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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第4章【威風堂々なる前後】
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第191話「警護任務-10」

「お、お姉ちゃんはどうしてその水着を?」

「ん?これか?これだけロノヲニトの奴が妙に反対したからな。奴が苦手な物だと判断した」

「判断したって……」

 まあ、ロノヲニトも嫌ではあるだろう。

 確かにシーザさんの体型を考えれば、その水着は良く似合ってはいる。

 が、こんな痴女一歩手前の格好をした女性と一緒に居るところを見られると言うのは。


「…………」

「ボソッ……(どうやら、このニルゲ(人間)の羞恥心は、我に対する敵愾心に勝てなかったらしい)」

 俺はロノヲニトに視線だけで事情説明を求め、ロノヲニトも俺にだけ聞こえる声量で答えを返してくる。

 シーザさんの羞恥心がロノヲニトに対する敵愾心に負けた……と言うよりかは、羞恥心を覚える事も出来ないぐらいに今のシーザさんは頭が逝っちゃっていると言った方が正しい気もするな……。

 勿論、凄く失礼な考えだと言う事は分かっているが、そうとしか思えない程に今のシーザさんの格好は凄まじい。


「さあ、ロノヲニト……今日こそは言い負かしてやるから覚悟しろ!」

「ふっ……やれるものならやってみるがいい……」

 シーザさんは堂々とロノヲニトの顔を指差してそう宣言すると、ロノヲニトを連れて俺たちが居る側とは反対側のプールサイドに歩いて移動していく。

 ああなんか、ロノヲニトの背中に哀愁を感じるな……。


「まあ、議論に収まっているなら、前に比べてだいぶマシにはなったね」

「だねー」

 と、ワンスたちがプールサイドに手を掛け、俺たちに向かって話してくる。

 うん。ワンスの言うとおり、初日の説教が聞いたのか、多少はシーザさんの心境に変化が有ったのかは分からないが、初めて出会った時に比べれば、殺気を始めとした暴力的な気配は薄れている。

 かと言って、四六時中ロノヲニトに対して半ば感情を剥き出しにした状態で議論し続けているのはどうかと思うが。


「でも、このままじゃ拙いよね。お姉ちゃんてば、あんな水着を着ちゃうほどに冷静さを失っているし……」

「そうですね。ロノヲニトの目以外を考えられないと言うのは、外勤部隊の隊長として拙いと思います」

「そうでなくとも、今のシーザさんの姿はあまり見られたくないかなぁ……」

 トトリの言葉に俺たちは全員揃ってロノヲニトと議論しているシーザさんの姿を見る。

 そして思う。

 アレが自分たちの隊の隊長だとは思われたくない……と。


「まあ、最悪の場合、アタシたち全員で26番塔の人事管理部に解任請求をすると言う手があるのが救いだね……」

「次の隊長が良い人とは限らないから、本当に最後の最後に取る手段だと僕は思うけどね」

 ワンスの口から少々不穏な言葉が出てくる。

 だがまあ、その手段についてはセブの言うとおり、俺たちでは本当にどうしようもなくなった時の手だな。

 まずは羞恥心を取り戻す程度には冷静さを取り戻させる努力をするべきだ。


「では、それ以外の手を用いるとして、どのような手段があるか皆で考えましょうか」

「すみません。お姉ちゃんの為にもよろしくお願いします」

「気にしないで、みんな必要だと思ってのことだから」

 と言うわけで、此処に居る俺達六人でシーザさんに冷静さを取り戻させるための方策を話し合う事とする。


「ではまず私から案の一として普通に説得する案を……却下ですね」

「無理だね」

「普通に説得して通じるなら、あんな事にはなってないって」

「普段のシーザ隊長ならともかくねー」

「まあ、今のシーザ隊長相手じゃ効果は薄いだろうなぁ」

「うん、私もそう思う……」

 ナイチェルの提案した第一案は、話しあうまでも無く、提案したナイチェル本人を含めた全員で却下する。

 普通に説得して通じるなら、この前の説教で治ってる。


「じゃあ案二。ロノヲニトに頼んで八百長をしてもらう。一度勝てば落ち着くんじゃない?」

「あー、俺からロノヲニトに頼めば出来そうだが……」

「既に複数回、長時間の議論を重ねていますので、八百長は少々厳しいかと」

「まあ、相手が手を抜いたら、それを察するぐらいは出来そうだよね」

「バレた時が怖いってのもあるしねぇ」

「はい。もしバレたら、今以上に冷静さを失うと思います。お姉ちゃんですし」

 セブの出した第二案も却下。

 バレた時のリスクが大き過ぎる。


「うーん、案三。他の何かに一度注意を逸らして、冷静になる時間を与える。ってのはどうかな?」

「うーん、もしくはいっそのこと、ロノヲニトの事を考える余裕が無いぐらいに追い詰めるとかも、いいかもしれないね」

 第三案は、他の何かで気を逸らす。

 もしくは他のことを考える余裕が無くなるほどに追い詰める。

 まあ早い話が、ロノヲニト以上に衝撃的な物でもって、感情を上塗りすると言う事だな。


「えと……それが有効なら、私はやっていいと思います」

「ただこの場合、何で気を逸らすかですね」

「生半可な物じゃあ駄目だろうしね……」

「ん?」

 と、ここで何故か全員の視線が俺の方に向く。

 意見を求められているのか?

 いや、何となくだけど違うな。

 これは意見を求められていると言うよりかは、値踏みされていると言った方が正しいな。


「今日って誰が一緒の部屋になる予定だっけ?」

「予定では、私とミスリ様ですね」

「あ、はい。よろしくお願いします」

「で、明日も今日と一緒で一日休み……と」

「うん。有効な手ではあるよね」

「ん?ん?」

 突如、トトリたちだけで何かを確認し合ったかと思えば、話しあい始める。

 えーと、これはもしかしなくてもそう言う事なのか?

 と言うかそうなると……、


「よし決定。ハル君!」

「お、おう」

 トトリたちは全員揃っていい笑顔を浮かべている。

 その笑顔に、俺は自分の想像が間違っていない事を悟る。

 そう、トトリたちが考えた、シーザさんの感情を上塗りする方法とはつまり……


「今晩、ミスリさんと一緒にシーザ隊長も抱いちゃって!」

 そう言う方法だった。

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[一言] 写真撮って後で見せてやれw
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