第230話「M4-4」
一方その頃。
「トト……」
「ワンスさ……」
「全員近づくな!」
「触るなミスリ!」
箱の外ではロノヲニトとシーザの二人が、ハルに触れて倒れたトトリとワンスに駆け寄ろうとしていたセブとミスリの二人を引き止め、箱が置かれている部屋の外に引きずり出している所だった。
「ロノヲニト。何が起きているか分かるか?」
「詳しい事は何も。ただ、ハルハノイたちの呼吸などに乱れはないようだ」
そして、箱の置かれている部屋にハルたち以外の人影が無くなったところで、ロノヲニトはハルたちを観察。
少なくとも、肉体的なダメージは無い事を確認する。
「ふむ。となると、ハルは今肉体的には眠っている。と言う事で良さそうじゃな」
「そして、トトリ様とワンス様がそうであるように、ハル様をあの立方体から引き剥がそうとすれば、強制的に眠らされると。厄介ですね」
「眠らされるだけならまだいい。あの立方体はエブリラ様が造られたものだからな……ハルハノイ以外に対してはもっと危険な何かが仕込まれていてもおかしくはない」
箱を観察する側の部屋に居る面々の表情は硬い。
だが、そんな顔をしなければならない程に隣の部屋に在る金属製の箱の力は問題だった。
ハルが箱に短剣を挿し込んだ直後に眠りに落ちた事はまだいい。
ハルが短剣を挿し込まなければ箱の装置が起動しなかった事、箱の製造者が『神喰らい』エブリラ=エクリプスである事、そして『神喰らい』の計画にハルが深く関わっている事を合せて考えれば、ハルの身に危険が及ぶ可能性は低いのだから。
だが、それは裏を返せば、ハルを箱から引き剥がそうとして眠らされたトトリたちについては一切の安全が保障されていないと言う事である。
そして、トトリたちが眠らされた原因から考えれば……
「つまり、棒か何かを使って、ハルたちの身体に直接触れず引き剥がそうとしても……」
「良くて昏倒。トトリたちへの対応が警告としての意味も持たせているのなら、もっと危険な何かが起きてもおかしくはないだろう。と言うか、我がエブリラ様なら、それぐらいの仕掛けは仕込んでおく」
迂闊にトトリたちに触れれば、二次三次と被害が起きる可能性は高かった。
「そ、そんな……それじゃあどうすれば……」
「ハル様たちが自然に目覚めるのを待つしかないの……?」
セブとミスリが悲壮な顔をする。
「いや、吾輩たちにも出来る事は有るはずなのじゃ。ただそれには、あの立方体について少しでも多くの情報を集める必要が有るのじゃ」
そう言うとトゥリエ教授は今までずっと口を開かなかった二人の方を向く。
「今、娘に連絡を取りました。今こちらに来ていますので、もう少しお待ちください」
「私の方もアーピトキアに連絡を取って、立方体について分かっている事が無いかを確かめてみるとしよう」
「よろしく頼むのじゃ」
トゥリエ教授の視線の先に居た二人……ボウツ・リヌス・トキシードの実質的最高権力者であるエタナール・ファイ・プリエス・アグナトーラスと、アーピトキアの要人警護部隊に所属するヴェスパ・ホネトスは、それだけで自分たちに何が求められているのかを察し、それぞれにやるべき事をやっていた。
「いえ、これは人として当然の務めですから」
「この立方体は元々アーピトキアで発見されたものだからな。私が見て見ぬふりをするわけにはいかないだろう」
「感謝する」
シーザが第32小隊の代表として頭を下げ、二人はにこやかな顔で会釈を返す。
「では、エイリアスと『アーピトキア』の資料が来るまでの間、立方体の機能が発揮されないように気を付けつつ、吾輩たちでも調べられるだけ調べておくのじゃ」
「手伝います」
「分かりました。此処にある機器について、お教えしましょう」
トゥリエ教授とミスリの二人は、箱について調べるべく、部屋の中にある機器や今すぐ持ってこられる機器についての説明を研究員から受け始める。
「シーザさん」
「なんですか?教皇陛下」
「エイリアス・ティル・ヤクウィードを呼ぶのは良いのですが、恐らく今の彼女は仕事中です。となれば娘だけをやっても反応しない可能性が有ります。なので……」
「なるほど。そう言う事なら……そうだな。ロノヲニト、ナイチェル。お前たち二人もフィーファ・エタナ・アグナトーラスに同行し、エイリアスを連れて来るのに協力しろ」
「分かった」
「分かりました」
そして、シーザの言葉にロノヲニトとナイチェルは頷いて返し、部屋の外に出て行こうとする。
その時だった。
「あの、僕もナイチェルたちの方に付いて行っていいですか?」
セブが声を上げ、ナイチェルたちに同行することを求めたのは。
「ん?セブか……そうだな。説得できる人間は多い方が良いだろう。二人ともいいか?」
「そうですね。その方が良いと思います」
「問題ない」
「ありがとうございます」
シーザもナイチェルたちもセブの意見に同意すると、急ぎ足で部屋の外に出ていく。
「さて、何か手がかりが掴めればいいんだが……」
そう言うシーザの視線の先では、箱に寄りかかるようにハルたち三人が眠っていた。
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