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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第4章【威風堂々なる前後】
181/343

第181話「???-4」

「さて、向こうの調子はどうかにゃー」

 燦々と輝く太陽、白い砂浜、寄せては返す細波、極彩色の熱帯植物の群れ。

 そんな誰がどう見ても、南国の楽園としか表現しようのない空間にその女性は居た。


「んー、まずハルハノイはフェイズ3に移行済み……っと」

 女性は蘇芳色の水着を身に着け、白いビーチチェアに横たわりながら、間から黄色い角を覗かせている橙色の髪を風にそよがせると、赤と青の瞳を自身の目の前に浮かんでいる半透明の画面に向ける。


「ロノヲニトは……ふうん、生き残ったんだ」

 女性の名は『神喰らい』エブリラ=エクリプス。

 ハルハノイとロノヲニトの二人を生み出し、その二人に加えてトトリたちを元居た世界から『クラーレ』へと送り込んだ存在でもある。


「まあ、生き残る可能性については元から想定していた事だし、特に問題はないかな」

 エブリラは自分の脇に浮かせておいたハワイアンな水色のジュースを啜りながら、ロノヲニトが生き残った影響がどう出るかを思案する。


(計画に悪影響が出る可能性は低いかな。元々ロノヲニトに与えておいた任務はハルハノイの援護が主目的だし、ロノヲニトはその事をよく理解している。となれば、生き残ったロノヲニトはミアズマントに偽装するために与えた金属精製能力に、(ブラック)霧鋼(ミスティウム)の生成能力を使ってハルハノイの助けになるような行動をするはず)

 どれだけ飲んでもグラスの中に入っている量が減らないジュースを元の位置に戻したエブリラは、半透明の画面の操作を始める。


(ロノヲニトから私の情報が漏れるのも問題なし。元々生き残る可能性も想定して、最低限の情報しかロノヲニトには与えてないしね。ああでも、私がイヴ・リブラだって件はもうバレているのか。だったら、幾らかの情報は推測できちゃうか)

 画面に映し出されているのは、無数の顔写真とそれに付随する各種データ。


「でもまあ、核心に至るには情報が足りないだろうし、問題はないねー」

 その中にはハルとトトリの顔もあったが、それ以上に目が向くのは多くの顔写真の上に表示された赤いバツ印であり、バツ印が乗せられた写真は色が白黒の物に変化していた。

 まるで、その写真に写っている人物が既に生きていない事を示すようだった。


「それよりも問題なのは、ハルハノイと一緒に送り込んだダミー兼サブの人間たちだよねぇ」

 いや、事実として、赤いバツ印が乗せられた者たちは既に生きていないのだろう。

 その中にはトトリの目の前で死んだとある少女も含まれているのだから。


「どうしてどこの都市も送り込んだ子も、何人かは勝手にシェルターの外に出ちゃうかなー。きちんと外に出たら死ぬぞって、注意勧告をしてあげているのに」

 エブリラは至極不満そうな顔でそう言う。

 だがそこには、自分の注意を聞かずに死んだ者を残念がると同時に、自分の計画へ支障が生じる可能性を忌避する感情は有っても、その死を悼む感情は一切無いようだった。


「本当に人間は困ったものだにゃー」

 だがそれも当然の事だろう。

 『神喰らい』エブリラ=エクリプスはヒトではなく、人間ですらない。

 自分一人でもって一つの世界を為し、己が定めた理にしか従わぬ存在……神とも悪魔とも人から呼ばれる存在なのだから。


「ま、その不確定さが状況を好転させてくれる可能性があると考えている私も、私なんだけどさ」

 エブリラは半透明の画面を消し去ると、一度目を閉じる。


「『守護者(ガーディアン)』お母様が居る世界には入る事は出来ない。けれど、私がお母様に造られた目的を果たすためには、『守護者』お母様が守っている先に行くことは絶対に必要な事。この点だけはどうしようもない」

 そうして考えるのは、神と周囲の者たちから呼ばれるような存在になっても変わらない、己が生み出された時に与えられた存在意義(レゾンデートル)

 たとえ全ての世界を敵に回したとしても、達成しなければならない至上命題。

 自分を自分足らしめる絶対的な柱だった。


「でもそれは『守護者』お母様の意に真正面から反する事。となれば……」

 エブリラは目を開けると、黄色と黒の二色に彩られた半透明の画面を呼び出し、その中央に置かれていたナンバーキーを幾つか押すと、髑髏印が描かれた赤いボタンを押す。


「出てこい『神喰らい』!」

「そろそろ追手がかかる頃だよねー」

 南国の楽園には似合わない剣呑な声が響き渡る。

 と同時に、エブリラはその身を影のような状態へと変え、光の速さでその場で消え去る。


「出て来ないのならばこちらから行くぞ!」

 エブリラがこの場から消え去った直後。

 エブリラが横たわっていたビーチチェアを剣で切り裂きながら、ガスマスクと札付きのフードマントを身に着けた女性が青空に開いた四角い穴から現れる。


「居ない!?」

「モヤ助?」

「くぅん……」

「そう。もう居ないし、追えないんだ」

 四角い穴からは斧を背負った狼耳の少女が、背後に巨大な狼を従えた状態で、エブリラが座っていた場所を見ていた。


「じゃあ、逃げようか」

「ワン」

「ん?何だこの時計は……?」

 そして、少女と狼が穴から南国の楽園を覗くのを止めて、穴から離れた時だった。

 エブリラが消え去る前に呼び出した半透明の画面に表示されていた時計の数字がゼロを示し、その数字が示している物が何なのかをガスマスクの女性が考える間もなく……、


「ぎいやあああぁぁぁ!?」

 南国の楽園の全域が爆発した。

サービスシーン?

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