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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第4章【威風堂々なる前後】
205/343

第205話「警護任務-22」

「何だって?」

 その後、ダイオークス中央塔大学の学生たちと『春夏冬』の交流を行い、何事も無く四日目は終了。

 続く五日目も、各塔の娯楽施設を訪問、交流を行い、何の問題も無く終了。

 このまま何事も無く終わるかと思っていたのだが……五日目の夜、『春夏冬』の三人が泊まっている建物を眺められるベンチに座っていたところ、ソルナからとんでもない情報がもたらされた。


「まあ、そう言いたくなるのは分かるけど、事実として幾つかの塔の発電設備と、中央塔大学の研究室の一つが襲われていたんだよ。君たちが交流を行っている裏でね。僕も一度動いたし」

「はー……」

 ソルナ曰く、詳しい場所については情報規制が掛けられているので喋れないそうだが、ダイオークス各塔の地下には瘴気を利用した発電設備が設置されているらしい。

 で、今回は41ある塔の内、幾つかの塔で同時多発的に襲撃が行われたそうだ。


「尤も、ダイオークスでは銃のような強力な武器の携帯はほぼ不可能だからね。何処の襲撃場所でも、施設は勿論、人員にもほぼ被害なしで襲撃者を取り押さたよ」

「なるほど」

 まあ、発電設備なんて仮に瘴気が関わっていなくても、最重要設備の一つだしな。

 厳重な警備が敷かれているのは当然だろう。

 そして中央塔大学の研究室にしても、持ち出されたら拙い物を取り扱っている研究室なんて幾らでもあるし、それ相応の警備態勢なのは間違いない。

 となれば、ほぼ被害なしと言うのも納得がいくな。

 で、そうなると気になる事が一つ。


「それで襲撃犯の目的は何なんだ?そんな重要な場所を同時多発的に襲うってことは、きちんと裏が有るんだろ?」

「勿論あるとも。と言うより、その裏について調べることが出来たから、今日はこうしてハルに知らせに来たんだよ」

 どうやら、今回の襲撃者はちゃんと裏がある組織らしい。


「襲撃者は『ノクスソークス』と言う都市の工作員だよ」

「『ノクスソークス』?」

 ソルナの口から出てきたのは、初めて聞く都市の名前だった。


「『ノクスソークス』は現存する都市の中で唯一王政を布いている都市であり、ダイオークスからはかなり離れた場所に位置している都市だ」

「ふむ」

「王政を布いていると言う事は当然王家が存在し、その王家を中心とした厳格な階級制度も布かれている」

「ふむふむ」

 此処までは別におかしなところは無いな。

 三百年続いていると言う事は、王政と言ってもきちんとした政治が行われていると言う事だし、階級制度が有ると言っても、ちゃんと国が回せているのなら、問題はないんだろう。


「で、三年前までは、ダイオークスを含む多くの都市との交流もあった」

「あった?」

 あった?過去形だと?

 俺の疑問をソルナは想定していたのか、一度頷くと、よどみなく続きを話し始める。


「三年前。前王が死去し、現王が即位してから、『ノクスソークス』と言う国は明らかにおかしくなってね。王を諌めようとした老臣や、自分の兄弟たちを悉く処刑しただけでなく、奸臣を登用し、民を苦しめるような圧政を布いているみたいなんだ」

「……」

「その結果、逃げる手段を持っていた人間は『ノクスソークス』から他の国に亡命。ダイオークスにもそれなりの人数が入ってきた」

「……」

「当然、『ノクスソークス』はダイオークスに亡命した人間を返すように言ってきたが、それに加えてこんな事も言ってきた。『我々の民をかどわかした罪は重い。貴様等の持っている技術と、技術者を我々に提供しろ』とね」

「狂ってる……」

 ソルナの話に俺はそう返すほかなかった。

 だってそうだろう。

 民が逃げ出したのは自分の国の政治が悪いから。

 なのに、民を返せと要求するだけでなく、技術と技術者を寄越せとか……恥知らずにも程がある。

 間違っても、正気で吐ける台詞とは思えない。


「そう。狂っている。だから当然のように、何処の都市も『ノクスソークス』の要求を跳ねのけた。そしたら彼らは呆れた事にこう言ったのさ」


『いいだろう。そちらがその気ならば、こちらにも考えが有る。覚悟して待っていろ』


「とね」

「……」

 何と言うか、もう呆れて物が言えないレベルの狂いっぷりだった。

 この瘴気に満ち溢れ、ミアズマントがうろつく世界で戦争を起こすって……アホか。


「でまあ、今回の件はその時の報復をするべく、本格的に計画を動かし始めたって所じゃないかな?でなければ、三年前に亡命してきた人間の中に工作員を紛れ込ませておく事なんて出来るはずがないし」

 で、そんな国の工作員が何処からダイオークスに入って来たのかがちょっと疑問だったんだが、なるほど、亡命者の中に工作員を紛れ込ませておいたのか。

 それなら、今回の件を起こせたことにも納得できる。


「と言うわけだから、ハル。気を付けなよ」

「ん?」

「『春夏冬』の三人の能力もそうだけど、君の能力は瘴気の無効化と言う部分だけを見ても、彼らにとっては喉から手が出るほどに欲しい能力の筈だ」

「つまり……」

「君自身も、君に言う事を聞かせるための人質と言う役割でワンスたちも狙われる可能性は十分にある」

「……。分かった。気を付ける」

 どうやら、『ノクスソークス』の件は俺が望む望まないに関わらず、関わらざるを得ないらしい。

 ならいいだろう。

 来るなら来い。


「やり過ぎない事にな」

 来たら潰してやるよ。

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