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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第4章【威風堂々なる前後】
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第228話「M4-2」

「ここは……いつもの部屋か」

 気が付けば、俺はいつものアタッシュケースが置かれている部屋に居た。

 ただ……


「いや、違うな。いつもの階段を経ていない上に、違う点が幾つもある」

 部屋の中を見渡した結果として、俺はいつもの部屋との相違点をいくつも見出す。

 それは例えば本棚の中身。

 いつもの部屋ならば空っぽな棚の中には、ぎっしりと……それこそ入りきらない本が棚の前や上に平積みされるほどの量の本が入っていた。

 例えば執務机の上。

 いつもならアタッシュケースが置かれているそこには、既に起動済みなパソコンが置かれており、何かのファイルが表示されていた。

 例えば部屋の四方の壁。

 いつもならただの壁であるそこには、血のように紅いペンキで、俺たち……トトリたちの世界の言語を使った文章が書かれていた。


「意味は……いつもよりかは分かり易いか」

 文章は四方の壁に一文ずつ分けられて書かれていた。

 なので、俺は正面の壁から時計回りの順で読んでいく。

 文章はこうだ。


『ここは世界(アウター)()外側(ワールド)

『ここは現実と虚構の境界線上』

『ここは『箱舟(アーク)』の『守護者(ガーディアン)』が知らぬ場所』

『ここは箱の内側にして箱の中ではない』


 まあ、普段よりかは分かり易い。

 翻訳機能が妙なルビを付けている感覚はあるが、それでも普段よりかは遥かに分かり易いし、こちらをおちょくる気配も無い。

 そして、文章を額面通りに受け取るのならばだ。


「つまり此処はさっき俺が短剣を挿し込んだ箱の中。この箱の中は『守護者』……恐らくは『虚空還し』の能力が及ばない場所。現実と虚構の境界線上ってのは……俺の肉体では無く精神だけを箱の中に飛ばしているって事か?だから、『世界の外側』……と」

 こういう事になる。


「……。一度外に出た後、トトリたちを連れてもう一度中に入れるなら、その有用性は桁違いの物になりそうだな……」

 その結論に、俺はこの中でならば、メラルドの絵を見て気付いたが、ロノヲニトが『虚空還し』を警戒して喋るなと言った事柄について話し合えるのかを少し考える。

 で、考えた結論としては可能だろうと判断する。

 まあ、元の世界に戻る為の方法含めて、問題点が幾つも存在しているが。


「さて、それじゃあ、出口を出すためにもこのパソコンの中身をとっとと見てしまうか」

 俺は執務机の上に置かれているパソコンに近づく。

 今までの部屋……と言うより、最初の部屋と同じならば、この部屋でやるべき事を全てやり終えれば出口が開くはずである。

 見た限りでは現状出口は何処にもないし、時間が経てば勝手に出られるとかも無いだろうしな。


「ファイル名は……『Halhanoy5.txt』か」

 パソコンに表示されていたファイルはただ一つ。

 『Halhanoy5.txt』だけだった。

 まず間違いなく、俺に新たな能力を与える為のものだろう。


「さて……」

 正直、時間的な関係で昨日手に入れたばかりの能力を試す暇も無かったのに、新たな能力を得ると言うのはどうかと思うんだが……まあ、こうやって用意されている以上は得る他に選択肢はない。


「ん?」

 そうして既に表示されているデータに目を通そうとした瞬間だった。


「うおっ!?なんだこれ!?」

 パソコンの画面から文字と記号が細い紐のようになって飛び出してくると、俺の右腕に絡み付いてくる。


「っつ!?そうか!ここが精神世界だからか!?」

 絡み付いた記号の正体はパソコン上に表示されていたデータ……いや、データが飛び出し、俺の右腕に溶け込むのと同時にパソコン自体の存在感が薄れ、向こう側が透けて見えることを考えれば、パソコン自体が『Halhanoy5.txt』と言うデータだったのだろう。

 そして、そんな事が可能なのはここが現実と虚構の境界線上……つまり基本的には現実に則していつつも、夢の中かのような突拍子の無い現象を引き起こす事が出来る場としてここが作られているからだろう。


「……」

 だがそう言う場なのだと理解すれば、俺にも今身体の中に入って来ているデータが異物として排除すべき物なのか、新たな力として受け入れるべきなのかぐらいは判断が出来るだろう。

 なにせ、これが俺の新たな力であるのならば、それは俺の肉体の一部であり、生物の肉体には自らの意に沿わぬ異物を排除するための機構が備わっているのだから。


「問題は……」

 やがてパソコンは完全に消え去り、最後のデータ片が右腕の中に取り込まれる。


「無さそうだな」

 体に異常はない。

 新たな力は……うん、備わっている。

 使い方もはっきりしているし、問題は無さそうだ。


『ピピッ』

「開いたか」

 俺の背後で電子音がする。

 すると、今まで壁以外に何も無かったはずの場所に、開かれた状態の金属製の扉が出現し、その先には通路のような物が広がっていた。


「よし、行ってみるか」

 この場に居ても仕方がない。

 そう判断した俺は出現した扉に向かって歩き出そうとする。

 その瞬間だった。


「きゃっ!?」

「ハル!?」

「なっ!!?」

 唐突に虚空からトトリとワンスの二人が現れたかと思えば、現れた勢いのまま俺にぶつかって来たのは。

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