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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第4章【威風堂々なる前後】

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第225話「トキシード-17」

「お招き感謝します。教皇様」

「そう言っていただけると、私も嬉しいですわ。どうぞこちらへ」

「分かったのじゃ」

 夜。

 俺たちは『春夏冬(ノーオータム)』のライブを見るべく、ライブ会場が一望できるVIPルームにやって来ていた。


「それにしても、私たちが同室でよろしかったのですか?」

「何の問題もありません。それどころか、今後の我らがトキシードと『ダイオークス』の関係を考えたら、貴方方を優先するのは当然の事です」

 で、俺たちが招かれたVIPルームの中だが、俺たちに付く人たちだけでなく、何故か教皇様と湯盾たちも居た。

 教皇様の言葉を聞く限りではダイオークスとの付き合いを優先させたような雰囲気だが……うん、湯盾たちの周囲を警戒する様子を見ている限り、面倒な相手もいるらしい。


「それでその……シーザ・タクトスさんはどうしてあのような状態に?」

「あー……」

 と、ここで教皇様の目が部屋の隅の方に向く。


「ポンコツ……ポンコツって……」

「お、お姉ちゃん。お姉ちゃんは戦闘専門なんだから問題ないって……」

 視線の先に在ったのは、何かに打ちひしがれたシーザと、そんなシーザを励まそうとするミスリの姿。

 まあ、確かに気にはなるよなぁ……うん。

 事情ぐらいはきちんと説明しておくか。


「エイリアスさんに皆の絵を描いてもらってですね……」

 と言うわけで、俺がUSBメモリの中身を見ている間に在った出来事について教皇様に話しておく。


 まず、エイリアスさんはナイチェルの求め通り『真眼』で見たままに昨日描かれなかった残り全員の絵を描いた。

 で、絵の内容だが……


 トゥリエ教授はメカメカしい角を持った黒い毛皮の一角獣。

 ナイチェルは片手にランタンを持った姿。

 セブは沢山のヒマワリを持った姿。

 ミスリはスパナを始めとした各種工具を持った姿。


 でまあ、ここまでは良かったのだが……シーザさんを描いた絵が……ね。


「片手に剣を持ち、頭に外れかかった四本のネジが刺さった絵だったんです。それでネジについて説明を求めたら……」

「求めたら……?」

「『私は見たままに描いただけなのね。ポンコツ』と、エイリアスさんに言われたそうです」

「……」

 教皇様が絶句している。

 いやまあ、気持ちは分かる。

 自分の都市の人間が、どう聞いても暴言としか取れない言葉を他の都市の人間に言ったわけだしな。

 うん、絶句だけで済んでいる辺り、教皇様はやっぱり強かだと思います。


「そ、それは大変申し訳な……」

「あー、大丈夫です。謝罪ならもうフィーファさんから受けてますし、ダイオークスとしても第32小隊としても、この件を問題にする事は有りませんから」

「ですが……」

「絵を描いて欲しいと言ったのはこちらですし、エイリアスさんに悪意が無い事は分かっていますから」

 教皇様が頭を下げようとするが、俺は言葉でそれを制すと、問題にしないとはっきり宣言しておく。

 勿論、この決定は俺の独断では無く、ライブ前にダイオークスの上層部に確認を取った上での判断であるため、後で問題になる事も無い……はずである。

 そうでなくとも、エイリアスさんが歯に衣着せないタイプなのは、昨日の時点で分かっていた事ではあるしな。

 この場合は、警戒していなかった俺たちの側にも問題がある。


「なのでまあ、シーザ隊長については気にしないでください。『春夏冬』の歌を聞けば、立ち直ると思うんで」

「は、はぁ……そう……ですか」

 と言うわけで、この件はこれまでにしておくとしよう。

 これ以上は誰にとってもよろしくない。


「で、エイリアスさんの件とは別に一つ気になったんですが……」

「何でしょうか?」

「何だ?」

 俺は話題を変えるべく、教皇様の周囲に立つ湯盾たちの方を見る。


「湯盾。お前たちは席に着かないのか?」

「俺たちは教皇陛下の警護が仕事だからな。座っていたら、いざという時に困る」

「ふうん」

 きちんと椅子が用意されているのに席に着こうとしない湯盾たちの姿を見て、妙に感じていたのだが、どうやら湯盾たちは今も仕事中の扱いらしい。


「本当は別の人員を呼んで、ウリヤさんたちは休みにしても良かったのですけれどね。色々と事情が有って、そう言うわけにも行かなくなってしまったのです」

「はぁ……そうなんですか」

 加えて教皇様のこの言葉。

 これはもしかしなくても、トキシードにも『ノクスソークス』の人間が入り込んでいて、その対応で湯盾たちが所属している聖陽教会教皇直属親衛隊と言う所も動かなくてはいけなくなっている。

 と言ったところか。

 やれやれ、本当に困ったものだ。


「さて、そろそろ始まりますね」

「そうですね」

「ダイオークスの時は警備を優先してたから楽しみだね」

「だね。今日はゆっくり聞けるよ」

 まあ、そんな事はさて置いてだ。

 もうすぐライブが始まると言う事で、俺たちは全員所定の席に着く。

 そして、舞台の幕が上がった。

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