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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第4章【威風堂々なる前後】
188/343

第188話「警護任務-7」

「と言うわけです」

 数時間後、俺は壁と天井が無ければダイオークスの中だとは思えないほどに、解放感があるホテルの遊歩道を歩いていた。

 ただし、一緒に居るのはトトリたち第32小隊の面々では無く……


「なるほど。それでワンスたちは君から引き離され、座学と言う名の説教を受けているんだね」

 ワンスの幼馴染にして、32番塔塔長の息子であるソルナと、数人の男女、案内役の従業員さんだが。

 なお、トトリたちが何故座学と言う名の説教を受けることになった原因は、トトリたち五人は部屋割りがなかなか決まらなかったために研修の開始時間に遅れたのが理由で、シーザさんとロノヲニトは公共の場で睨み合っているのが問題視されたためである。

 うん、どちらの理由にしても、言い訳の余地はないと思う。


「まあ、ワンスたちの方はまだ納得する事も出来なくないけど、シーザ隊長の方についてはちょっと言い訳の余地が無いかなぁ……隊長が公共の場で、部下を本気で嫌っている様子を見せるのは、恥や外聞と言う要素を除いても、ちょっとどころでなく拙いね」

「と言いますと?」

 ソルナの表情は昏い。

 どうにも、俺とは別の視点……人を管理し、扱う側の人間から見ても、シーザ隊長の行動はよくない物であるらしいな。


「根っこの部分ではきちんと通じ合っていて、しかも目的そのものはしっかりと共有出来ているとかなら、表面上は反発し合っていても別に問題はないんだよ。むしろ、隊員同士を反目させあう事で、こちらの事を妨害しようとする者を意図せず嵌める事も出来るだろうね」

「あー、でも、あの二人は……」

「そうだね。彼女(ロノヲニト)の方はともかく、シーザ隊長の方は本気に近い。まあ、彼女の正体を考えれば、当然の拒否反応なのかもしれないけど」

「…………」

「まあ、今回の件で多少は頭が冷えるんじゃないかな」

「でも、もしシーザさんの頭が冷えなかったら?」

「その時は26番塔塔長が何かしらの決定を下す事になると思うよ」

 俺とソルナは保養施設の一環としてとして設置されているプールやスポーツジムと言った施設と、その施設で働く従業員の様子を見ながら、会話を重ねていく。

 しかし、中々にシーザさんの立場も危うい物になっているらしい。

 と言うか、今の一連の発言からしてソルナは……。


「ところで、ソルナはロノヲニトの事を知っている。と言う事でいいんだよな?」

「三男とは言え、塔長の息子だからね。それぐらいの事は教えられているさ」

「なるほど」

 ああうん、やっぱりソルナはロノヲニトの正体……最低でも吠竜を操っていた事については知っているのか。

 まあ、塔長の息子で外勤部隊の隊長格なら、知っていてもおかしくはないか。


「と、そう言えばもう一つ質問。ソルナも研修を受けに来たでいいんだよな」

「研修の内容はだいぶ違うけどね」

 そう言うとソルナは自分の服を引っ張り、俺に注目するように訴える。

 ソルナの服装は何処かの御曹司を思わせるような服装で、何処までいっても根本が庶民な俺と違って非常に良く似合っており、このホテルの空気にも非常によくなじんでいた。

 たぶんだけど、今のソルナを何も知らない人間が見たら、研修中の人間などでは無く、ホテルの客としか思われないと思う。


「ハルたちが直接的な護衛とするなら、僕たちは影の護衛。って事らしいよ。だから、他の客に紛れ込めるようにこういう恰好をさせられているのさ」

「なるほど」

 そして、実際にソルナたちは客であるように見られ、事が起きれば、背後から敵対者を排除する為の訓練をしているらしい。


「ただそれって……」

「まあね。どう考えても、二週間程度の研修でどうにかなる技術じゃない。ハルたち表の護衛にしても、最低一月は訓練に専念しないと、現場では使い物にもならないんじゃないかな」

 どうやら、今回の研修に当たって俺たちが抱いていたものと同じ疑問をソルナも抱いているらしい。

 しかし、表も裏も表面上は素人に毛が生えただけという、場合によっては素人よりも役に立たない可能性すらある人間を使うって、ダイオークス政府は何を考えているんだ?

 ああいや、それ以前にこうして急に人間を集めたりすれば、護衛の中に刺客が紛れ込む可能性だってあるだろう。

 何と言うか、いずれにしても訳が分からないな。

 『春夏冬(ノーオータム)』の三人に何か有れば、困るのはダイオークス政府もだろうに。


「う……」

「ただまあ、上がどういう意図を抱いているにせよ、僕らも外勤部隊に務めるプロだ。与えられた任務には全力で当たるしかないだろう。そうじゃないかな?」

 俺はその事を口に出そうとする。

 が、その前にソルナの口から今までよりも多少強い語気で言葉が発せられ、俺の発言は中止せざるを得なくなる。

 そして、普段のソルナからはイメージしづらいその行動によって、俺はソルナの意図を察する。

 そう……、


 この件に関する会話を、これ以上この場ではするな。


 ソルナは態度によって、暗にそう言っているのだ。

 同時に、ダイオークス政府が何を狙っているのかも分かった。

 恐らくはソルナたちも含めて囮なのだ。

 何に対する囮なのかまでは分からないが、その点だけは間違いないと思う。


「いずれにしても、今日はホテル備え付けの施設を案内するだけだそうだし、研修の本番は明日からになるだろうね」

「そうですね」

 なら今は、施設の位置と従業員や客の様子をしっかりと観察しておかないとな。

 普段の様子を知らなければ、異常と正常は見極められないのだから。

08/26誤字訂正

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