第200話「警護任務-18」
「うん。そこそこ。いい感じだよー」
さて、『春夏冬』の三人がダイオークスにやって来てから丸二日経ち、三日目である。
「うん。チューニングも問題ないね」
と言うわけで、今後の為にも改めて『春夏冬』の三人がダイオークスに居る一週間の間の予定について確認をしておく。
「バッチリ……」
えーと、事前に渡された予定表では……
一日目はダイオークスに入都し、護衛である俺たちと合流。
二日目は中央塔第50層の多目的ホールで三日目に行われるライブのリハーサル。
三日目は午後七時から午後十時までの間、前述の多目的ホールでライブ。
四日目、五日目は『アーピトキア』代表としての活動……と言う事で詳細不明。
六日目は休養日だが、状況を鑑みて行動範囲はホテル内に限定。
七日目には次の目的地である『ボウツ・リヌス・トキシード』に俺たちと一緒に移動。
か。
となると、やはり三日目……今日が問題になるだろうな。
ライブ中、ステージの上まで護衛対象に護衛役が張り付いているわけにはいかず、護衛役が詰めれるのはステージ脇までが限界だからだ。
「ハル君どうしたの?」
「ん?トトリか。いや、やっぱり今日が正念場の一つだと思ってさ」
「あー、まあ、そうかもね」
俺の言葉にトトリが感心したように頷く。
ただなぁ……正念場だと分かっていても、護衛をする上での問題が一つあったりする。
と言うのも……
「でもハル君、緊急時を除いて、三人の半径5m以内に近づくの禁止されてるよね」
「そう言われてるな……」
『春夏冬』の三人に対して、この世界に来てからの俺の女性遍歴がトトリたちの手によってバラされてしまい、その内容を重く見たヴェスパさんが俺に対して接近禁止令を発令。
その発令によって、俺は『春夏冬』の三人に不審者などが襲い掛かると言った緊急時を除き、『春夏冬』の三人の半径5m以内に接近する事を禁止されたのだった。
……。
これでも護衛なんだけどなぁ……。
能力だけを言えば、相手が瘴巨人を持ち出して来たって対応できるぐらいの能力が有るんだけどなぁ……。
まあ、能力面で言えばロノヲニトも俺と同程度の戦力かもしれないが、それにしてもこの扱いはどうかと思う。
俺は性犯罪者か何かか?
「はぁ……まあ5m程度なら、【堅牢なる左】【苛烈なる右】【不抜なる下】のどれを使うにしても余裕で射程範囲内だから、何の問題も無いけどな」
「そうなの?」
「ああ、それぞれ別の場所に居る三人を守るように展開するにしても、一秒かからないと思う」
「つまり、相手の目的が三人を連れ去る事だとすれば、完全に後手に回っても間に合う。って事?」
「相手が脚力を大幅に強化する特異体質でもなければ、そう言う事になるな」
「ふうん」
ただ、相手の目的が三人を害する事だった場合は、取られた手法次第では展開が間に合わない可能性も十分にある。
と言うか、幾ら俺でも狙撃用ライフルとか使われたら防ぎようがない。
強度的には防げても、速度が桁違い過ぎる。
他にも、爆発物や瘴気などを利用した攻撃に対しても、俺の能力で防ぎ切れるかは怪しいものが有る。
で、そう言う懸念事項をトトリに話してみたところ……
「心配しなくても、その手の武器についてはまず持ち込め無さそうだよ」
「ワンス」
ワンスが俺の懸念事項について問題ないと言いながら、俺たちの元にやってきた。
「どういう事?」
「今、ヴェスパさんとシーザ隊長の二人に今日のライブの際における持ち込み検査の内容について聞いて来たんだよ。そしたら、多目的ホールに入る時点で、二重三重のボディチェックと手荷物検査をされるみたいでね、アレを誤魔化すなら内側からの手引きが無いと厳しいと思うよ」
「内側からの手引き……でも……」
「ああ、内側からの手引きは有り得ない。今日のライブに関わる全ての人間は事前に素性を調べられているし、今の所不審な動きをしている人間も居ない。正直に言って、興奮しすぎたファンが飛び出す方がよほど可能性としては高いだろうね」
ふうむ。
確かにその警備体制なら、俺の懸念事項は杞憂で終わるかもな。
だからと言って油断はできないが。
「と言うか、そもそも本当にそんなファンですらない何者かが『春夏冬』の三人に対して何かを仕掛けて来るなんて有り得るのかい?」
「三人も心当たりはないって言ってたしね」
「まあ、三人がこの世界に来たタイミングは俺たちと一緒だったらしいし、そもそも三人は自分たちが異世界人だって事すら隠しているしなぁ」
「だったら、むしろ『アーピトキア』側の方に何かが有るかもね」
「あー、それはありそう」
「だなぁ……」
尤も、ワンスの言葉が正しいのだとすれば、今度は何処の都市のどの勢力が仕掛けているのかと言う問題が有るんだがな。
そしてこの場合だと、他の都市に関する知識が足りない俺たちでは相手の想定すら出来なかったりする。
「ま、何かが起きるのなら、アタシたちはその何かに対処すればいい。裏で行われているアレコレに対応するのは、アタシの叔父たち塔長だよ」
「まあ、それはそうなんだけどな」
さて、何かが起きるのか、それとも何も起きないのか。
俺たちが存在しない敵対者を警戒する道化で済めばそれでいいが、そうでなければ……。
いずれにしても、今日のライブは気合を入れないとな。
俺はステージ上でリハーサルをしている三人を見ながら、改めてそう思うのだった。