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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第4章【威風堂々なる前後】
233/343

第233話「M4-7」

 その後、通報によって駆けつけたトキシードの治安維持部隊に誘拐未遂の現行犯と言う事で男たちを引き渡すと、護衛の追加が来たところでエイリアスを連れ、フィーファたちは箱が置かれている隔離実験室へと向かう。

 勿論、誘拐の被害者であるエイリアスを連れて行くのは色々と問題があったのだが……


「申し訳ありません。こちらも火急の事態なのです。後日必ず現場検証や事情聴取などは受けますので、今日の所はよろしくお願いします」

「教皇陛下のお求めとあらば、仕方がないですね。上の許可も出ましたので、どうぞお行き下さい」

「感謝いたします」

 そこは最高権力者の力によって、無理矢理ではあるが、問題は解決される。

 なお、仮にここでエイリアスが重傷と言えるほどの傷が負っていた場合、直行する先は隔離実験室では無く、病院だったわけだが、それは緊急性や所属する都市などを総合して考えれば、当然の判断だと言えるだろう。

 実際にはエイリアスは傷一つ負っていないので、杞憂以外の何物でもないのだが。


「それでエイリアスさん」

「何なのね?」

 で、隔離実験室に向かう道すがら。


「メラルドの絵を盗もうとした上に、貴女を誘拐しようとしたあの男たちは一体何者なのですか?」

 フィーファは万が一の事態を考えて、エイリアスに一つの質問をする。

 これは、男たちの素性次第では、同時多発的に状況が進行している可能性を考えての事であった。


「うーん、私にもよく分からないのね」

「分からない?『真眼』の持ち主である貴女がですか?」

 だが、エイリアスの口から出てきたのは、フィーファが期待するような言葉では無かった。


「そうなのね。普通なら、誰かの指示を受けて動いた悪党なら、醜いその姿の後ろに糸を引いている別の人影が見えるのね。けど、あいつ等にはそれが見えなかったのね」

「つまり組織犯ではないと?」

 フィーファの言葉にエイリアスは首を横に振る。


「組織犯なのは間違いないのね。鎖みたいなものが身体に絡み付いて、何処かに伸びているのは見えたし、全員似た様な姿だったのね」

「……」

「おまけに、あいつ等からは何故か黒ドラゴンの気配がしたのね。そのせいで、良くない物だと気づくのに遅れて、逃げ損ねたのね」

「何?」

「え?」

「ハル様の気配?」

「それは……どういう事ですか?」

 そして、続けて発せられた言葉にその場に居る全員が怪訝な顔をする。

 と言うのも、エイリアスの『真眼』の精度はかなり高い事は、この数日の付き合いでナイチェルたちダイオークス側にも分かっている事である。

 その『真眼』を通して見た結果としてエイリアスはハルの事を黒ドラゴンと呼び……その際には初めて見たとも言っている。

 そんなハルと同じ気配を持った人間が別に……しかも複数存在していると言うのは、俄かには信じがたい事だったのだ。


「どうもこうも、そのままの意味なのね」

「ロノヲニト様。何か思い当たる節などは?」

「いや、我にもまるで理由が分からない。我が知る限りではハルハノイにはそんな能力は無いし、当然我にもそんな能力は備わっていない。そもそも、エイリアスの『真眼』を騙せるとなれば、それはもう完全に同一の存在と言う事になるはずだ」

 ナイチェルの求めに応じて、ロノヲニトが自らの知識を開示するが、分からないと言う結論は変わらない。


「それでは一体……」

「分からない。分からないが……この件はハルが目覚め次第、しっかりと調べるべきだと思う。放置しておくには大き過ぎる問題だ」

「そうですね。そうしましょうか」

 本音を言えば、誰もが事の真相を明らかにしたいとは考えていた。

 だが、今の彼女たちにはそれ以上にやらなければならない事が有ったため、この場ではこれ以上の追求が行われることは無かった。


「帰って来たか」

「ああ」

 やがて、フィーファたちは隔離実験室に着き、静かに入室する。


「フィーファ!大丈夫でしたか!?」

「はい、大丈夫です。ダイオークスの皆さんのおかげで何ともありません」

 誘拐未遂が有ったと言う事で心配していたのか、エタナールがフィーファの事を抱きしめ、心配そうにする。

 傍目には姉妹が抱擁し合っているようにしか見えないが……この場でそれを口に出すのは野暮と言う物だろう。


「それでこちらの状況はどうなっていますか?」

「殆ど変わらずなのじゃ。まあ、今のハルたちが夢を見ている状態に近いと分かったのが、唯一の収穫と言えるのじゃ」

「夢……ですか」

 そして、その隣でトゥリエ教授がナイチェルたちに現在判明している情報を開示するが、それは状況を打開するためにはあまり芳しい情報とは言えないものだった。


「えと、それでエイリアスさんは……」

「えーと……あ、もう絵を描き始めているね」

 となれば、やはり頼みの綱は『真眼』の保有者であるエイリアス・ティル・ヤクウィードにある。

 そう考え、部屋の中に居る全員の目がエイリアスと、エイリアスの描く絵に向けられる。


「これは……」

 エイリアスが描いている絵は……


「クラーレ儀とハル様たち?」

 この世界の地理を表した球体……地球儀ならぬクラーレ儀と黒いドラゴン(ハル)鳥の集合体(トトリ)(ワンス)が相対している絵だった。

10/11誤字訂正

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