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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第4章【威風堂々なる前後】
216/343

第216話「トキシード-8」

「またこの部屋か」

「此処まで来ると、裏で使い回していそうな気がするね」

「何から何まで同じだしな」

 地下へ地下へと向かう階段の先には、最初の任務で調べた部屋と、『テトロイド』で調べた部屋、その両方にそっくりな部屋が待っていた。

 うん、本棚からアタッシュケースに至るまで、全てが一緒だな。

 この分だと此処に来るのに使った階段の段数とかも同じだったのかもしれない。


「アレが例のアタッシュケースですか」

「そうそう。とりあえず外装と中身の確認をしても?」

「……。どうぞ」

 俺は過敏と言っていいほどに警戒感を露わにしているフィーファさんたちトキシード側の人たちを尻目に、執務机の上に置かれているアタッシュケースに近づく。


「さて、今回のメッセージはっと」

 そして、念のために変な仕掛けが無いかを調べた上で、アタッシュケースを持ち上げ、今まで下になっていて見えなかった面を見る。


「んん?」

「なんて書いてあるんだい?」

 メッセージはいつもの様に赤いペンキで書かれていた。


「『Did it(真実に) arrive(辿り) true?(着いたか?)』」

「「?」」

 ただ、とても簡潔な文章だった。

 俺をおちょくる様な要素は欠片も無い。

 一応訳が間違っていないかを確かめるために、再度頭の中で訳してみるが……たぶんこれで間違っていないだろう。

 前回の例が有るので微妙に確信を持てないが。

 だが、訳以上に気になるのは……。


「なあ、真実ってのはどのことを指していると思う?」

「私に分かるわけないだろ」

「そもそも隠されている事が多すぎるしねぇ……」

 真実という言葉が何を指しているのかである。


「その……そんなに真実に当てはまりそうな事柄が多いのですか?」

「多い。凄く多い」

「考えるのが馬鹿らしくなる程度には多いね」

「まあ、イヴ・リブラ博士だから仕方がないのだろうがな」

「……」

 フィーファさんの頬がヒク付いているが、それはさておいてだ。

 このアタッシュケースのメッセージが言う所の真実に当てはまりそうな情報……謎だったものと、今も謎なものについてちょっと考えてみよう。

 まず、謎は大別すれば三つに分けられる。

 それは俺に関する事柄、イヴ・リブラ博士に関する事柄、この世界全体に関わる事柄だ。

 で、その三つを詳しく見ていくのなら……


 一、俺に関する事柄

 俺が人間ではない。

 俺がイヴ・リブラ博士に造られた存在である。

 俺の能力の正体。


 二、イヴ・リブラ博士に関する事柄

 目的。

 今も生きていて、何処かの世界に居る。

 俺たち異世界人を送り込んだ張本人である。

 実は人間でなく、一般には神と呼ばれるような存在である。

 俺とロノヲニトを造り出した存在である。

 狂人である事や、イクス・リープスが双子ではないかと言う事を含めた、その他各種疑惑。


 三、この世界全体に関わる事柄

 瘴気。

 ミアズマント。

 『虚空還し』。


 と言ったところか。

 ただ……


「これ以外にもまだまだ隠された情報が有る気がしてしょうがないんだよなぁ……」

「明らかになっている謎ですら、部分的に分かっているだけだろうしね」

「全くもって、学者たちの頭が痛くなる話だ」

「「「……」」」

 これ以外にも謎が隠されているのは間違いないと思う。

 相手がイヴ・リブラ博士だしな。


「じゃ、このメッセージについてはこれ以上考えない方針で」

「そうだな。これ以上気にしても、意味が無い」

「情報が出揃っていないしね」

 と言うわけで、今回のメッセージについてはこれ以上考えない事にする。


「フィーファさん」

「……。はっ!?はい!何でしょうか!?」

「アタッシュケースの中を確かめても?」

「あ、はい。どうぞです」

 で、今回の調査の目的であるアタッシュケースの中を確かめるべく、俺はアタッシュケースの鍵を外し、開ける。


「へぇ」

「ああ、今回は二段仕込みだったんだね」

「まあ、流石に文章が簡潔過ぎたしな」

 アタッシュケースの中には、いつもの短剣(柄は蝙蝠だった)とUSBメモリの他、数字と記号が羅列された書類の束が入っていた。

 が、それらの物品以上に、俺たちの目に留まったのは、蓋の裏側にこの世界の文字で記されていた短い文章だった。


「『ヤクウィードはあるがままに描いてくれた』か」

 あるがまま……つまりは、その目で見た通り、知った通り、感じた通りと言う事であり、要は真実だ。

 そして、ここで言う真実は、アタッシュケースの外に書かれていたメッセージが指す真実だと考えていいだろう。

 で、この名前で描いてくれたと言う事は……。


「たぶん、トキシード空港で見たメラルド・エタス・ヤクウィードの事だろうね」

「だろうな。彼はトキシード建造当時の人間で、画家だ」

「これは、トキシードに戻ったら確認しないとな」

「……。手配しておきます」

 メラルド・エタス・ヤクウィードの絵に何かしらの真実が隠されていると言う事だろう。


「さて、書類とUSBメモリについてはトキシードに戻らないと調べられないし、引き上げるか」

「だね」

 そうして俺たちは階段を昇り、シェルターへと戻った。

09/23誤字訂正

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