第184話「警護任務-3」
「腕輪とペンダント……ですか」
「その通りっす」
俺はライさんの取り出した腕輪とペンダントをよく見てみる。
材質はどちらも金属だ。
デザインについては、腕輪の方は非常にシンプルなデザインで、銀色の環に赤いボタンが付いているだけ。
ペンダントの方は多少デザインに凝っているようで、一応装飾品として使えそうな程度にはデザイン性がある。
そして、どちらにも誤作動を防ぐための仕掛けなのか、腕輪の方はボタンの上に透明なカバーが付けられており、ペンダントの方も開け閉めが出来る様になっていた。
「と言うわけで、まず腕輪の方はミスリ・タクトスとナイチェル・オートスの二人に渡しておくでやんすよ」
「え?」
「私に……ですか?」
戸惑う二人に、ライさんの手からそれぞれ一つずつ腕輪が渡される。
「一応聞いておくが、ミスリたちに渡した理由は何だ?」
「そりゃあ勿論、ロノヲニトの配置の関係っすよ」
そう言って、ライさんは戸惑う二人を尻目にしつつ、シーザさんの質問に答える。
「確かにロノヲニトは第32小隊に所属する事になるっす。けどその役割は、前線で戦う事では無く、後方でハルたちの装備を整えることが主になるっす。となれば必然、ロノヲニトと同じように後方任務に従事するミスリ・タクトスとナイチェル・オートスの二人はロノヲニトと接触、一緒に行動する機会が増えることになるっす」
「だから、私たちに……ですか」
「なるほど」
当然と言うべきか、二人に安全装置が渡された理由は至極最もな理由だった。
確かにロノヲニトの主任務が後方任務なら、万が一ロノヲニトが暴れた時、一番先に被害を受けかねないのはナイチェルとミスリさんの二人だろうし。
ついでに言えば、ロノヲニトを前線に出す事は有り得ないんだろうな。
装備品の作成に関わるだけなら幾らでも監視は付けられるし、作らせた物についても後で妙な仕込がされていないか検査をするだけで済むが、前線に出すとなれば、戦闘中にロノヲニトに注意を払う分だけ意識を割く必要が出てくるわけだし。
と言うか、そうでなくとも『虚空還し』の件が有るから、ロノヲニトを瘴気の中に出すのはNGだろう。
「で、腕輪の効果っすけど、非常に単純な物になっていて、二人がやるべき操作は腕輪に付いている赤いボタンを強く押し込むだけっす」
「ふむふむ……」
と、ライさんが腕輪について詳細な説明を始める。
それで腕輪の仕掛けについてだが、傍から聞いていた限りでは、どうやら腕輪についているボタンを押すと、ロノヲニトの本体がガイノイドの肉体から強制的に排出されると言う単純な仕組みになっているらしい。
それだけで大丈夫なのかとも思うが、ロノヲニトの本体はこの前見た球体だからな……あの球体だけじゃあ、周囲の塵を吸い込み、動き回るための手足を作るにしても、数時間から数日はかかるだろうし、問題はないのだろう。
「で、もう一つの安全装置っすけど、こっちはトトリ・ユキトビ向けっす」
「あ、はい」
「トトリ様用?」
「って事は、特異体質を前提にした物って事だね」
腕輪の説明が終わったところで、ライさんがトトリにペンダントを渡す。
「それで仕組みっすけど、そのペンダントの中には瘴巨人の指令系に使われているのと同じ金属が使われていて、常にロノヲニトの身体に向けてチャンネルが開かれているっす。早い話が、ロノヲニトの身体を対象としたリモートドールっすね」
「なるほど」
ライさんの説明に全員が感心の頷きをする。
恐らくだが、今のロノヲニトの身体は、瘴巨人かミアズマントの物を模した構造になっているのだろう。
そのため、トトリの『瘴巨人の感覚系と指令系に対する異常適応』を利用すれば、ロノヲニトの肉体を外部から制御できるようになる。
と言う原理なのだろう。
「ただ、当然と言えば当然何すけど、トトリの特異体質を前提にした物っすから、まだ理論上では問題ないと言うものになるっす」
「あ、じゃあ……」
「ああ、ハルハノイとそこのニルゲを納得させるためにも、この場で一度試してみてくれ」
ただまあ、トトリの特異体質を前提にしているなら、そりゃあ試した事は無いよな。
と言うわけで、トトリがペンダントの効果を試すためにも、蝶番になっている部分を弄って開け、人差し指を乗せる。
「ふぅ……じゃあ、行きますね」
「ああ、何時でもいいぞ」
どうやら準備が整ったらしい。
さて、どうなる?
「えいっ!」
「ん……」
ロノヲニトがゆっくりと片足を上げていき、I字バランスと呼ばれるポーズを取る。
うん。流石はガイノイド。
若干目のやり場に困るが、この程度は苦も無く出来るようだな。
ただこれだとまだロノヲニトの意思かトトリの意思か分からないな。
「やっ!」
「くっ……これは……」
と、思っていたら、そこからロノヲニトはI字バランスの姿勢を保ったまま、上げていたのとは逆の脚を折り曲げて行き、上げていた脚を抑えていた手とは逆の手と合せて、片手片足によるブリッジの姿勢を取る。
ああうん、これはロノヲニトの意思で出来るとは思えないな。
凄くきつそうだ。
「大丈夫か?ロノヲニト」
「ぐっ……くっ……だい……じょうぶだ……」
俺はロノヲニトに声を掛ける。
やはり、かなりきついらしい。
と、そんな時だった。
「ふふっ……、これも我がハルハノイとセッ○スしたい!」
「「「……」」」
ロノヲニトが有り得ないと言うか、言っちゃいけない台詞を大声で口走り、場が凍り付いたのは。




