表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第4章【威風堂々なる前後】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

227/343

第227話「M4-1」

「こちらです」

 翌日。

 俺たち第32小隊は『アーピトキア』で見つかった謎の金属製立方体が保管、調査されている場所に招かれた。

 部屋はロノヲニトの事情聴取を行ったダイオークスの隔離実験室に似ており、透明なガラスの向こう側には例の立方体が置かれている。

 予定では、この後、この前見つけた短剣を挿し込んでみるのだが……


「では、例の短剣を試す前に、『ダイオークス』の皆様が発見された物について幾つか分かった事が有りますので、そちらを先に説明させてもらってもよろしいでしょうか?」

「分かったのじゃ」

「ああ、よろしく頼む」

 どうやら先に済ませるべき案件が有るらしい。


「まず数字と記号が羅列された書類についてですが、こちらは16進数を表しているものだと判明しました」

「ふむ。つまりは何かしらのデータを暗号化したものと言うわけじゃな」

「そう言う事になります」

「「「?」」」

 トキシード側の研究者の話が良く分からなかったのでミスリさんに尋ねたところ、パソコンのデータと言う物は全てが0と1、二つの数字で表されているらしい。

 が、流石に0と1だけでは文章が長くなりすぎる上に、2進数の暗号だとバレバレなので、16と言う2の4乗……要は変換しやすい形に変え、圧縮したとかなんとか。

 まあ、早い話が、アレはパソコンのデータをほぼそのままの形で紙面上に起こした物との事だった。


「ただ、どういう形式のデータなのかがまだ分かっていませんので、もうしばらく解析には時間がかかる思われます」

「なるほど。そう言う事なら、今後もよろしく頼むのじゃ」

 で、どういう暗号かは分かったが、どう解けばいいのかはまだ分からないので、書類の中身が判明するまでにはもうしばらくかかると。

 うん、俺には手を出せない分野だし、素直に待つ事にしよう。


「それでUSBメモリは……あー、有ったんですよね?」

「有りました。で、もう見ました」

「あ、はい。なら大丈夫です」

 USBメモリについてはある意味いつも通りである。

 俺以外の誰の記憶にも残っていない。

 まあ、確認は取っていないので、もしかしたら誰かの記憶には残っているのかもしれないが。


「ゴホン。では最後に短剣についてですが、こちらは今までの物と同じく複数の金属を原子単位で組み合わせた物のようです」

「ふむ」

 短剣についても取り立てて変化は無しと。

 強いて言うなら、刃に施された装飾が蝙蝠だったぐらいか。


「それで、あー……実を言いますと、こちらの研究員の一人が先走ってしまった結果として、一つ新たに分かった事が有ります」

「先走っただと?」

 だが話はそこで終わらなかった。

 トキシードの研究員さんが申し訳なさそうに口を開く。


「はい。研究員の一人が例の立方体へ勝手に短剣を挿し込んでしまったのです」

「「「……」」」

「その結果、立方体内に明らかな重心変化が認められました。が、それだけでした。立方体が開いて中身が取り出せるなどの変化は起きませんでした」

「どういう事だい?」

「どうやらこの短剣を鍵として用いる場合は、短剣自身だけでなく、短剣を持っている人間も鍵の一部として扱われているようなのです。その理屈については生体電流に脈拍などが考えれますが……まあ、この場では置いておきましょう」

 トキシードの研究員が先走ったのは問題だろう。

 が、そのおかげで新たな事実が分かったわけだし……うーむ、微妙な所だな。

 まあとにかくだ。


「重要なのは、ハル・ハノイ様以外が鍵としてこの短剣を扱う事は出来ないであろうと言う点です」

 俺以外が持っていてもあの短剣は頑丈な武器以上の意味はないと言う事だ。


「そう言うわけですので……」

「と、間に合ったか」

「湯盾に教皇様。それにヴェスパさんも」

 と、ここで湯盾たちが部屋の中に入ってくる。


「これはこれは、教皇陛下。ようこそお越し下さいました。既に説明は始めてしまっておりますが……」

「そのまま続けて構いません。私はこの目で『アーピトキア』の立方体の正体を確かめに来ただけですから」

「私も、アーピトキアの人間で一人ぐらいは直接見ておくべきだと判断して失礼させて貰った。問題は無いか?」

「全く問題はございません。ささ、どうぞこちらへ」

 研究員さんは若干緊張した面持ちで教皇様とヴェスパさんを例の立方体が一番よく見える位置へと案内する。


「羽井。例の件を、『春夏冬』に話した。お前は?」

「俺もトトリには話した。しかしこの場に出て来ないってことは……」

「落ち込んでいるよ。まあ、青凪たちが付いているから、問題はないと思う」

「分かった」

 で、その間に例の件……先生と先立の話がどうなったのかについて、湯盾と話しておく。

 まあ、結果は予想通りだったわけだが。


「ごほん、それでは改めまして。これからハル・ハノイ様に短剣を渡しますので、試してもらってもよろしいでしょうか?」

「分かった」

 俺は研究員さんから短剣を受け取ると、隔離された部屋の中に入る。

 部屋の中には殆ど何も無い。

 例の立方体の他には、死角が無いように配置された監視カメラと照明が数台あるぐらいだ。


「ふぅ……」

 俺は立方体に近づくと、短剣の差込口を露わにする。


「じゃ、やります」

『お願いします』

 そして右手に持った短剣を例の立方体に挿し込んだ。


「おうっ!?」

 するとその瞬間……


「ハル!?」

「ハルく……」

 俺の意識はまるで眠りに就くように、または奈落に落ちるように、何処かへ向かって落ちていった。

10/04誤字訂正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ