第180話「確認-2」
「ハル様、トトリ様。一応の整理完了しました」
「ありがとうセブ」
「ありがとねー」
さて、顔から判断しただけではあるが、性別と年齢による整理は一応ついたらしい。
となれば、ここからは俺とトトリの仕事だな。
「じゃ、頑張ろうっか」
「だな」
俺とトトリはお互いに一度肯いた後、十代後半と言う区分がなされた顔写真が集まっているデータから見始める。
勿論、最初にこの区分を選んだのには理由がる。
と言うのも、俺たちと同時期に飛ばされているならば、この十代後半と言うエリアが一番入っている可能性が高いからである。
なお、俺たちがこの世界に飛ばされてきた時期に年単位での差が存在している可能性と、先生が入っている可能性もあるので、他の年齢区分も後で調べるつもりではある。
「「……」」
俺とトトリは黙々と、顔写真を確認していく。
顔の形や、雰囲気と言った部分はそこまで変化が無いとは思っている。
が、髪の毛の色と眼の色が変わっているせいで、きちんと一人ずつ顔を確かめていく必要が有った。
「じゃ、アタシたちは夕食の準備をしてようか」
「そうですね。かなり時間がかかりそうですし」
ワンスたちも、このまま俺たちを見ていても仕方がないと言う事で、各自行動を始める。
うん。夕食の事とかを考えずに、確認作業に没頭できるのはありがたいな。
「それにしても異世界人かぁ……誰だろうね?」
「さあな……と、一人目だ」
「え?あ、本当だ」
と、ここで俺の目に一枚の顔写真が留まる。
そこに写っていたのは、黄色の髪に赤紫色の目をした、何処か見覚えのある一人の青年。
うん。髪の色と眼の色は違うが間違いない。
俺たちのクラスメイトだ。
「じゃ、名前を……元の世界の文字の方で記載しておくか」
「そうだね。その方が説得力があると思うよ」
俺はチェック欄にチェックを入れた上に、名前の欄に元の世界の文字で湯盾ウリヤと言う文字を書き込む。
「それでハル君。湯盾君だけだと思う?」
「どうだろうな……」
トトリの質問に俺は少し悩むが、直ぐに一つの可能性に思い当たる。
「うーん、二人以上異世界人を保護している前提になるけど、その場合なら最低でももう一人は紛れ込ませておくと思う。それこそ、湯盾の方は普段からデコイとして表舞台に立たせておいて、湯盾だけを知っている人間は何処かからか情報を入手しただけの第三者であると見極める罠ぐらいは俺でも思いついたし」
「確かに、これだけの顔写真を保護した異世界人の為に用意したわけだもんね……それぐらいの罠は仕掛けてるかも」
「と言うわけで、調査は続行だな」
「だね」
と言うわけで、俺もトトリも再び顔写真の確認に戻る。
ちなみに……これを言ったらトトリに悪いと思って言わなかったが、この中に在る幾つかの写真は、コンピューターで色んな人の目や鼻と言ったパーツだけを切り出し、適当に組み合わせただけの写真で、さっきの湯盾の写真にしても、髪と眼の色を変えている可能性は否定できないと思う。
この世界の技術力……と言うか、元の世界の技術でも、幾らかの手間暇さえかければそれぐらいの事は出来るだろうし。
なので、俺が確認するべきはやはり顔の輪郭や、鼻の形と言った部分だ。
『ボウツ・リヌス・トキシード』に俺たちと湯盾たち(?)を会わせるつもりがあるのなら、そこを変更する事は無いだろう。
「あ、私も見つけたよ。ハル君」
「お、青凪か」
「だね」
トトリが見つけたクラスメイトにチェックを入れ、名前を書き込む。
ただなんというか……うん。やっぱり、湯盾に比べると目立たないようにしている感じが有るな。
本人の格好と言う意味でも、写真そのものの撮り方と言う意味でもだ。
「じゃ、どんどん探していきますか」
「だね」
さて、これで二人目。
他にも居ないか、きちんと探さないとな。
「「……」」
俺とトトリは再び黙々と顔写真を調べていく。
「そう言えばハル君?」
「なんだ?」
「ハル君はどうして『春夏冬』の三人に気付いたの?」
「ああその事か……」
が、黙々とただ調べていくのはトトリにとってもツラい事だったのか、作業の手を止めない程度に会話をする事になる。
まあ、隠す事でもないし、素直に話してしまうか。
「この前『テトロイド』郊外のシェルターを調べた時が有っただろ?あの時、『テトロイド』側の人たちが『春夏冬』について話していてな。それで時期と名前から、もしかしたらと思ったんだよ」
「そしたら当たりだったの?」
「そ。と言っても、確信が持てたのは吠竜……と言うか、ロノヲニトの件が終わった後のゴダゴダの最中に少しだけあった休憩時間に調べたからなんだけどさ」
「ふうん……」
トトリは微妙に不満そうな顔をしている。
まあ、気持ちは分からないでもないけどさ……。
「いや、本当のことを言えばトトリにも話しておきたかったんだけど、機会が無かったんだよ。それに、先に話を進めるには、ニースさんみたいに上との繋がりがある人に話すしかなかったしさぁ……」
「むう……」
トトリの不満げな表情は変わらない。
でも、こればかりはなぁ……どうしようもない。
なにせ、『春夏冬』の三人は『アーピトキア』所属で、俺たちは『ダイオークス』所属。
所属する都市が違う以上は然るべき筋を通さないと問題が起きる。
その然るべき筋ってのは……まあ、ダイオークス政府の皆さんだ。
となると、やっぱり機会に恵まれなければ、トトリに話す事は無かったと思う。
「分かった。でも次はちゃんと教えてよね」
「ん。分かってる」
そうして俺とトトリは多少微妙な空気の中で、確認作業を進める事となった。




