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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第4章【威風堂々なる前後】
220/343

第220話「トキシード-12」

「此処がそうですので、しばらくお待ちください」

「分かった」

 俺たちが案内されたのは、最低限の照明だけで照らし出され、空調が完璧に整えられている部屋であり、部屋の奥の方には大量の絵が収められた棚が有った。

 ただ、その大量にある絵の中には……うん、中身を見なくても、他の凡百の絵とは明らかに違う存在感を漂わせているものが点在しているな。


「では、お願いします」

「はい」

 フィーファさんのお付きの人が棚の方に向かっていく。

 やはりと言うべきか、目指すのは存在感を漂わせている絵が有る方だ。


「さて、準備が整うまでの間に、先程の話の続きと行きましょうか」

「ああ、よろしく頼むよ」

 ただ、場所が確かでも絵そのものの数が多い上に、絵を立て掛ける為のイーゼルも出してくる必要が有るので、それなりに時間がかかりそうではあった。

 と言うわけで、フィーファさんの言うとおり、まずは『真眼』について伺うとしよう。


「まず、『真眼』は過去、ヤクウィード家に連なる者で数名発現している特異体質です。その詳細は明らかになっておらず、姿が変化する判断基準も保有者ごとに変わります」

「ただそれでも傾向はあるんですよね」

「そうです。そして、エイリアスさんの場合はだいたい二つのパターンに分けられます」

「二つ……ね」

 そう言ってフィーファさんは二本の指を立てる。


「一つは、特異体質と言えない程ではあっても、優れた能力を持つ人物の場合。この場合だと、大抵は突出した能力は持たない代わりに、総合的な能力が優れていますね」

 なるほど、つまりは特異体質の一点突破で『真眼』が反応する閾値を超えるか、能力の合計値で『真眼』の閾値を超えるのかと言う差か。


「もう一つは、その人物の性根が著しく良くないもの……つまりは、『真眼』の保有者やボウツ・リヌス・トキシードに対して強い悪意や欲を抱いている場合です」

「悪意?」

 で、もう一つは能力では無く精神の方向性で見ているパターンか。

 となると、何処からが反応して、どの程度なら反応しないかを見極めるのは中々に難しそうだな。


「……。具体的にはどう見えるんだい?」

「そうですね。例を見せましょうか」

 そう言うとフィーファさんは手近な棚に置かれていたスケッチブックを取り出し、こちらに見せてくる。


「これは……」

「うっ……」

「右は、エイリアスさんが小さい頃にトキシードの聖歌隊で有名だった女性を描いたものです。そして左は、同じ頃に痴情のもつれから、男女数人を殺した凶悪犯のものです」

 そこに書かれていたのは二体の異形の姿をしたキャラクター。

 ただ、右の絵は鳥の頭に、羽で織られたマントを身に着けた女性と分かる程度にしか変わっていない上に、全体的に見て均整がとれ、美しいと言う感情を抱かせるものだった。

 だが、左の絵は……醜悪と言う他ない絵だった。


「エイリアスさん曰く、気持ち悪い肉団子にしか見えなかったとの事です」

 それでも敢えて詳細を述べるなら、まず全身が風船のように膨れ上がり、特に胴体部の膨らみはまるで風船のようだった。

 だがそれだけなら醜いと言う表現にはならない。

 問題は、その男の表皮の部分には発疹や脂汗のような物が浮かぶと同時に、荒く呼吸している事が伝わってくる無数の口が生じていると言う点、そして、目に当たるであろう部分にはキツく目隠しがされている。

 加えて、右手には包丁のような物が、左手には荒縄のような物が握られており、そのどちらの持ち物も血のような物がこびり付いているのが見えた。

 せめてもの救いは、股間に在るであろうあれがボロ布で隠されている点ぐらいか。


「ちなみにこの凶悪犯は、その色香で多くの男を騙していた女性で、本来はこんな姿をしています」

「え!?」

「女!?」

「嘘!?」

「……」

「ほう、流石は『真眼』の持ち主と言ったところか」

 と、俺はその見た目から勝手に男だと思っていたのだが、どうやら女性だったらしい。

 フィーファさんがスマホの様な端末で見せてくれた写真には、若く、美しい女性が映っていた。

 この女性が、エイリアスさんの目にはこう見えるのか……どうやら、『真眼』の持ち主は本当に普通の人間とは別の物が見えてしまっているらしい。


「…………」

「ワンス?」

 と、先程からワンスが黙っていたので見てみたが、どうにもその表情は良くなかった。

 あー、これはもしかしなくても、そう言う事か?

 自分が後者の姿で描かれるんじゃないかと心配していると言う事か?

 まったく、仕方がないな。


「ワンス」

「な、なんだい?ハル」

「心配しなくても、お前が後者の可能性は無いから安心しろ」

「安心しろって……」

「確かに。ワンス様が後者なら、ハル様も後者になって、最初から拒否されていますよね」

「そうでなくとも、狼とは言われないと思うよ」

「みんな……」

 俺、ナイチェル、トトリの三人でワンスを励ます。

 と言うか、実際ワンスが後者の姿で描かれることはないだろ。

 もしワンスでアウトなら、俺とロノヲニトは確実にアウトなはずだし。


「ちなみに一つ聞いておきたいのだが、能力のある人物が強い悪意や欲を抱いていた場合にはどうなるのだ?」

「その場合は、禍々しくも美しい姿になりますね。過去に何例か上がっています。尤も、その場合は監視を付けて仕事をさせるだけですが」

「なるほど。悪魔に近くなると言う事か」

「「「……」」」

 って、ロノヲニト。

 折角、ワンスを落ち着かせたところで、余計な水を差すんじゃねえよ。

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