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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第4章【威風堂々なる前後】

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第183話「警護任務-2」

「ロノヲニト……だと」

 ロノヲニトの名が聞こえると同時に、シーザさんの目が大きく見開かれる。


「どうして貴様がここに居る!」

 そして、次の瞬間にはシーザさんは感情を露わにし、距離を詰め、護身用の警棒をロノヲニトの顔に向けていた。


「さて、どうしてだろうな?ニルゲ(人間)

 対するロノヲニトが浮かべるのは余裕と嘲りを表した笑み。

 ただ、その笑みはシーザさんだけ向けられているようだった。


「貴様……自分が何をしたのかを分かっているのか……」

「その件については以前に答えただろう。お互いに、己の職務を、果たしただけだ」

「貴様……!」

「お姉ちゃん落ち着いて!」

 二人の間の空気が張り詰める。

 ただ、ロノヲニトがわざわざシーザさんの感情を逆なでするように言葉を発している事と、こんな空気になってもライさんがまるで動揺していない辺りからして……まあ、シーザさんが手を出さない限りは大丈夫なのだろう。

 手を出さない限りは。


「ハル」

「言われなくても分かってる。【堅牢なる左】起動」

 うん。このまま放置したら、間違いなくシーザさんの側から手を出して、その結末は碌な事にならないな。

 と言うわけで、落ち着いて話を進めるためにも、俺は低出力版の【堅牢なる左】を起動。


「っと」

「何をする!ハル!」

「はぁ……」

 シーザさんとロノヲニトの間に割って入るように、【堅牢なる左】を伸ばし、二人の居る場を分断する。

 さて、これで二人がぶつかる状況は避けられたな。


「シーザさん。ロノヲニトに対して、色々と思う所が有るのは分かります」

「なら……」

「ですが、この場にロノヲニトが居るのは、最低でも塔長会議が話し合った結果としてのはずです。ロノヲニトを連れ帰った張本人が言う事ではないかもしれませんが、あの作戦で亡くなった人たちの事を思うのならば、ロノヲニトに恨みつらみをぶつけるのではなく、己の職務を果たす事をまず考えるべきではありませんか?」

「ぐっ……」

 俺の言葉にシーザさんは不精不精と言った様子で警棒を降ろす。

 が、その目は未だにロノヲニトの事を恨めしそうに見ている。

 まあ、心の中でどう思っているのかについてまでは、俺から言える事では無いな。


「で、ロノヲニト」

「何だ?ハルハノイ」

「お前もお前だ。こう言っちゃあ悪いが、お前はあの作戦における戦利品だろうが。戦利品なら戦利品らしく大人しくして、むやみやたらに喧嘩を売り買いするような真似はするな」

「いや、今のは向こうから……」

「挑発して、火に油を注いだのは事実だろうが。あんまり勝手な真似をするようなら、ダイオークス側が何を言おうが、俺はお前を遠ざけるぞ」

「う……ごめんなさい」

 俺の言葉にロノヲニトが困ったような表情を見せ、シーザさんに向けて静かに頭を下げる。

 やはり、ロノヲニトの急所は俺らしい。


「さて、そろそろ話を進めて良いっすかね?」

「ライさん。言っておきますけど、後でこういう事なら事前に話を伝えておけと言う抗議はさせてもらいますからね」

「どうぞどうぞ。そう言うクレームならむしろ大歓迎っすよ」

 で、二人が一応にでも落ち着いたところで、この状況を作り出した間接的な原因であるライさんに対して俺は非難の目を向けるが、当のライさんはどこ吹く風と言う感じだった。

 まあ、ライさん自身は、上からの命令でロノヲニトを連れてきただけだろうから、そう言う表情になるのも当然なのかもしれないが。


「じゃっ、始めるっすよ」

「ふん。好きにしろ……」

「我は何時でもいいぞ」

「どうぞ」

 シーザさんは部屋の端の方に行き、ロノヲニトを睨み付けたまま一人で座り込む。

 対するロノヲニトはその場で腕を組んで、笑みを浮かべている。

 部屋の空気は……うん、最悪だな。


「ではまずロノヲニトがこの姿で此処に居る理由っすね」

「「「…………」」」

「此処に居る理由としては、先日の事情聴取とその後の協議の結果っすね。で、その内容っすけど、ロノヲニトには吠竜の肉体を作り上げる際に使った各種金属の精錬技術を用いて、26番塔外勤部隊第32小隊を始めとした一部の小隊の装備作成に協力してもらう事になったんっす」

「そして、その対価として、ガイノイドの肉体を与えた……と」

「そう言う事っす。勿論、ガッチガチに安全対策を施した上で、っすけど」

 まあ、確かに吠竜の肉体を作り上げたロノヲニトの技術については、どこの塔にとっても喉から手が出るほどに欲しい物ではあるだろう。

 なにせ原料さえあれば、吠竜の身体から得られる素材が無限に手に入る事になるのだし、更には、吠竜のブレスなども上手くやれば再現できるかもしれないのだから。


「でもどうして第32小隊(ウチ)に?装備を作らせるだけなら、中央塔大学の方に置いたままで良かったと思うんだけど?」

 ワンスの質問にライさんは満足げな笑みを浮かべる。

 ただ何処となく、邪悪なものを感じる。


「そこはロノヲニト本人の希望と安全対策、それに装備を製作する施設なんかの兼ね合いっすね」

「?」

「我の望みはハルハノイのサポートだからな。出来る限り近くに居た方が良いと判断させてもらった」

「ふん、流石のブラコンだな」

「ふん、何とでも言うがいい」

 再び、シーザさんとロノヲニトの間に火花が散り始めるが、俺が一瞥すると二人とも直ぐに視線を逸らして止める。

 で、ライさんは……うん、どう見ても楽しんでいるな。

 さっきより笑みが濃くなっている。

 まあいい、突っ込んでもさらに状況が混乱するだけだ。

 無視しよう。


「で、安全対策と言うのは?」

「これの事っすよ」

 そして話を進めた結果としてライさんが出してきたのは、一つのペンダントと二つの腕輪だった。

08/22誤字訂正

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