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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第4章【威風堂々なる前後】
221/343

第221話「トキシード-13」

「フィーファ様。準備完了しました」

「ありがとうございます」

 さて、メラルド・エタス・ヤクウィードの絵の準備が整ったらしい。

 布で隠されているが、既に並の絵とは違う存在感が漂ってきている。


「さて、それでは時系列順にメラルド・エタス・ヤクウィードの絵を見ていきましょうか」

 端のイーゼルに架けられていた布が取られる。


「まずはメラルドが絵を描き始めた頃の絵です」

「普通……ではないね」

「そうですね。既に普通の人が描いた絵とは伝わってくる物が違っています」

 その下から現れたのは、技術的には素人目にも拙いと言えてしまうレベルの二枚の絵だった。


「瘴気が発生する前の外と、イクス・リープスの演説か」

 だが、技術的にはまだまだである事は明らかなのに、どちらの絵も既にその存在感は圧倒的な物であり、仮に普通の画家の絵を横で飾ってしまったりすれば、その画家の絵には誰も見向きしないと言い切れてしまう程の存在感が有った。


「既に御知りかもしれませんが、メラルド・エタス・ヤクウィードは晩年に絵を描き始めました人物です」

 次の絵の布が取られる。

 そこから出てきたのは、先程と同じ瘴気が発生する前の外の風景を描いた絵と、イクス・リープスが演説する姿を描いた絵。

 どうやら、メラルドは同じモチーフの絵を何枚も描いていたらしい。


「そのため、己の描きたいものを描けるようになるためなのか、同じモチーフを繰り返し描き、少しずつ技術を向上させていったようです」

 だが、モチーフは同じでも、メラルドの技術が向上したために、先程の絵よりもより緻密に、より本物に近づくように絵は描かれていた。

 勿論、存在感の方も、先程の絵より強くなっている。


「また、同じモチーフを描いた絵の中でも、メラルドが気に入っていたモチーフなのか、それとも納得いく出来で無かったのかは分かりませんが、今皆様に見せている二種類の絵はよく描かれています」

 三つ目の布が取られる。

 布の下から出てきた絵は、前の絵よりも確実に上手くなっていたし、存在感も増していた。


「そして、この三枚目の絵を描いた後に、トキシード空港で皆様に見て貰った絵をメラルドは描き……画家としての名声を得ました」

 そう言いながら、フィーファさんは次の絵に架けられている布の元に向かい、布を掴む。


「ですが、メラルドが画家となったのは、自らが見たものを後世に残す為であり、名誉や金銭の為ではありませんでした」

 そして、一気に手を引いて、布を取り払う。


「「「っつ!?」」」

「『真眼』の傾向が分かるまでは、空港で見て貰った絵までを前期にして最盛期として扱い、これ以降の絵は後期のもの、没落したものであり、メラルドが異常な精神状態で描いたものとして扱われていました」

 布の下から現れた絵にロノヲニト以外の全員が思わず息を飲む。


「それは、誰にもこの絵を理解する事が出来なかったからです」

 絵は二枚あった。

 モチーフは今までのものと同じだろう。


 だが、トキシードの外が瘴気に覆われる前の風景を描いた絵では、草木の一本一本どころか、砂粒一つ、雲の切れ端、一陣の風すらも圧倒的な力を有しており、こうして絵の正面に立っているだけでも、絵の放つ存在感に押し潰されそうだった。

 しかし、この絵の中で最も存在感を放っているのは、空に浮かんだ血のように真っ赤な彗星であり、彗星は本体からも、切り離された小さな二つの欠片からも、狂気としか言いようのない力を放っていた。


「ロノヲニト……」

「……」

 イクス・リープスを描いた絵はもっと凄まじかった。

 目の色や髪の色からイクス・リープスを描いたのだと言う事は分かる。

 だが、その背からは天使のように白い翼と悪魔のように黒い蝙蝠の翼が生え、周囲には後光と瘴気が入り混じった状態で放たれているし、頭からは山羊の様な黄色い角が一対生えていた。

 ああ、よく見れば、影の中にも何かが潜み、糸の様な何かを伸ばしているようだった。

 禍々しくも、神々しい。

 唾棄するべき存在であるのに、目を離す事すらできず、思わず崇めてしまう。

 天使にして悪魔である、超常の存在。

 そう評するしかない絵だった。


「コイツはもしかしなくても……」

 だが、俺が気付いてしまった点はそれ以上に衝撃的な物だった。


「我はエブリラ様の顔を見た事はない。エブリラ様が放っている力もよくは知らない」

 ロノヲニトは肯定も否定もしない。


「ハル君?」

「ハル?」

「ハル様?」

 だがロノヲニトの行動は、暗に俺の考えが正しいと認めていた。


「皆……聞いてくれ」

 ならば言うべきだろう。


「この絵に描かれているイクス・リープスはイクス・リープスじゃない。コイツは……『神喰らい』エブリラ=エクリプスだ」

「「「!?」」」

 この絵に描かれている人物がイクス・リープスでは無く、イヴ・リブラ博士……いや、『神喰らい』エブリラ=エクリプスである事を。


「そんな事が……」

「どうやれば同時に二人の人間として存在できるかは分からない。でも、間違いない。コイツは、『神喰らい』エブリラ=エクリプスだ。それだけは絶対に間違いない」

 メラルドは確かに真実を見て、記していた事を。

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