第197話「警護任務-15」
その日、ダイオークス空港の一角には、通常の飛行機よりも一回り小さな飛行機が泊まっていた。
既に飛行機にはタラップが付けられており、俺たち26番塔外勤部隊第32小隊の面々は、そのタラップを降り切った場所に整列、待機している。
「来たか」
やがて、飛行機の中から屈強な肉体を誇示するスーツ姿の男性が複数名降りてくる。
まず間違いなく、この飛行機に乗っている人物を護衛するために搭乗していたボディーガードだろう。
そして、『アーピトキア』から来たのであれば当然ではあるが、その顔や雰囲気は、ダイオークスの人たちとはやはり異なるものだ。
「いよいよだね」
「だな」
スーツ姿の男性たちは周囲を一通り見回して、危険が無い事を確かめた後、無線機らしきものに何か話しかける。
彼らの目でも安全を確かめたと言う事だろう。
「「「……」」」
タラップを踏む音を立てながら、複数人の女性が飛行機から滑走路に降りてくる。
その中に見知った顔は三つ。
お互いに相手の顔を見た時、僅かに反応をしそうになってしまうが、彼女たちも、俺たちも、この場においては知り合いであることを隠すべきである立場である。
そこはプロとして、心の中で思っている事はおくびにも出さず、冷静に自分のやるべき事をやる。
「ダイオークス26番塔外勤部隊第32小隊隊長のシーザ・タクトスだ。遠路はるばるダイオークスへようこそ。『アーピトキア』の方々」
「アーピトキア要人警護部隊のヴェスパ・ホネトスだ。お出迎え感謝する」
タラップから降りてきた女性の中で一番偉そうな女性とシーザがにこやかに握手を交わす。
「それで、この場に居ると言う事は、貴方たちがダイオークスに滞在中、私たちを案内してくれると言う事でいいのか?」
「ああそう考えて貰って構わない。ダイオークス滞在中の安全は勿論、不便の無い生活を送れるように私たちの全力でもって尽くそう」
「それはありがたい」
「ではこちらへ、まずは入都ゲートの方へと、案内させてもらおう」
「分かった」
一通りの会話が終わったところで、移動が始まる。
勿論、中心に先程のヴェスパさんを含めた女性陣、その外側を俺たち第32小隊の面々が囲み、更に『アーピトキア』側の男性ボディーガードたちが、時折先行して俺たちが行く場所の警戒をすると言う徹底ぶりである。
まあ、俺個人としてはダイオークス空港の滑走路で何かがあるとは思えなかったし、実際何も無かったわけだが。
「こちらです」
その後も移動は続く。
ダイオークス空港入都ゲートでは、彼女たちがやって来る事を何処かからか聞き付けたらしきファンたちが大挙を成して押し寄せて来ており、空港側の警備員が必死になって抑えている横を、幾らか自分たちの存在をアピールしつつ進んでいく。
と、ここでファンの群れの中から、空港の警備員が為しているラインを割って、俺たちが居るこちら側に入ろうとした不届き者が一瞬現れ……次の瞬間にはファンの群れの中から現れた男性の手によって引き戻されていた。
恐らくは俺たちと一緒に研修を受けた誰かだろう。
「それで、本日の予定は5番塔のホテルに宿泊するだけ。で、いいんだな?」
「ああ、それで問題ない。ライブは三日後からだし、今日は彼女たちも長旅の疲れを取るべきだしな」
ダイオークス空港から俺たちは11番塔の大エレベーターに乗り、11番塔の第51層に移動する。
そして、第51層に着いた後は、これまた俺たちだけを乗せた特別電車でもって、11番塔から5番塔に移動。
そのまま、ホテルにチェックインする。
「こちらが本日のお部屋になります」
「感謝する」
ホテルの従業員に案内され、やがて着いたのは一棟まるごと他の建物からは独立したコテージのような部屋だった。
ああいや、部屋じゃなくて建物か。
他の建物とは直接つながっていないわけだし。
「「「……」」」
まあ、そんな事はさて置いてだ。
俺たちは最後まで警戒を続け、建物の中に入った。
そして、建物の中の安全を一通り確認した。
「ふう。これで落ち着けるな。三人とももう楽にしていいぞ」
そうして完全に安全が確認されたところで、ヴェスパさんがそう言い……
「ふあー……」
「疲れたぁ……」
「ふぅ……」
俺の知っている顔をした三人……『春夏冬』の三人が、疲れ果てたようにベッドに倒れ込んだ。
「さて、『春夏冬』の三人はお疲れのようだ。多くの人間がこの場に居ても、彼女たちを疲れさせるだけだろうし、最低限の人員を残して、他の者は全員一時部屋から退出しておいてもらっていいか?」
「「「了解しました」」」
それに合せるように、殆どの人間……俺たちダイオークス側は、俺、トトリ、シーザ、ロノヲニトの四人だけを残し、『アーピトキア』側も、ヴェスパさんとマネージャー風の女性を一人だけ残して部屋の外に出ていく。
さて、これで場は整った。
と言う事でいいのかな?
「さ、もういいぞ。三人とも。いや、五人とも……か」
どうやらいいらしい。
そして、ヴェスパさんの言葉を契機に……
「うっ、うっ……皆ああぁぁ!」
「トトリ!」
「久しぶり!」
「会いたかった……」
トトリたちはお互いの事を抱きしめあった。
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