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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第4章【威風堂々なる前後】
224/343

第224話「トキシード-16」

 翌日。

 俺は俺たち第32小隊の為に用意されたホテルの一室で、持ち込んだパソコンを開き、目的の物が届くのを待っていた。


「ふうむ……」

「うーん……」

 トゥリエ教授たち昨日ヤクウィード家に行かなかった面々は、何かを見つけても喋らないようにとの注意を受けた上で、メラルドの絵を検分している。


「ゴニョゴニョ……」

「ゴソゴソ……」

「ボソボソ……」

 ワンス、トトリ、ロノヲニトの三人は俺にも聞こえない声量で何かを話している。

 表情から察するに、ロノヲニトが話を主導しているようだが……うーん?


「ハル様。フィーファ様が到着されました」

「と、来たか」

 と、ここでナイチェルの声が聞こえ、俺は椅子を立ちあがると、声がした方に向かう。


「昨日はご迷惑をおかけいたしました」

「いえいえ。ただ……」

 そこには、小さな箱を持ったフィーファさんとお付きの人二人、案内をしてきたナイチェル、そして何故か……


「どうしてエイリアスさんがここに?」

 エイリアス・ティル・ヤクウィードが一緒に居た。


「えーと……」

「黒ドラゴンにまだ仲間がいると聞いて、見に来たのね!」

 フィーファさんが視線を泳がせ、申し訳なさそうにする中でエイリアスさんは普通の人より多少大きめな胸を張りながら、自信満々な様子でそう言い切る。

 何と言うか……


「お疲れ様です」

 心の底からそう言う他なかった。


「本当にすみません。それでその……絵については、嫌でしたらお断りになっても構いませんが……」

「えーと」

 フィーファさんの言葉に俺は一度ナイチェルの方を見る。


「私たちの作業や会話の邪魔をしない。全員分の絵を描くと言う条件を呑んでもらえるなら、良いと思います。元々今日は夕方までホテルに缶詰めの予定ですし」

「すみません。ありがとうございます」

「やっぱり眼鏡は女神なのね」

 ナイチェルの言葉を受けて、エイリアスさんは部屋の中全体が見渡せる場所……要は部屋の端の方に走っていき、スケッチブックとペンを取り出し、早速絵を描き始める。


「ではハル様。私は皆様に、エイリアス様の事を説明してきます」

「ああ、よろしく」

 で、突然現れたエイリアスさんについて説明するべく、ナイチェルもシーザさんたちの元に向かって歩いていく。

 優先順位の差はトトリたちはもうエイリアスさんを知っているし、来た理由以外は説明しなくても大丈夫だと判断しての事だろうな。


「で、フィーファさん。例の物は?」

「こちらに」

「どうも」

 俺はフィーファさんが持っていた小さな箱を受け取ると、開きっ放しにしておいたパソコンの方に向かう。


「ん、ちゃんと聖地で見つけたUSBメモリだな」

 箱の中身は俺たちが聖地で見つけたUSBメモリであり、いつもの様に赤と青の二色で彩られている。

 で、こうして俺の手元にやって来たことからも分かるように、今回も中身の解析は出来ず、俺が中身を見た後に起こる消去に対応するための対策を可能な限り施すのが限界だったらしい。


「中身は……うん、きちんと『Halhanoy4.txt』だな」

 さて、USBメモリの中身だが、毎度おなじみな『Halhanoy.txt』シリーズ第四弾である。

 一応、軽く冒頭部分に目を通して見たが……うん、間違いなく本物だな。

 相変わらず意味は分からないが、本物である事だけは間違いなさそうだ。


「何の問題もありませんか?」

「ああ大丈夫だ。間違いなく本物だ」

「分かりました。それでは、私たちもエイリアスさんが絵を描き上げるまで、部屋の中で待たせてもらっていますね」

「分かった」

 『Halhanoy4.txt』を読み始めた俺を置いて、フィーファさんが遠ざかっていく。

 そして、それに合わせて俺も集中して『Halhanoy4.txt』を読み始めた。


「さて、次はどんな能力だろうな?」

 俺は期待と不安が入り混じった呟きを漏らしつつ、ファイルの中身を読み解いていった。



■■■■■



 数時間後。


「眠い……」

『プログラム・ハルハノイO(オペレーション)S(システム)のアップデートを完了しました。事前規定手順に従って、以後の各種処理を行います』

 ハルはそう呟くと、自らの頭の中で聞こえる声を気にした様子も無く、その場で横になる。


「すーすー……」

「もうハル君てば、そんなところで寝たら風邪引くよ?」

「パソコンも開きっ放しだね。アタシたちで片づけておこうか」

 そして、ハルが眠りに就くと同時に、それまで確かにそこに存在していたUSBメモリの姿が虚空へと掻き消え、それに合わせて各個人の記憶からも、USBメモリの存在が掻き消されていく。

 そこに例外は無い。

 人も獣も、機械すらも忘れていき、ハル以外は全員最初からそんなものは存在しなかったかのように記憶が改変されていく。

 はずだった。


「むー……」

「流石はエブリラ様と言ったところか……」

「凄く珍しい物を見たのね……」

 そう、今までと違い、この場には例外が二人居た。

 だが例外と言っても、ロノヲニトはハルと同じく『神喰らい』エブリラ=エクリプスに造り出された存在である。

 なので、忘れないのはある意味当然だった。

 問題はもう一人の例外……エイリアス・ティル・ヤクウィード。

 彼女は『真眼』によって何が起きていたのかをはっきりと捉えていた。

 そのために、USBメモリの側も、彼女の記憶に手出しする事は出来なかった。

 そう、彼女の記憶に触れることによって、自らの仕組みが解読され、対策を立てられてしまう事を懸念したのだった。


『処理、完了しました。一度シャットダウンした後に、適応を致します……』

「ライブまで後何時間だっけ?」

「後三時間だから……一時間は寝かせられると思います」

 その判断が正しかったかは、今はまだ分からない。

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