第193話「警護任務-12」
「ふあっ……良く寝た」
翌々日の朝。
俺は体を起こすと、現在の寝室の状況を確認する。
「うん。壮観だな」
寝室は……言葉に表すと、中々に拙い状況になっていた。
それでも出来る限りで表すのなら、部屋中に濃い匂いが立ち込め、そこら中に白と肌色が有り、一言で表すのならば酒池肉林の跡地と言うべき状況だったと言っておく。
まあ、ミスリとシーザの二人を相手にしていたところにトトリたちがやって来たからと、手を出しちゃった結果がこれなんだけどな。
「っと、流石にちょっとだるいな」
ベッドを降りて立ち上がろうとした俺は、自身の身体に倦怠感のような物を感じ取る。
どうやら、イヴ・リブラ博士の謎技術によってかなり強化されている俺でも、六人相手に丸一日やり続けるのは無理が有ったらしい。
一応食事休憩ぐらいは挟んでいたんだけどなぁ……。
「……」
と同時に、この程度の疲労感で済んでいる辺りに自分の人外っぷりを感じるわけだが……まあ、普段はまるで感謝したくない相手でも、これで枯れないだけの体力をくれた点だけは素直に感謝してもいいのかもしれない。
「ま、本人を前にして言う事は有り得ないけどな」
もっとも、そんな感謝を表す前に、まずは一発【苛烈なる右】でぶん殴るだろうが。
「ずずっ……えーと、時間は?」
俺は昨日の内にルームサービスで運び込んでおいてもらった清涼飲料水を飲みながら、現在の時刻を確認する。
うん、朝食の時間にもまだなってないな。
そして、この時間なら、今日からまた研修があるが、身だしなみを整える余裕は十分ある。
となればまず俺がするべき事は……。
「おーい、トトリ大丈夫か?」
「うぎゅう……ハル君……?」
俺は一番近くに居たトトリに声を掛ける。
トトリは目を覚ましたが……、これはまだ寝ぼけている感じか?
「もう朝だ。で、今日はまた研修があるけど大丈夫か?」
「うー……大丈夫……」
「と言うか、とりあえず水飲むか?」
「お願いー……」
うん、駄目そうだ。
と言うわけで、とりあえずコップに水を入れて、トトリに渡しておく。
「ゴクゴクッ……」
「次は……」
で、トトリが寝ている間に俺は他の面々も順々に起こそうと声を掛け、水を渡していく。
「あー……腰が痛い……」
「この人数差でこれですか……」
全員一応起きはしたが……何と言うか、死屍累々と言う感じだな。
う、うーん、皆の水着姿に興奮した自覚はあるが……やり過ぎたか?
「えーと、皆大丈夫か?」
「私たちは大丈夫だから、ハル君はロノヲニトを連れて先に行っておいて」
「あ、アタシたちはルームサービスで朝食を頼むから、安心しておいてくれ」
「ふうむ?」
まあ、本人が大丈夫だと言うのなら、俺がこれ以上追及する意味はない……のか?
いずれにしても、この場でこれ以上俺に出来ることは無い事は確かだったため、トトリたちの部屋の外に出る促す視線を背に受けたまま、俺は身だしなみを整えると、ロノヲニトを連れて食堂の方に行くのだった。
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で、朝食後。
綺麗な姿になったトトリたちに後から行くと言われたため、俺はロノヲニトを連れて今日の研修場所に向かう。
うーん、全員まだ調子が戻っていなさそうだけど、大丈夫なのか?
後、ホテルの従業員さんたちの視線が、何か有り得ないものを見るような物になっていた気がするが……そっちはたぶん気のせいだろう。
昨日俺たちの部屋で何が行われていたかを知るはずがないんだし。
「それで今日の研修内容は?」
「我が記録しているデータによれば、護衛役としての体術……敵対者を殲滅する以上に、護衛対象を確実に守るための体術を学ぶとなっているな」
「なるほど。外勤部隊に要求される体術とはまるで別な物になりそうだな」
俺の質問に対して、ロノヲニトは容易く答えを諳んじて見せる。
ロノヲニト自身の記憶力もあるのだろうが、流石はガイノイドと言ったところか。
どうやら常時閲覧可能なデータベースのようなものも内蔵しているらしい。
「しかしハルハノイよ」
「何だ?」
「我が言うのも何だが、よく身体がもつな」
「ん?ああ、その事か。別に不思議でもなんでもないだろ」
「と言うと?」
と、ルームサービスの受け取り役として、昨日一日の事を知っているロノヲニトからも驚愕の言葉が飛んでくるが……正直お前が言うのかと言う感じである。
だって、あのイヴ・リブラ博士だぞ。
「お前が言っていただろう。イヴ・リブラ博士は目的の為なら何でもするって」
「ああ、言ったな」
「そんなイヴ・リブラ博士が、俺がダイオークスの外に出ようとしなかったパターンを考えておかないと思うか?」
「それは……有り得ないな」
「だろ。だからたぶんだけど、この無尽蔵と言っていいレベルの体力も、そう言うパターンを想定したものだと思うぞ」
「ふむ……」
仮に俺がダイオークスから動かなくとも、そして俺が志半ばで死んでも問題ないように、必ず手は打っているはずだ。
それこそ、俺自身ではなく、俺の子供たちに目的を達成させるパターン程度は間違いなく考えているはずであり、そうなった時の事も考えれば、この体力にも納得がいくと言う物である。
「ま、いずれにしても、利用できる能力は利用させてもらうさ」
「なるほどな」
そうして、俺は今日の研修場所に足を踏み入れた。




