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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第4章【威風堂々なる前後】
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第236話「M4-10」

『『『滅びよ滅びよ滅びよ……』』』

 『クラーレ』はこちらを向いたまま、まだ動かない。

 いや、これはまだ身体の組み換えが終わっていないだけだな。

 俺たちの側から見えない部分で、何かをしている気配がある。


「よし。やってみるか。二人共ちょっとの間じっとしていてくれ」

「ハル君?」

「ハル?」

 俺は二人から少し離れると、『クラーレ』の様子を窺いつつ、両手の上に大量の瘴気と物質……それこそ箱の外では決して得られないような量の瘴気と物質を生成するイメージをする。


『体内と周辺の魔力、物質、状況を走査します。状況把握。特殊な環境に居る事を確認。魔力、物質、共に限界量まで生成します』

 それだけでこの世界は俺のイメージ通りに大量の瘴気と物質を生み出す。

 これだけの量の瘴気と物質を生み出して何をするのか?

 そんなもの決まっている。


『ユーザーからのオーダーを受理。オーダーに従って最大出力(マキシマム)モードにて起動をします』

 相手がデカいのなら、それだけこちらも大きな得物を用意する必要が有る。


「ふんぬぬぬぬぬ……」

「これって……」

「なるほど……ね」

 そもそも、普段俺が通常出力として扱っている【堅牢なる左】だが、あれは人間である俺の大きさに合せたものであり、本来の俺の大きさに合わせるのであれば……エイリアスさんの絵に描かれているように、もっと巨大な物となるはずなのだ。

 そして、生物の身体と言うのは、全体で均衡が取れているものである。

 それはイヴ・リブラ博士に造られた俺も変わらない。


「ふん!」

 つまりだ。


「これが本来のハルってわけだ」

 【堅牢なる(フォートレス)(レフト)】はそれこそ100mオーバーのビル一つをそのまま腕にしたような太さと長さを持った腕になる。

 【苛烈なる(アサルト)(ライト)】はまだ不完全だが、それでも四本の短剣を核として、巨大かつ強靭なな爪を形成、左腕と同程度の長さを持った腕になる。


「これが本来のハル君……」

 【不抜なる(フィックスド)(アンダー)】もビルのように太くて長く、けれどよくしなる尾を生成。

 加えて、腕と比べたら遥かに短いが、虚空すら足場にして、俺の身体を支える力場を形成する役割を持つ両脚を作り出す。


「きゃっ!?」

「と、アタシらを安全圏に入れるみたいだね」

 そして、これらの肉体を繋げるように、【堂々なる(レストア)(フロント)】も黒い鱗に覆われた巨大な肉体を形成。

 その際には、胸部の部分へ特に高い強度を有する鱗を集め、瘴巨人のコクピット部分のようにし、トトリとワンスの二人をその空間に移動させる。


『『『汚らわしい。汚らわしい!汚らわしい!!』』』

 これで四肢と胴体部は出来上がった。


『『『紅き星の穢れを集め、己が血肉とするなど、なんとおぞましき行い!貴様はやはり滅ぼさなければならぬ!!』』』

 そして、胴体部が出来上がると同時に、【威風なる後】が俺の背後に向かって黒い鱗に覆われた骨組みを伸ばしていく。

 完全に伸びきったところで張られるのは、瘴気をそのまま圧縮、固形化した紫色の薄幕。

 機動力もこれで十分に確保出来るだろう。

 と同時に、頭についても、エイリアスさんの絵を元に外見だけを真似して作っておく。


『『『滅べ!滅べ!滅べ!!我が楽園に貴様の領域は無い!!』』』

「ハル君!」

「ハル!」

 と、俺の身体が出来上がったのと同時に、『クラーレ』の眼孔部分に白い光が集まっていく。

 その光の正体は膨大な量……それこそダイオークス程度なら、一瞬で蒸発させられるような量のエネルギーだ。


「間に合ったから、心配しなくても大丈夫だ」

『滅びろおおぉぉ!!』

 太い太い光線と言う形で、『クラーレ』の眼孔に集まったエネルギーが俺たちに向かって射出される。

 それは、通常出力版の【堅牢なる左】では間違っても受けられず、【威風なる後】で避けることも叶わない大きさの攻撃。

 圧倒的な暴力の奔流だ。

 だが……


「ふん!」

『何!?』

 俺の【堅牢なる左】と『クラーレ』の光線が正面からぶつかり合う。


「凄い……」

「どっちも桁違いだね」

 お互いの力が鍔ぜり合った時間がどれほどなのかは分からない。

 分からないが……


「はっ!」

『何……だと……!?』

 『クラーレ』の光線の力が僅かに弱まった瞬間に俺が【堅牢なる左】を一振りすると、【堅牢なる左】の力場に押され、『クラーレ』の光線は細かくちぎれて消え去っていく。


「『クラーレ』」

『ぐっ……』

 だがそう、今の俺ならば十分に抗い、戦うことが出来る。

 それこそ、人の身から見れば、神としか称しようのない存在があってでもだ。


「ハル」

「分かってる」

 尤も、この場における俺たちの目的は『クラーレ』を倒す事ではない。

 この世界から脱出する事だ。

 その事を忘れてはいけない。


「今ならまだお互いに矛は引けるぞ」

 だから俺は『クラーレ』に向かって真っ直ぐに左腕を伸ばしつつ宣言する。

 まだ間に合うと。

 ただまあ……


「俺たちがこの世界から去るのを黙って見ていろ。そうすれば、お前はこれからも楽園の王様だ」

『穢れの塊が私に向かって話しかけるなぁ!!』

 今までの会話の内容からして、倒さずに退けるとも思っていないわけだが。

10/13誤字訂正

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