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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第4章【威風堂々なる前後】
231/343

第231話「M4-5」

「「「……」」」

 俺たちはしばらくの間、丘の上を目指すように緑の芝生の上を歩き続けた。

 そして丘の上に着いた時点で、俺たちは嫌でもその事実に気づく事となった。


「なるほど。ここは人間が文明を築き始める前の世界を模していると言うわけか」

「模している。と言っても、かなり劣化しているけどね」

「うん。造り物って感じしかしないよね」

 それはこの世界があの箱の中にある虚構の世界であると言う事実。


「波の音は繰り返しで、波の形も同じパターンを続けているだけだね」

 海に意識をやれば、白波が立つと同時に、俺たちの耳に届くほどの波音が聞こえてくる。

 だが、それは単一のパターンを繰り返しているだけだった。


「風もそうだね。同じタイミングで、同じ強さの風が吹いてるだけ」

 皮膚を撫で、周囲の芝生を揺らす風もそう。

 何度吹いても、同じ方向、強さの風であり、本来の世界に在る乱雑さや乱れと言う物はまるで存在していない。


「おまけに、あらゆる生命は存在しない。と」

 そして、俺たちの耳に聞こえてくる音は自分たちの声を除けば、その二つしかなかった。

 これだけの自然が有るのならば、鳥が鳴き、獣が嘶き、虫が跳ね、草木がざわめく程度の音は絶対に存在しているはずなのにだ。


「何と言うか、中途半端に良く出来ているせいで、余計に気味が悪いね」

「うんそうだね。まるで、誰か一人のイメージだけで造られた世界の様な雰囲気を感じる」

「ま、とりあえずこの世界を作った奴がイヴ・リブラ博士で無い事は確かだな。あまりにも稚拙すぎる」

「まあ、その点は間違いないだろうね」

「じゃあ誰がって言う別の謎が浮かんじゃうけどね」

 俺たちは周囲を見渡して、次の目標物になるような物が無いかを探しながら、意見を交わす。

 ちなみに、イヴ・リブラ博士がこの場を造ったのではないと考えたのは、出来もそうだが、この世界からは遊びとなる部分や、他人が入り込む余地と言った物が感じられなかったからである。

 そのイヴ・リブラ博士に造られた存在である俺が言うのも何だが、仮にイヴ・リブラ博士がこの世界を作ったのならば……うん、もっとカオスな状況になっているはずだ。


「周囲に目標になりそうなものは無いね」

「そうだね。何も無い」

 で、次に向かう先なのだが……うん、二人の言うとおり、まるで見当たらないな。


「しょうがないな」

「ハル君?」

「ハル?」

 俺は自分の中に意識を集中させる。


『感情値の閾値突破を確認しました。プログラム・ハルハノイOSを起動します』

 ここは最初の部屋に在ったメッセージの通り、現実と虚構の境界線上に有る。


「二人ともちょっと待ってろ」

「「……」」

 そして、この空間を作った存在が居る事から分かるように、この場は何かしらの方法でもって個人個人にとって都合のいいように調整できるようになっている。たぶん。

 となれば、この世界を収めている箱と製作者が同じである俺にも幾らか操る事が出来ると思うのだが……


『体内と周辺の魔力、物質、状況を走査します。状況把握。特殊な環境に居る事を確認。魔力、物質、共に必要量だけ生成可能。ユーザーからのオーダーを受理。オーダーに従って低出力(ローパワー)モードと通常(ノーマル)モードにて別々に起動をします』

 うん。出来たな。


「二人とも、多少衝撃が有るかもしれないから、身構えておいてくれ」

「分かったよ」

「うん。分かった」

 俺は二人に注意を促す声をかけつつ、再度集中。


『プログラム【威風なる(プレッシャー)(バック)】、【堂々なる(レストア)(フロント)】Ver.Lの起動準備完了』

「【威風なる後】【堂々なる前】……」

 そして、十分に集中力が高まったところで……


「起動!」

『【威風なる(プレッシャー)(バック)】【堂々なる(レストア)(フロント)】Ver.L起動』

「キャッ!?」

「うわっ!?」

 俺は【威風なる後】と【堂々なる前】を起動。

 俺の背中から黒い鱗の骨組みと紫色の薄膜を持った蝙蝠の羽が生えると同時に、俺たちの体を支えるように圧力が生じ、その身を宙に浮かす。

 そして、トトリたちの目には見えていないだろうが、俺の前に胸の部分を守る鎧のようなものが生じ、俺たちに風が当たらないようにしたところで、ゆっくりと空中をスライドするように移動し始める。


「ハル。これって……」

「ああ、俺の新しい力だ。と言っても、現実ではまだ使った事が無いから、本物とは微妙に違っている部分もあるかもしれないがな」

「へぇ……ところで、なんで御姫様抱っこっぽく感じる持ち方なの?」

「あー……一番イメージしやすかったのがそれだったんだよ」

 俺は【威風なる後】と【堂々なる前】がきちんと発動しているかを、意識を集中する事によって確かめる。

 ……。うん、大丈夫そうだな。

 【威風なる後】の能力は俺の指定した場所に圧力を生じさせるもので、これを使えば俺以外の人間も含めて、空を飛んだりする事が出来ると考えていたんだが、どうやらうまくいったらしい。

 で、【堂々なる前】だが……実を言えば、今の風防の様な使い方は本来の使い方では無かったりする。

 まあ、別にいいだろう。

 大切なのは、二人を風に晒さない事だしな。


「じゃ、とりあえず何かが見つかるまで、飛び続けてみるから、二人も何かを見つけたら教えてくれ」

「うん。分かった」

「了解だよ」

 そして俺は【威風なる後】を操って、空を飛び始めた。

10/08誤字訂正

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