第219話「トキシード-11」
「初めて見たのねええぇぇ!!」
確かに俺の事を見て、エイリアスさんはドラゴンと叫んだ。
その事は別にいい。
だが……
「触るのねええぇぇ!」
「うおっ!?」
そこで何故俺の方に跳びかかってくる!?
「ハル君!?」
「ハル!?」
「ハル様!?」
「ハルハノイ!?」
「【不抜なる下】!」
エイリアスさんの思わぬ行動と先程までの不健康そうな瞳と打って変ったキラキラな瞳の放つ気迫に、俺は思わず【不抜なる下】を起動。
その尾を伸ばしてエイリアスさんを拘束しようとする。
「ひゃっ!?」
「ん?」
だが、そこでまた妙な事が起きる。
俺の尾が迫った時、エイリアスさんは明らかに俺の尾の動きを見て驚き、動きを止めたのだ。
うんまあ、拘束する分には都合が良かったので、そのまま拘束したが。
「あ」
で、エイリアスさんの拘束に成功したところで気づく。
俺の行動ってトキシード的に拙いんじゃないかと。
そう思ってフィーファさんの方を見ていたら……
「そのまま拘束していて結構です。今のは急に跳びかかったエイリアスさんが悪いですし」
「まあ、問題にならないなら、俺はそれでいいですけど……」
「それに……」
ここでフィーファさんの目がエイリアスさんに向けられ、俺たちもそれにつられてエイリアスさんの方を見る。
本音を言えば見たくはないが、尾から伝わってきている感触がアレなので、見たくなくとも見るしかない。
「はぁ……綺麗な黒鱗……手触りも最高なのねぇ……」
「ご覧のありさまですから……」
「「「……」」」
で、肝心のエイリアスさんだが……俺の尻尾を恍惚とした表情で撫でまわし、頬ずりもしていた。
この分だと、尻尾を舐め回すぐらいは放置していたら有るかもしれない。
まあ、身体に直接跳びかかられるよりかはマシか。
「そ、それで、彼女……エイリアスさんはどういう特異体質をお持ちなので?」
「ハルの【不抜なる下】。それもアタシたちの目には見えない低出力版に反応したと言う事は、何かしらは持っていると言う事だよね」
「そうですね。確かにエイリアスさんは数ある特異体質の中でも、特殊な部類に入る特異体質を有しています」
さて、エイリアスさんが俺の尻尾にしている事は一先ず置いておくとして、エイリアスさんの特異体質について聞いておくとしよう。
「先に言っておきますが、詳細は分かっていません。今から話す内容は、あくまでもトキシード側ではそういう物だと認識している。と言うだけです」
「うん、分かった」
「まず、彼女の特異体質を、我々トキシードでは『真眼』と呼んでいます」
「『真眼』?」
フィーファさんの言葉に俺たちは首を傾げる。
『真眼』という名称はあまりにも仰々しいと感じたからだ。
「うわっ!?よく見たら、鳥と狼、それにドラゴンがもう一匹居たのね!?」
ただ……エイリアスさんが普通の人と違う物を見ているのは確かっぽいな。
エイリアスさんの目線の動きからして、鳥はトトリで、狼はワンス、もう一匹のドラゴンはロノヲニトの事と見てよさそうだし。
「その効果は他人の特異体質を含めた特性を見極めることであり、今までの経験上、普通の人間から大きく外れた物がある人ほど、特殊な姿になるようです」
「ほう……」
「特異体質を含めたその人の特性……ね」
「うーん、私やロノヲニトについては納得いくけど……」
「ワンス様は狼ですか……」
「アタシは特異体質とか持ってないはずなんだけどねぇ……」
フィーファさんの説明にロノヲニトは感心したような表情を見せるが、俺たちは困惑の色を隠せなかった。
と言うのも、フィーファさんの説明が正しいのならば、俺、トトリ、ロノヲニトの三人が特殊な姿で見られ、ナイチェルがエイリアスさんに注目されなかった事は納得がいくのだが、ワンスが特殊な姿で見られたことに対しての説明がつかないからだ。
それとも何か?ワンス自身も、周囲に居る俺たちも把握していないだけで、ワンスにも何かしらの特異体質が有ったと言う事か?
うーん、分からん。
「これは絵に描いて残さないといけないのね!離すのね!黒ドラゴン!」
「あ、離してあげて下さい。もう大丈夫だと思いますので」
「分かった」
俺は【不抜なる下】を解除して、エイリアスさんを開放する。
すると、エイリアスさんは即座に棚の方へと行き、スケッチブックのような物を取り出して何かを描き始める。
「ワンス様の件についてですが、一応特異体質を持っていないのに、特殊な姿で見られると言うパターンについては何例か報告されています。なので、これから二階の倉庫に行き、メラルド・エタス・ヤクウィードの絵を出す事になりますが、そこで絵を出すまでの間にお話ししたいと思います」
「……。分かった。よろしく頼むよ」
「それと、今エイリアスさんが描いている絵についても、描き上がったら私たちに見せてくれると思いますので、それまでは待っていてください」
「あー、はい。分かりました」
うーん、ワンスの件はちょっと気になるが、今はまず此処に来た目的を果たすべきのようだな。
そうして、俺たちは二階に上がる事となった。




