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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第4章【威風堂々なる前後】
208/343

第208話「飛行機-2」

「あーあー、こちらは機長です。当機は順調に飛び続け、只今『ボウツ・リヌス・トキシード』への行程を半分まで消化したところです」

 機長の声が機内に響き渡り、俺は目を覚ます。


「そこで機内のお客様に幾つかの連絡事項があります」

 機長の声に、部屋の中に居るほぼ全員が顔を見合わせる。

 どうやら予定にはない……と言うか、『アーピトキア』の人たちの顔からして、今までに無かった事らしい。

 となれば……うん、これは動き出したな。


「一つ目。当機の行先を『ボウツ・リヌス・トキシード』から『ノクスソークス』に変更させていただきます」

「「「!?」」」

 先程顔を見合わせた面々に緊張が走る。

 俺も監視カメラに顔が映らないように注意しつつ、シーザの方を向く。

 シーザとロノヲニトも俺と同じように監視カメラに注意しながら、こちらの方を向く。


「二つ目。命が惜しかったら、その場から動かず、静かにしているように。当機には複数の爆弾が仕掛けられており、機長である私と副機長、どちらかに危害が加えられれば爆発するようになっています」

「そんな……」

「ここは都市の外だぞ……」

 機長の言葉に多くの人間の顔が青ざめる。

 ここは都市の外で、下は瘴気の海……ああいや、下手をすれば、瘴気の下に瘴液の海も広がっているかもな。

 そんな状態でこの飛行機が爆発してしまえば、俺とロノヲニトですら生き残れるかは怪しいだろう。


「心配しなくてもいい。君たちが『ノクスソークス』に着くまで大人しくしていてくれれば、誰も死なずに済む」

 ふむ。中々に考えられた作戦だな。

 恐らく『ノクスソークス』の目的は『春夏冬』三人の誘拐に、例の立方体の奪取……ああそれから、俺たち第32小隊も目標なのだろうが、これでは誘拐の対象である俺たちも、その護衛たちも、敵の手中に着くまでは絶対に動く事なんて出来やしない。


「さあ、そう言うわけだから……グオッ!?何だこれは!?」

「機長!?操縦桿が動……キギャ!?」

「え?」

「何が……?」

 尤も、俺たちが常識の範疇に収まっている存在であればの話だが。


「しまっ……し……ま……」

「あ……ぎ……」

「ロノヲニト。爆弾は?」

「心配しなくても、いの一番……それこそ離陸する前の時点で分解、材料化してある。今はこの飛行機の燃料代わりだ」

「え?え?」

 と言うわけで、困惑する『アーピトキア』の方々はさて置いて、爆弾についてロノヲニトに聞いてみたのだが、どうやら真っ先に解除したらしい。


「…………」

「ロノヲニト。分かっているとは思うが、敵対者については」

「事情聴取を行うために、気絶させた後は拘束。だろう。それぐらいは分かっている。ああそれと、念のために機長と副機長のバイタルサインは正常なように偽装した物を流し続けている。どうやら、何処かに向かって発信していたようだったのでな」

 スピーカーからはノイズしか聞こえてこない。

 うん、機長と副機長の拘束も無事に完了したようだな。


「進路はどうなっているの?」

「勿論、当初の目的地『ボウツ・リヌス・トキシード』に向かっている。進行方向に雲の類も見えなければ、大型ミアズマントの反応も無いから、安心していいだろう」

 運行も問題なし。


「じゃ、後三時間。アタシたちは寝てても良さそうだね」

「だねー」

「そうですね」

「うん」

 と言うわけで、何の問題も発生していない事を確かめた所でもう一眠りしようかと思ったんだが……


「いやいやいや!さっきから平然としているけど、そこのロボ娘は一体何をしたの!?」

「おかしいよね!何でこの場から一歩から動いていないのに、平然と機長と副機長を拘束出来てるの!?」

「爆弾……」

「シーザ・タクトス。説明をしてもらってもいいか?このままでは納得がいかない」

 うん、やっぱりそうは問屋が卸さなかったか。

 まあ、この展開で疑問を覚えるのは当然のことだし、これは仕方がないな。


「ハル?」

「全部話してしまってもいいと思いますよ。でないと納得できないでしょうし。あ、説明はトゥリエ教授とシーザの二人でお願いします」

「分かったのじゃ」

「いいだろう」

 と言うわけで、トゥリエ教授とシーザの二人にお願いして、ロノヲニトの正体、今やっている事。

 そして、それに繋がる事として、俺の正体とイヴ・リブラ博士について判明している事についても『アーピトキア』の人たちに話してもらう。

 勿論他言無用と前置きした上でだが。


「と言う訳で、現在この機体はロノヲニトと一体化しているのじゃ」

「「「……」」」

 で、話した結果として、『アーピトキア』の人たちは全員茫然自失としていた。

 ああうん、まあ、そう言う反応になるよな。

 今まで自分が持っていた常識が片っ端から吹っ飛ばされたような状況だし。


「ん?」

「どうした?」

「ああ、あれがそうだな」

 と、不意にロノヲニトが虚空を見つめながら、妙な声を上げる。


「『ボウツ・リヌス・トキシード』が見えてきたぞ」

「早いな。もうか?」

「丁度いい爆弾(追加燃料)が有ったおかげだな」

 どうやら『ボウツ・リヌス・トキシード』が見えてきたらしい。

 うーん、予定よりだいぶ早いな。

 これって逆に怒られないか?


「と、通信が入って来たな。すまないが、誰か応えてくれ。人間では無い我は交渉には向かないからな」

「はっ!?あ、ああ。分かった。私が応えよう」

 ロノヲニトが部屋に備え付けられている電話機を改造し、それをようやく正気に戻ったヴェスパさんが取る。

 そして、幾らかの傍から聞いてても面倒そうなやり取りを終えた所で、ロノヲニトは『ボウツ・リヌス・トキシード』の滑走路に着陸した。

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