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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第4章【威風堂々なる前後】
213/343

第213話「トキシード-5」

「さて、現在ここには生存が確認されている異世界人が全員集まっていますが、念のためにまずは一つ確認しておきましょう」

「確認?」

 教皇様が俺たち全員の顔を一度見回す。

 その顔は今までと違って、真剣みを帯びている。


「各異世界人はそれぞれの自由意思でもって所属する都市を選択し、そこで就く職についても本人の意思と能力に基づいたものにする。早い話が異世界人たちの意思を尊重すると言う事の確認です」

「ああ、その事か。約束しよう。我々アーピトキアはカノンたちの意思を尊重する。今までも、これからもな」

「私たちダイオークスもその点については同じだと、この場ではっきり言わせてもらおう。まあ、ハルについては私たちがその意思を邪魔できるとも思えないが……」

「ありがとうございます。これで安心して話を続けられます」

 そうして教皇様から出されたのは、俺たちの自由を保障する事を確約するように要求する言葉だった。

 まあ、この場に俺たち異世界人を連れて来ている時点で、俺たちの自由が阻害されている可能性はかなり低いだろうけどな。

 となれば……うん、この発言の目的は他の都市から自分の都市へと異世界人を引き抜き易くするための約束だろうな。

 尤も、他の都市から異世界人を引き抜きたいのはトキシードだけでなく、ダイオークスも『アーピトキア』も同じだろうから、ヴェスパさんとシーザも何も言わなかったのだろうけど。

 ま、俺にはほとんど関係ない話だな。


「では、今後についてですが、私たちトキシードは『ダイオークス』と『アーピトキア』がトキシード内と近郊で行う活動について、非合法のものでなければ、出来る限りの支援を行いたいと思っています。ですので、それぞれの政府から活動の概要は窺っていますが、ここで改めて私に教えてください」

 で、俺的に重要なのはここからだな。


「我々『アーピトキア』は事前の通達通り、『春夏冬(ノーオータム)』のライブ開催を希望している。なので、適当な宿泊場所と会場、それとライブの警備についての支援をお願いしたい」

「分かりました。既に担当者が見繕っているはずなので、この会談が終わり次第通達いたしましょう」

「感謝する」

 『アーピトキア』はダイオークスの時と同じように、トキシードでもライブを行うつもりらしい。

 一瞬、聖陽教会の教義でライブを開いても問題ないのかと思ったが……うん。慰安や戦意向上、各種活動の活発化とか、圧倒的なプラス面に対して、マイナス面を考える方がよほど大変そうな気がする。


「『ダイオークス』の方々はどうなのですか?」

「我々はそちらの異世界人……ウリヤ・ユノタテたちが最初に現れた場所の調査を行いたいと思っている。事前に伝えた通り、イヴ・リブラ博士の遺物に施された隠蔽工作が、ハルが近づくことによって解除される可能性があるからな」

「分かりました。そう言う事でしたら、こちらで案内役と護衛を数名付けましょう」

 で、俺たちの目的、湯盾たちが転移してきた場所の調査についてだが、問題なく行えるようだ。

 まあ、こちらも認めて当然か。

 今まで俺たちの方に話が上がってこなかったと言う事は、トキシードの調査では何も見つからなかったと言う事なのだから。


「それで外に出るにあたって、何か必要な物などはありますか?」

「そうだな……」

 教皇様の質問に一度シーザが俺たちの方を向く。

 うーん、必要な物……俺は特にないな。

 防護服は持ち込んでいるし、武器も自前だしな。

 と、セブが手を上げているな。

 ちょっと体を退いて、シーザから見えやすくするか。


「セブか。何が必要だ?」

「えと、現場までの距離にもよりますけど、僕たち第32小隊だけで使うキャリアーが欲しいです。キャリアーが有れば、物資と人員、どちらの運搬も楽になりますし」

「分かりました。こちらで用意しておきましょう」

 セブの要求は第32小隊用のキャリアーか。

 うん、確かに必要だな。

 飛行機で運べるものではないからこちらで調達するしかないし、瘴気の中をキロ単位で歩く事になったりすれば、面倒なんてものでは済まないのだから。


「あ、そうだ。後二つほどいいですか?」

「何でしょうか?」

 と、ちょっと気になった事が有ったので、俺は質問の手を上げる。


「俺たちが居ない間、湯盾たちは何をするつもりで?」

「ああその事ですか。ウリヤ」

「俺たちは教皇陛下直属の親衛隊だからな。教皇陛下の身を守るのが仕事だ。それ以外の仕事は……まあ、特には無いな。普段通りの業務と言ったところだな」

「なるほど」

 どうやら湯盾たちが俺たちに付いて来る事は無さそうだな。

 後、教皇様直属の親衛隊って事は……主な相手はミアズマントじゃなくて、他の宗派の人間って事になりそうだな。

 ある意味俺たちよりも大変そうだ。


「それでもう一つは?」

「『ノクスソークス』についてはどうなっていますか?」

「今回は明確な証拠があります。なので現在はトキシード、『ダイオークス』、『アーピトキア』の三都市連名で抗議の声明を送りつけ、相手の反応を待っている所です。まあ、恐らくは知らぬ存ぜぬを突き通すでしょうが」

 そしてもう一つの気になる事。

 『ノクスソークス』については……教皇様の顔からして、かなり面倒な事になりそうな予感しかなかった。

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