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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第4章【威風堂々なる前後】
240/343

第240話「M4-14」

『わた、わが、がじくがああぁぁぁ!?』

 『クラーレ』が絶叫を上げる中、俺は【威風なる後】の方向を変更。

 戦闘開始と同じ程度に『クラーレ』から距離を取る。


「ワンス助かった。あのままだと流石に拙かった」

「礼ならここを出た後、ロノヲニトの奴に言っておくれ。アタシにやり方を教えてくれたのはロノヲニトだし」

「了解。ま、それでも一応この場でも礼は受け取っておいてくれ」

「はいはいっと」

 『クラーレ』との間に十分な距離が産まれた所で、俺は『クラーレ』の様子を窺いつつそれなりの速度で巡航する。

 で、その間に俺は『クラーレ』の毒を解毒してくれたワンスに礼を言う。

 本音を言えば、あの力が何だったのか、この場ですぐにでも問い詰めたい所ではある。

 が……


「と、復活してきたみたいだね」

「だな」

 俺とワンスの視線が『クラーレ』に向く。

 トトリは……目を瞑ってる?

 まあ、今はそれどころじゃないな。


『よくも、よも、わたしのがじくを!?』

 眼軸が切断された痛みによるものか、『クラーレ』の言葉はかなり聞き取りづらいものになっている。

 今更奴の言葉を聞く意味は無いので、別に構わないのだが。


『ゆれせね!いぇるせね!ほれべれ!へろべれ!』

「ちっ、多い!」

 言語能力を失った分だけ、攻撃能力が強化されている気がする。

 と言うか、明らかに『クラーレ』から飛んでくる石柱群の密度が増している。


「ハル!言っておくけど、アタシの今の能力じゃあ、あの数を相手にするのは無理だからね!」

「言われなくても分かってる!」

『せね!へれべれ!けえてねけけれ!!』

 俺は【威風なる後】の出力を上昇させ、加速。

 『クラーレ』の放った石柱に追いつかれないように、『クラーレ』の周囲を回り出す。

 そして、俺の進路を予想して放たれた石柱については、【堅牢なる左】と【苛烈なる右】を使い、石柱の先端に仕込まれている紫色の矢じりに触れないように注意しながら破壊していく。

 だが数が多い。多すぎる。


「くそ、このままじゃ攻めるどころじゃないぞ」

『けうぇれれ!けうぇれれ!!』

 おまけに、『クラーレ』の攻撃の精度は有り余る怒りが一周回って落ち着いたのか、徐々に上がって来ている。

 このままでは遠からず対処しきれなくなる。

 そう俺が思った時だった。


「うん。分かった。こうすれば……」

 トトリが俺の中で突然そう言い、


「良いんだね!」

「「!?」」

 次の瞬間には、俺の身体の近くまで来ていた石柱群が破壊されていた。


「なっ……」

 あまりにも唐突な変化に、俺は思わず加速を止め、自らの周囲をじっくりと見てしまう。


「よし。『ソードビット・テスツ』の生成と操作に成功」

 『クラーレ』が放った石柱を砕いているのは、俺の身体の周りを明確な迎撃の意思を以て飛び交う無数の剣だった。

 ただ、一口に剣と言ってもその形は多種多様で、一般的な西洋剣の形をしているものもあれば、金属製のブーメランに飛行用のユニットを付けた様な代物や、中には剣では無く馬上槍が柄から火を噴いて飛んでいるものもあった。

 一体誰がこんな物をと言う問いは必要ないだろう。

 こんなことが出来る人間は、この場には一人しかいないのだから。


「ハル君。ハル君は私の守りを抜いたものにだけ対応してくれればいいよ。ワンスも、その程度の数なら大丈夫でしょ?」

「トトリ……」

「ああ、この数なら、今のアタシでも大丈夫だよ」

 そうトトリだ。

 この無数の剣は全てトトリが生み出し、操っているのだ。

 数には数で対応をする。

 単純ではあるが、それ故に対策がしづらい物量差と言う物を、トトリはたった一人で見事に克服してしまっていた。


「で、こんなのを生み出せるって事は、トトリの方にも情報が来たんだね」

「うん。ミスリさんが私用に設計していたものだってさ。勿論、ロノヲニト義姉さんの知識付きで」

 ……。

 えーと、二人の会話の意図がまるで読めないんだが、要するに箱の外の世界に居るロノヲニトたちが何かしらの方法でもって、ワンスたちにこの場で必要な知識を渡したって事か?

 良く分からんが。


「で、ハル君。守りはこれで十分堅くなったけど、これからどうするの?」

「と、そうだな……」

 トトリの指摘を受けて俺は『クラーレ』の方を見る。


『きr4¥r3!kjれ0れ!k、rf@rf!!klrt^rt!!kkrr--rr!!!』

 どうやら既に『クラーレ』の言語能力は完全に失われているらしい。

 何を言っているのか全く理解できない。

 だが、言語能力、加えて思考能力と引き換えに攻撃能力が高まっている事は間違いなく、『クラーレ』が放つ石柱群の密度はどの方向に対しても凄まじい密度となっており、どの方向から接近するにしても、かなり厳しそうだった。

 おまけに、眼孔部分では光が……戦いの最初にも放たれた光線を放つための準備が着々と進められていた。


「…………」

 俺は僅かな間だけ、どうすれば確実に『クラーレ』を仕留めることが出来るかを考える。


「これが一番確実か」

「ハル君?」

「ハル?」

 そうして思いついた方法は複数あったが、本当に確実だと言えるのはたった一種類だった。

 故に俺は二人にこう言う。


「二人とも、少しの間だけでいい。俺の事を守ってくれ」


「「……」」

 俺の発言に二人は一瞬固まる。


「分かったよハル君。任せて!」

「ハルがやりたい事に集中できるようにするから、任せな!」

 だが、直ぐに俺の事を守るべく動き出してくれた。


「さて……」

 なら俺も、二人の期待に応えるべく、全力で準備をするとしよう。

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