第22話「入隊試験-4」
「ふぅ……」
「ハル君お疲れ様」
俺が球体から出てくると、雪飛さんが声を掛け、気遣ってくれる。
「ありがとう。雪飛さんも頑張って」
「うん」
そして俺と入れ替わるように雪飛さんが球体の入り口に手を掛ける。
「うーし。それじゃあ次はトトリ・ユキトビだ。テキパキ行くぞー」
「はい!」
俺は雪飛さんが球体の中に入り、入り口が閉じられるのを確認してから、この部屋の壁際で屯しているダスパさんたちの方に向かう。
「ダスパさんたちに聞きたいんですけど、俺の瘴巨人適性はどうでしたか?」
で、いち早く結果を聞きたかった俺は、ダスパさんたちに傍から見ていてどうだったのかを聞いてみたのだが……。
「可もなく不可もなくと言ったところだな」
「全く動かせないあっしよりはマシでやんすね」
「とりあえず瘴巨人乗りとして前線に立つのは諦めた方が良いな」
と言う、瘴巨人乗りとして外勤の部隊に入る事は無理だと理解させられる言葉が返ってきた。
多分、ダスパさんの言う可もなく不可もなくって言うのは、非戦闘地域で瘴巨人を移動させるぐらいはさせてもらえるのかもしれないとか、そんなレベルなんだろうな。
まあ、ここは足掻いてもしょうがない。
それに元々瘴巨人適性の検査については足きり点なんてものは存在しないらしいしな。
でないと、外勤の部隊に居る人の半分以上が弾かれるって話だし。
「ん?トトリの検査が始まったみたいだね」
「あ、本当だ」
と、ここでオルガさんの声に応じるように俺が振り返ると、丁度雪飛さんが操る瘴巨人が極々自然な動作で立ち上がるところだった。
「ふーん。トトリは適性が有るみたいだね」
「みたいだな。ハルのようなブレやぎこちなさが無い」
オルガさんとダスパさんの評価を聞く限りでは、少なくとも雪飛さんは俺よりは瘴巨人に乗る適性が有るらしい。
しかし、ブレやぎこちなさか……俺自身では分からなかったんだが、外から見てるとそう言うのも分かるもんなんだな。
そうやって、雪飛さんの方からはちょっと視線を外しながら、一人で考え事をし続けていた時だった。
「なっ!?」
「マジか!?」
「ありっすか!?」
「へ?」
ダスパさんたちの心の底から驚くような声が聞こえてきたのは。
「どうし……んなっ!?」
俺は何が有ったのかを聞こうとするが、その前に雪飛さんの操る瘴巨人の姿が視界に入り……絶句した。
「次はこっちですね」
「お、おう……」
雪飛さんの操る瘴巨人は、先程俺がやらされたのと同じように歩行や方向転換、それにホログラムらしきものによって空中に描き出された的に手を振って消していたりした。
だが、その速さは俺が操っていた時とは比べ物にならないほど速く、同時に繊細かつ滑らかな動きでもあり、それこそ雪飛さんが直接あの瘴巨人の中に入って手足を動かしているような動きだった。
いや、雪飛さんの身体能力を考えれば、むしろ今の方が動きが良いぐらいかもしれないぐらいだった。
その動きには試験官の方も驚きを隠せないのか、明らかに俺の時よりも声が上ずり、顔の方にも冷や汗のような物が浮かんでいる。
「おい、オルガ。あの瘴巨人って検査用の奴で間違いないんだよ……な?」
「間違いないはずだよ。アタシが検査直前に入って操って確認してある」
「なら、あの動きは……」
「特異体質……って事なんだろうねぇ……」
ダスパさんたちの口から特異体質と言う言葉が出てくる。
特異体質……確か、この世界に瘴気が現れる様になってから、人々の間で散発的に発生し始めた現象で、その詳しい内容には個人差があるものの、いずれも通常の人間と言う生物が持つ能力から明らかに逸脱した能力の事だったかな。
具体的な例としてはオルガさんのその小柄で細身な体には似合わない程の筋力や、ドクターの異常とも言える寿命とかで、詳しい内容は知らないがダスパさんも特異体質持ちであり、俺も一応は特異体質持ちに分類されるんだったか。
ちなみにニースさんの質問に出てきた『禍星の仔』と言うのは、特異体質持ちに対して昔用いられていた蔑称の一つらしい。
尤も、どうしてそう言われるのかまでは今に伝わっていないので分からないそうだが。
それにしても雪飛さんが特異体質持ちか……。
「間違いないんですか?」
「ほぼ間違いないね。検査用の瘴巨人は出来る限り多くの人間に動かせるようにする代わりに、その精度の方が悪くなっているんだ」
「だから間違っても、今トトリがやっているようにスキップだの、細かい瓦礫を指でつまんで動かすなんて真似は出来ないはずなんだよ。本来ならな」
「いやー、これは瘴巨人乗りにとってはハルの特異体質以上に羨ましい特異体質かもしれないでやんすねぇ」
どうやら雪飛さんの特異体質(仮)はこの三人にそこまで言わせる代物らしい。
「ま、実際にどういう特異体質なのかについては詳しく検査してみないと分からないけど、トトリの合格はこれでほぼ決まりだね。検査用の瘴巨人をあれだけ動かせるのなら、トトリ専用の瘴巨人を作れば、どれほどの戦力になるのか……ゾクゾクしてくるよ」
「だな。これなら塔長の性格からして、トトリを不合格にしたりはしないだろ」
「そうでやんすねぇ」
「ふぅむ……」
と言うか、合格を即決させるほどなのか。
うーん……まあ、これで雪飛さんが合格出来るって言うのなら、別にいいか。
「よ、ようし、検査を終了すんぞ!瘴巨人を元の位置に戻してくれ!」
「分かりました」
そして雪飛さんが瘴巨人を元の位置に戻して瘴巨人適性の検査は終わり、ダスパさんたちの予想通りに雪飛さんは即時合格となり、俺は最後の試験である総合の会場に向かう事になったのだった。
さて、俺も負けていられないな。
何時からロボ関係の能力が主人公に宿ると思っていた?
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