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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第4章【威風堂々なる前後】
201/343

第201話「???-5」

 多次元間貿易会社コンプレックス。

 ハルたちが今居る世界とは別の世界に存在しているその会社の一室……多数のモニターが設置されたその部屋を司令部として、現在一つの作戦が進行していた。


「……異常なし」

「こちら第8ポイントに侵入した茉波。目標は居なかったが、代わりにトラップとして次元破砕爆弾が時限式で仕掛けられていた。ああ、勿論既に解除したぞ」

「こちら第9ポイントに突入したインディ。ターゲットは居なかった。ローリングストーンのトラップも有ったが……まあ、何の問題も無かったな」

「こちら第10ポイントの神つ……じゃなかった。ヤタだ。目標は居なかったが、戦闘用のキメラが居たんで狩った。以上」

「こちらパンプキン。依頼のあったポイントを捜索したが……」

 報告の内容は何処も大して変わらない。

 目標が居ると思われるポイントを捜索したが、目標は居らず、代わりに何かしらの置き土産が設置されていた。

 と言うだけである。


「C21-R81-R05世界観測班より伝令。目標世界周辺の次元に異常はありません」

「現在C21-R81-R05世界に出張中のナントウ氏から報告。特に異常はないとの事です」

「流石に手強いですね。ですが、いいのですか?」

「何がだ?」

 報告が続々と上がってくる中、部屋の中心、司令官と書かれた札の傍に居る二人の男女の内、秘書風の姿をした女性が、もう一人の椅子に座っている男性……多次元間貿易会社コンプレックスの社長に話しかける。


「こんな温い手を打つことがです。普段の貴方なら、もっと際どい手を打ち、相手を追い詰めると思うのですが?」

「ああそれか。これでもかなり際どい手を打っているぞ」

「これでですか?」

「ああ、今回の件は目標とは別に注意を払わないといけない相手が居てな。そいつへの配慮でこんな事になっているんだ」

 女性の問いかけに社長は脚を上げ、裾から足首をチラリとのぞかせながら答える。

 が、その目は明らかに此処にはない別の何かに向けられており、笑みの浮かぶその顔からは普段とは比べ物にならない程の緊張感が醸し出されていた。


「だからと言って、他世界への大々的な干渉を行っていい事にはならないと思うが?」

「「「!?」」」

 不意に少女の声が社長の背後から聞こえ、その響きに社長以外の面々に緊張が走る。


「『狂正者(サニティ)』か。俺の予測通りのタイミングだな」

「いいから私の質問に答えろ。この変態海月」

「答えねぇ……確かにウチは他世界への干渉は依頼されない限り行わない事になっているが、今回の目標……『神喰らい』エブリラ=エクリプスがやろうとしている事を考えたら、そんなルールを順守している意味はないと思うが?」

「だとしても、これは私たちとエブリラ……内輪の問題。私たちが自分の手で解決するべきなんだが?」

「それで問題が解決できず、結果としてアレが目覚めたら、お前じゃ対応できないだろうが。そうでなくとも、今のエブリラからは妙なものを感じるしな」

 少女……『狂正者』と社長の間で何かがぶつかり合い、周囲に衝撃波と重圧感が撒き散らされる。

 勿論、二人が物理的実体を有する何かを相手に向かって放った訳ではない。

 ただお互いに相手の事を睨み付けただけだ。

 だがそれだけで、既に周囲は恐怖以外の感情を覚えられなくなるほどの変化がその場には生じていた。


「妙な物だと?」

「アイツとの付き合いという意味では、俺の方がお前よりも長いからな。その経験から言えば、今のアイツからは妙なもの……そうだな。今までには無かったほどに強烈な悪意のようなものを感じるんだよ」

「それはどういう事だ?」

 だが、その変化はそれほど長続きせず、直ぐに薄れていき、部屋中から安堵の声と呼吸を整える音が聞こえてくる。


「今アイツが取っている方策の通り、アイツの基本的な生存戦略は敵に見つからない事だ。そのために、アイツが存在している可能性がある場所を見つけるのにすら探知探索の専門家が必要になるし、高確率でトラップを設置している関係で、可能性がある場所を見つけても実力のある存在を送り込まなければならない」

「ああそうだな。そうやって、今もエブリラは私たちの目から逃れ続けている」

「だがな。今アイツが仕掛けている罠はあまりにも凶悪で直接的すぎる。本来のアイツだったら、肉体的には軽度だが、精神的にはキツい罠を仕掛けるはずなのにだ」

「……。それで悪意……か」

「そうだ」

 周囲が落ち着きを取り戻す中で『狂正者』と社長の会話は淡々と続けられる。


「「……」」

「『狂正者』。お前に一つ確認したい事が有る」

「なんだ?あの世界に眠っているものなら、貴様も知っているはずだぞ?」

「違う」

 社長が手首を僅かに見せつつ、一度手を振る。

 ただそれだけで、『狂正者』と社長の周囲に紫色の結界が張られ、その結界を境として音も二人の口の動きも外からは見えないようになる。


「俺が知りたいのは、あの時『箱舟』の中からどの順にお前たちが抜けて行ったかと、その中に……が居るかだ」

「それは……」

 そして、『狂正者』の口から一つの事実が告げられた。

09/08誤字訂正

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― 新着の感想 ―
[気になる点] アレを取り押さえれる人員は限られているとはいえ、ヤタとパンプキンを投入するとか豪華メンバーすぎるwww
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