第206話「飛行機-1」
「さて、いよいよ出発か」
『春夏冬』の三人がダイオークスに来てから六日目は何も起きなかった。
そして、本日七日目は『アーピトキア』からやって来た人たち全員がダイオークスを離れ、『ボウツ・リヌス・トキシード』に向かう日であり、俺たち26番塔外勤部隊第32小隊とトゥリエ教授も飛行機に同乗して『ボウツ・リヌス・トキシード』に向かう。
「結局、『ノクスソークス』の連中はアタシたちに仕掛けてこなかったね」
「だね。ちょっと拍子抜け」
で、現在は『アーピトキア』が持ってきたライブの為の機材の他に、例の金属製の立方体や、向こうで万が一の事態が起きてもいいようにとの事で、トトリの『テンテスツ』を含めた装備一式が飛行機に積み込まれている最中である。
うん、トゥリエ教授が何でいるのか疑問だったが、例の立方体関係の為だな。
「だからと言って、二人とも警戒をおろそかにするなよ。飛行機が離陸の体勢に入るまでは、私たちの任務は継続しているのだからな」
「それは言われなくても分かってるよ」
「ただこれだけ見晴らしが良いとどうしてもねー」
ちなみに、俺たちの『春夏冬』の三人を警護する任務はまだ続いているのだが、現在俺たちが居るのはダイオークス空港滑走路の端の方であり、周囲には障害物も何も無い非常に見晴らしが良い場所の為、幾らか緊張は緩んでいる。
ただそれも仕方がない事だろう。
幾つか有る狙撃できそうな場所についても、ソルナたちが詰めているし、こっそりと俺の【不抜なる下】も展開して飛行機の周囲は囲ってあるしな。
「んー……ロノヲニト、シーザ。ちょっといいか?」
「なんだ?ハルハノイ?」
「どうした?何か気付いたことでもあるのか?」
ただまあ、『ノクスソークス』と言う明確な敵が現れ、そいつらが俺たちを狙っている可能性が存在する状況で、何の手も打たないのは流石に拙いかもしれない。
特に、飛行機が離陸してしまったら、俺なんかはやれる事が一切ないしな。
「ああちょっとな。実は……」
と言うわけで、シーザに許可を貰った上で、ロノヲニトに一つ頼みごとをする。
たぶん、ロノヲニトならこのぐらいの事は出来るはずだから。
「ああ問題ない。我なら出来るぞ」
「そうだな。空の旅と言う万が一が許されない状況だ。念には念を入れておくぐらいでちょうどいいだろう。何も起きなければ、黙って元に戻しておくだけの話だしな」
で、俺の頼み事は問題なく受け入れられた。
「ハル様。そろそろ準備が整うそうです!」
「分かった」
「ところで三人で集まって何を?」
「ちょっとした相談だ。離陸したら話すから、心配しなくていい」
さて、これで万が一も無くなっただろうし、『ボウツ・リヌス・トキシード』に着くまでゆったり休憩させてもらうか。
そうして、俺たちを乗せた『アーピトキア』の飛行機は、ダイオークス空港を飛び立ち、瘴海を眼下に望みながら、一路『ボウツ・リヌス・トキシード』に向かうのだった。
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「ふかふかだねー」
「ふぁ……ぼそっ(なんか眠くなって来たかも)」
「三人ともいつもこんないい飛行機で旅してたの?」
「まあね」
さて、飛行機の中だが、かなり快適だった。
「確かにこの椅子のクッションは良いな」
「だね。これならぐっすり寝られそうだよ」
俺たちに割り当てられたのは大きめのキャビネットのようなところで、俺たち第32小隊、『春夏冬』の三人、『アーピトキア』側の人間数人(全員女性)が入ってなお余裕があるほどに広かった。
当然、空調は完備されているし、座椅子もゆったりかつ適度な柔らかさが有る。
恐らくこのまま寝てしまっても、悪夢やエコノミークラス症候群とは無縁で済むだろう。
おまけに、飲食物の類も自由に頼んでいいらしい。
うん、至れり尽くせりだな。
「ところで俺がこの場に居ても大丈夫なんで?」
「画像だけですが、あそこに監視カメラが有り、外から中の様子が窺えるので大丈夫です」
で、ダイオークスに居た時は諸般の事情から個室の外に追い出されていた俺が、現在女の園と化しているこの場に居てもいいのかと思ったが、あのあからさまに急増された感が有る監視カメラからして、俺対策はどうやらバッチリらしい。
そんなに信用ならないのか!
いやまあ、今までからして信用されるとは思ってないけどさ……うん。
「それで、『ボウツ・リヌス・トキシード』に着くまでどれぐらいかかるんだっけ?」
「六時間ちょっと……だったはず」
「じゃあ、ひと眠りぐらいはしておいて問題なさそうだね」
六時間か……結構かかるな。
「ロノヲニト。調子はどうじゃ?」
「ズーズーズー」
「お姉ちゃん。トランプでもしてよっか」
「そうだな。何をする?」
「私も混ぜて貰っていい?」
「僕も僕もー」
「寝る……」
どうやら全員飛行機が飛んでいる間は、思い思いの事をして過ごす気らしい。
ただロノヲニト。
お前一応ガイノイドって事になっているんだから、立ったまま寝息を立てるのはどうかと思うぞ。
「ハル君はどうする?」
「んー、俺もちょっと寝てる」
いずれにしても今俺にやれる事はない。
そう判断した俺は、自分の座席で寝ることにした。
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