第21話「入隊試験-3」
「ん?来たのか」
「オルガか。調子はどうだ?」
「まずまずだね。適性が有れば、問題なく動かせるはずだよ」
瘴巨人適性を検査するための部屋にやってきた俺たちがまず目撃したのは、直径1m程の黒い金属の球体の中からオルガさんが出てくるところだった。
ダスパさんとの会話内容から察するに、あの黒い金属の球体が瘴巨人への適性を検査するための装置って事かな?
それに今居るところが瘴巨人でも十分に動き回れるような広さを持った広間を見下ろせる高台のようなところである事も考えると、実際に軽く操作してみるのかもしれない。
瘴巨人の適性はほぼ天性の物だって言うしな。
「おっ、受験者共が来たのか」
と、オルガさんが俺たちの背後に居るダスパさんの方に向かうのと同時に、下の階から腰に各種工具を提げ、厳つい顔に白い髭を生やした如何にも職人と言った風情の男性が上がってくる。
俺も雪飛さんもその姿を見て、彼が試験官だと判断して背筋を正して真っ直ぐに立つ。
「ハル・ハノイとトトリ・ユキトビだな」
「はい!」
「そうです!」
試験官らしき男性から名前を呼ばれたため、二人揃って返事をする。
「んな身構えなくてもいいぞ。瘴巨人適性については、気張ったところでどうにかなる物でもないし、誰もが動かせるものでもない。お前らがやるべき事はこの中に入って、出来る限りこっちの指示通りに動く事だけだからな」
「分かりました」
「は、はい!」
俺たちの返事に対して試験官はそう言うと、黒い金属の球体の横に移動して球体に片手をつく。
やっぱりあの球体が瘴巨人を操るためのものなのか。
「うーし、この先の試験もあるわけだし。まずはハル・ハノイ。お前からだ。とっととやんぞ」
「はい!よろしくお願いします!」
「ハル君頑張って!」
試験官の指示に従って俺は黒い金属の球体に近づく。
すると、球体の一部がこちら側に少し飛び出た後にずれ、中に入れるようになる。
俺は中を覗いてみるが、中にはクッションのような物が敷かれている他は、先端に小さな球が付いた棒が二本、壁から生えているだけで他には何も無かった。
「……」
「おう、入れ。入ったら、そこの二本の小さな球に手を一本ずつ置け、そこから先についてはダスパかオルガ辺りから話は聞いているだろうが、お前さんの適性次第だ」
「分かりました」
試験官に促される形で俺は球体の中に入る。
俺は多少狭苦しく感じつつも、中で胡坐をかくような姿勢で座ると、二個の球体にそれぞれ手を置く。
すると、球体の入り口が開いた時の動きを逆再生するように動いて、球体の中が暗闇に閉ざされる。
正直に言うと、この時の俺は多少気分が昂っていた。
だがそれもしょうがない事だろう。
男のロマンと言ってもそこまで差支えが無いであろうロボットを操ると言う、元の世界では少なくとももう数十年は叶えられる事が無かったであろう夢に俺は今触れているのだから。
「よーし、今からハル・ハノイの瘴巨人適性検査を始めんぞ!」
試験官の声が響くのと同時に球体の入り口で小さな電子音がして、球体の入り口が完全に閉ざされるのを感じた。
そして、俺の意識が何処かに向かってゆっくりと沈み込んでいくのを感じた。
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「ん……?」
俺は目を開ける。
目を開けて最初に映ったのは、金属製の見るからに丈夫そうな床と、金属で覆われた指の一部だった。
だが、今の俺の視界は普段とは大きく違い、時折ノイズのような物が視界の一部を覆うように走っていた。
これは一体どういう事だ?
「起動出来たか?出来たなら、片手を上げるか、返事をしてくれ」
変化はそれだけでは無かった。
先程の試験官の声は何故か二重になって聞こえるし、全身には何か重たい物がまとわりついているような感覚があるし、鼻の方では何か甘い匂いをかぎ取っている。
「おい?大丈夫か?」
「つ、すみません!」
と、ここで俺は今が適性検査中であることを思い出して返事をすると同時に、右手を普段とは比べ物にならないほど遅い速さで上げる。
その頃には音についてはいつも通りの感覚に戻っていた。
そしてこの時になって俺は気づく。
俺が今操っているのが自分の身体ではなく、複数の瘴金属を組み合わせて作り上げられた人造の小さな巨人……瘴巨人であることに。
「おうし、大丈夫そうだな」
同時に察する。
これでは確かに瘴巨人の操作方法を他人に教えることなど出来るはずがない。
瘴巨人の操作方法を教えるのは、自分の身体を普段どうやって動かしているのかを他人に教えるような物なのだから。
「それじゃあ、ゆっくりと立ち上がりながら、自分の状態について報告をしてくれ」
「分かりました」
俺は背中の方から聞こえてくる試験官の指示に従って、片膝立ちで座っていた状態から瘴巨人を立ち上がらせるのと同時に、元の身体との間に存在している差に苦慮しつつも自分の状態……つまりは五感などがどうなっているのかについての報告をしていく。
「ふうむ。初期に音が二重に聞こえていたってのは珍しい症状だな」
「他は普通の瘴巨人乗りと似たような感じだね」
「だがまあ、とりあえず動かす事は出来たな」
俺の報告を聞いて、試験官にオルガさん、ダスパさんの三人がそれぞれに感想を述べる。
どうやら今の所は可もなく不可もなくと言ったところらしい。
そして、その間に俺は自分の周囲を見回してみたのだが、どうやら俺が今居るのは、俺が入っている球体が置かれている高台から見えていた広間の中の一角、高台の真ん前らしい。
道理で背中の方から三人の声が聞こえてくるはずだな。
「ようし、それじゃあ次は……」
やがて試験官から次の指示が出され、その指示に合わせるように俺は瘴巨人を動かしていき……俺の瘴巨人適性検査は終わったのだった。
瘴巨人の操作は、瘴巨人の身体に憑依するような感じになります。
VR物でアバターを操作するのと同じと言い換えてもいいかもしれませんが。
03/13誤字訂正