、『真眼』は魔力を捉えているとみてもいいのでしょう……ね」
「よく分からないけれど、褒められた気がするのね」
そう、エイリアスさんの『真眼』だ。
エイリアスさんの『真眼』はトトリやトゥリエ教授たちを特殊な姿で捉えるだけでなく、俺の事も黒ドラゴンと捉えていた。
となれば、他にも『真眼』に影響を与えている要素は多々あるのだろうが、魔力がその一因になっている事は間違いないだろう。
「さて、前提の話はここまで。此処からがある意味本題だ」
「本題?」
で、此処まででもかなりの量の情報に溢れているのだが……うん、そりゃあ、ここまではタダの知識だもんな。
この先が本題なのも当然だ。
「魔力を恣意的に使う事によって特殊な現象を引き起こすために必要な要素は細かく見れば世界毎に異なり、実に多種多様な物だ。だが、基本的な事はどの世界でも変わらないとして、我の中に与えられている知識がある」
「「「……」」」
他の皆もロノヲニトが何をしたいのかを理解したのか、今まで以上に真剣な表情になる。
「それは己に魔力がある事を自覚し、その性質を理解し、使おうとする意思。この三つが必要な事だけは何処の世界でも変わらない」
自覚、理解、意思……か。
確かに自分の意に沿って魔力を使おうとするなら、絶対に必要な要素だな。
なにせ、力が有ると言う自覚が無ければ、使おうとも思えない。
力の性質を理解していなければ、制御は出来ない。
使おうとする意志が無ければ、発動しないのだから。
「この場に居る面々は既に魔力と言う力が有る事は自覚している。そして、この前エイリアスに描いてもらった絵のおかげでその性質も朧気には見えている。となれば、後必要なのは意思。そして、この三つが揃えば、後は意思を実現するための知識が有れば、魔力を扱えるようになる。私の話は以上だ。手間を取らせたな」
そう言ってロノヲニトはプロジェクターを消し、スクリーンを上げ、部屋のロックを解除する。
どうやら話はこれで終わりらしい。
しかしそうなると……俺の【堅牢なる左】たちも、魔力を利用した結果だったと言う事か。
となれば……ちょっと試してみたい事が出てきたな。うん。
「ところでロノヲニト」
後、もう一つ気になった事が有る。
「何だ?」
「エイリアスさんの『真眼』が魔力を捉えたものだとしてだ」
俺は黒ドラゴン。
トトリは鳥。
ワンスは狼。
トゥリエ教授は一角獣。
ナイチェルはランタン持ち。
セブはヒマワリの花束。
ミスリは各種工具。
ロノヲニトは球ドラゴン。
フィーファさんは……知らないが、まあ、そこまで変なものではないだろう。
「それならシーザはどうなるんだ?」
「……」
が、シーザは……エイリアスさん視点でポンコツと呼ばれるような姿だった。
これがシーザの魔力に影響を受けた結果の姿だとしたら……ねぇ。
「ロノヲニト?」
「……」
俺の言葉が聞こえたのか、シーザがロノヲニトの方を向く。
が、ロノヲニトはワザとらしく顔を逸らし、シーザと目を合わそうとはしない。
「ロノヲニト……?」
シーザがロノヲニトに詰め寄る。
「わ、我はさっきも言った通り、魔力に関する基本的な知識しか持っていない。そして、『真眼』の判断基準も正確には分かっていない。故にポンコツがシーザの魔力の性質を表しているとも限らない。と、我は思う……ぞ」
そしてロノヲニトが絞り出した言葉がこれだったわけだが……。
「お前が私の事をどう思っているかよーく分かった」
「……」
うん、自分の首を絞めてるな。
「ハル共々、向こうの部屋で少し話をしようか」
「え!?」
「ソウダナー」
と、思っていたら俺の首も絞まってた!?
ちょま!?何で!?今回は俺悪くなくないか!?
「さあて、二人とも行こうか」
「ソウダナー」
「ちょっ、まっ、誰かああぁぁ!?」
そうして俺とロノヲニトは誰にも助けられることなく、隣の部屋に引きずられていった。