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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第4章【威風堂々なる前後】
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第241話「M4-15」

「ここら辺でいいか」

 俺は【威風なる後】による移動を止めると、『クラーレ』の方を向いた状態で【不抜なる下】の能力を起動。

 体を固定する。


『せうえれあえれええ!』

「絶対に傷つけさせないんだから!」

「排除……排除……排除!」

 そして、そのままの状態で【威風なる後】を再起動。

 最初の突撃の時と同じように、いや、最初の時以上の早さで推力を貯めていく。


「だがこれだけじゃあ足りない」

 俺は両腕を前方に向かって真っ直ぐ伸ばし、両腕の隙間を埋めるように首と頭を伸ばす。

 形態としては、水泳でプールに飛び込むときの姿勢に近いか。


「だから……」

 尤も、このままでは姿勢を変えただけで、破壊力の向上にはつながらない。

 だから……


「【堂々たる(レストア)(フロント)】起動」

 俺は【堂々たる前】を発動。


『ユーザーのオーダーを受理しました』

 【堂々たる前】の能力は肉体の再生。

 その力は普段、俺の核を守護するための鎧を生み出す力として、肉体が傷ついた時にはその傷を再生する為に用いられている。

 だが、肉体の再生……それも首や腕と言った普通の方法では再生できない物すら再生してみせるその能力は、見方を変えれば肉体を変化させることが出来ると言う事でもある。


『今までの形態を最大出力(マキシマム)モードとして記録、保存。今後の形態は別の形態として別途記録、保存します』

 具体的には、再生の基準となる俺の肉体を変更。

 新たな基準に沿って肉体を再生と言う名目のもと、変形させる。


「これは……」

「流石ハル君だね」

 形は……そうだな。

 西洋の騎士が馬上で扱う突撃槍のような形態が最も適当か。

 俺は右手の爪を穂先として、上半身の凹凸を限りなく少なくすると同時に円錐形に近づける。

 そして下半身でも、大きな変化は起きないものの、【不抜なる下】の尾を身体の中心線に沿うよう真っ直ぐ伸ばし、可動性を無くす代わりに【威風なる後】の圧力を発生させる場として使いやすいように細かい形状を変える。


『命名、突撃槍(ランス)モード。形態変更完了しました』

 最後に、【堅牢なる左】と【苛烈なる右】の力場を形成する位置を変更し、上半身を覆うようにする。


『ktr:9rq!こrd¥rt!!』

 俺は突撃槍に埋もれた目で『クラーレ』の様子を確認する。

 そして理解する。


「これだけじゃあ、まだ足りない」

 このまま突撃しても、勝利を得られるかは五分五分だと。

 まだ確実な勝利を得る為に出来ることはあると。


「……」

 だから俺は改めて自分の手札と、この箱の中の世界の特性について考える。


「そうだ。アレを呼び出し忘れていた」

 思考の時間は一瞬にも満たなかった。

 だが、これが答えなのは間違いないだろう。


「ハル君急いで!そろそろ防げなくなってきてる!」

「ハル!急げ!デカいのもかなり力が貯まって来てる!」

 時間は無い。

 しかし、だからこそ落ち着いて、それを呼び出す必要が有る。


「……」

 そう、奴が言っていた通り、ここは望めば全てが手に入る世界だ。

 だから、俺が正確に望みさえすれば、アレを……それも形と機能を似せただけの偽物では無く、本物をこの場に呼び出す事だって出来る。


『ユーザーのオーダーを受理。鍵爪『竜』・『鯨』・『樹』・『蝙蝠』の保有を確認』

 アレ……【苛烈なる(アサルト)(ライト)】五本目の爪。


『鍵爪『海星』の存在を確認』

 【苛烈なる右】の威力を今以上に高めてくれる存在にして、残された部位に繋がる扉を開ける鍵。


『現在展開中の【苛烈なる(アサルト)(ライト)】・四本(フォー)(フィンガー)を上書きし、【苛烈なる(アサルト)(ライト)】・五本(ファイブ)(フィンガー)を展開します』

 さあ、これで俺の右手は形だけなら、本来の姿に戻った。

 本来の力にはまだほど遠いが、今ならばこれで十分。


『hpr0b8りおこlxpx0x9ぃ!』

「ハル君!」

「来るよ!」

 『クラーレ』からの石柱群による牽制攻撃が止む。

 そして、それと同時に眼孔部分では光が臨界点に達していた。


『kwg¥rdんpkwtqまるいxjxkぉx0!!』

「心配するな」

 『クラーレ』から空間すら焼き尽くすような勢いで光が放たれる。

 だが何の問題も無い。


「ハル君?」

「ハル?」

「準備は整った」

 今の俺の敵ではない。


「行くぞっ!」

 俺は【不抜なる下】の固定を解除。

 今までに貯めた推力と、今まで【不抜なる下】に回していたエネルギーを【威風なる後】に回す事によって得た推力。

 二つの力を螺旋状に組み合わせることによって、一瞬にしてトップスピードにまで加速すると同時に軌道を安定化させる。


『きr4¥r3!kjれ0れ!k、rf@rf!!klrt^rt!!kkrr--rr!!!』

 俺の力場と『クラーレ』の光線がぶつかり合う。


「「!?」」

 視界が白く塗り潰される。

 音は何も聞こえない。

 何の匂いもしない。

 何にも触れていない。


 だが、そんな何も無い状態は唐突に終わった。


『kyhj!?』

 見えたのは『クラーレ』の瞳。

 聞こえたのは『クラーレ』の叫び声。

 嗅ぎ取ったのは『クラーレ』の恐怖。

 触れたのは『クラーレ』の皮膚。


 だが、俺の感覚がそれらの情報を捉えたのはほんの一瞬の事であり、次の瞬間には……


『rzswr43w-0p@rdr4えxr43x3wsxdr4!?』

 俺は『クラーレ』の肉体も、その中心部で眠っていたイクス・リープスの肉体も貫き通し……


『ーーーーーーーーーーーーーーー!!?』

 『クラーレ』が声にならない叫びを上げながら、爆発四散するのを、遠く離れた場所で感じ取っていた。

10/19誤字訂正

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