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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第4章【威風堂々なる前後】
214/343

第214話「トキシード-6」

「調子はどうだ?」

「うん、ダイオークスのとはちょっと感覚は違うけど、問題はないよ」

「それは良かったです」

 翌日。

 ミスリ、ナイチェル、ロノヲニト、トゥリエ教授の四人をトキシードに残し、『春夏冬(ノーオータム)』の三人の活動を助けさせつつ、俺たちは前後をトキシードが用意した護衛役のキャリアーに挟まれた状態で、湯盾たちが現れたと言う場所に向かっていた。

 うん、護衛役とは言っているが、監視役も兼ねてるだろこれ。

 まあ、これから向かう場所がトキシードにとってどれだけ重要な場所なのかを考えれば、当然の対応なのだが。


「では、目的地に着くまでの間に、改めて今回の目的地についての説明をしましょうか」

「ああ、よろしく頼むよ」

 と言うわけで、俺たち用のキャリアーに案内役として乗り込んでいるフィーファさんに、運転中のセブ以外の視線が向けられる。


「まずこれから向かう先ですが、トキシードにとっても、聖陽教会にとっても重要な土地となります」

「聖陽教会の前身である求陽道。その求陽道の開祖であるイクス・リープスがボウツ・リヌス・トキシードの設計と監督を行った場所。だっけ」

「そうです。そのために、一部分派からは聖地扱いされています」

「なるほど」

 フィーファさんの表情は硬い。

 笑顔は欠片も無く、あらゆる冗談が今は通じそうになかった。

 だがまあ、それはトキシードと言う都市にとって、聖陽教会と言う組織にとって、イクス・リープスと言う人物がそれだけ重要な人物なのかを良く表していた。


「そう言うわけですので、調査の前提として、壁を破壊したり、周囲の地面を掘ったりと言う事は控えてください。もしそのような行為が行われた場合には、問答無用で拘束させていただきます」

 なので、フィーファさんの真剣さに応えるように、俺たちも神妙な面持ちで頷き返す。


「あー、でも、そうなると、万が一ミアズマントがやって来て、戦闘になった場合はどうするの?」

「狼級以下ならば、建物を傷つけないように注して排除。熊級の場合は、建物から離れた場所にミアズマントを誘導後、討伐する事になります。悪魔級以上のミアズマントや、特異個体の場合は、どれだけ悔しくとも退くしかありませんね。聖地がどれだけ重要な場所であろうとも、所詮はタダの場所。優先されるべきは人命です」

「うん、分かった」

 トトリの質問にフィーファさんは淀みなく答える。

 しかし優先されるべきは人命……ね。

 本当に聖陽教会の教えってのは人を生き残る事を最優先にしているんだな。

 でなければ、今の天秤があっさりとどちらかに傾く事は無いだろう。


「他に気になることは?」

「湯盾たちは最初何処に居たんだ?」

「建物地下のシェルターです。ただ……」

「ただ?」

 俺の質問に、今日初めてフィーファさんが怪訝そうな顔を見せる。

 あー、もしかしなくてもまたか?


「我々聖陽教会は、三百年の間、幾度もあの建物を訪れ、調査をしていました。ですが、ウリヤさんたちがシェルターの中に現れるまで、我々は誰一人としてシェルターに気づく事が出来ませんでした」

「まあ、相手がイヴ・リブラ博士だからな。誰も気づけないようにするような仕掛けが施されていたんだろ?」

「そうですね。私たちには断片すら理解出来ないような技術が使われていたのでしょう。シェルターに使われていた脱瘴機構の高度さから考えても、その点については異論を挟む気はありません」

 まただった。

 やっぱり誰もイヴ・リブラ博士の仕掛けには気付けなかったらしい。


「ですが、そうやって納得しても一つ分からない事が有るんです」

「分からない事?」

「仮にイヴ・リブラ博士が聖地の下にシェルターを作ったとして、一体イヴ・リブラ博士は何時シェルターを作ったのでしょうか?少なくとも、ボウツ・リヌス・トキシードが出来るまではシェルターを作るような隙はなかったはずです」

「そう言えばそうだね……」

「加えて、聖地の地下にシェルターが存在していると言う事は、開祖イクス・リープスとイヴ・リブラ博士はそれなり以上に親しかったはずです。ですが、記録を見る限りではこの二人の交友は殆ど無く、仲が良かったと言う話も伝わっていないのです」

「確かに言われてみれば妙だな……」

 言われてみれば確かに妙な話だ。

 前者については、まだイヴ・リブラ博士の謎技術で説明が付くかもしれないが、後者については……ちょっと微妙かもしれない。


「お互いに瘴気が満ちていく世界で人類を救おうとしていたから仲が良かった。って言う話は無いのかい?」

「技術面については交流が有ったと言う話は聞いています。ですが、私的な交流については一切記録がありませんね」

「噂で語られていたように、イヴ・リブラ博士とイクス・リープスが双子で、ずっと昔から付き合いがあったとか?」

「それは後の研究で否定されていますが……イヴ・リブラ博士の異常性が判明した今では確証を以て否定する事は出来なさそうですね」

 キャリアーの中に悩ましげな声が満ちる。

 ぶっちゃけ、イヴ・リブラ博士が絡むと、有り得ないが有り得てしまうから、可能性が何処までも広まってしまうんだよなぁ……。

 本当に悩ましい。


『フィーファ様、『ダイオークス』の皆様。間もなく目的地に着きます』

「分かりました。誘導お願いします」

「どうやら悩んでいる暇はなさそうだな」

「そうだね」

「うん」

「だな」

「そのようですね」

 が、どうやら悠長に悩んでいる時間はもうないらしい。

 さて、この問題に対する答えを示すような何かも見つかると良いんだが……どうなるだろうな?

09/23誤字訂正

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