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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第1章【堅牢なる左】
18/343

第18話「試験準備-4」

「……」

 翌朝。

 俺は睡眠不足と眼の下の隈を自覚しつつも上半身を起こす。

 左腕には誰かが抱きついている感覚が有り、俺はそちらの方に目をやる。


「すぅすぅ……」

 そこには寝癖なのか白い髪を多少跳ねさせた雪飛さんが穏やかな顔で、俺の左腕に抱きつく形で眠っている。


「ん……」

 で、そんな体勢であるならば当然の話ではあるが、左腕の一部に俺と雪飛さん(・・・・)合せて二枚以上の布を挟んだ上ではあるが、マシュマロのように柔らかい何かが当たる感覚がしている。

 ……。

 誤解の無いように言っておこう。

 神が居るのかは分からないが、神に誓って言っておこう。

 俺と雪飛さんは本当に同じベッドに入って、ただ一緒に寝ただけである。

 そう、本当にただ一緒に寝ただけである!

 絶対に!間違いなく!完璧に!ただ一緒に寝ただけである!!

 寝不足なのも俺が自分の理性を保つのに精神を集中していたからであって、他意は無い!

 ヘタレ?玉無し?不能?何とでも言え!あの状況で雪飛さんに手を出して、自意識過剰の性犯罪者に成り下がるよりかは何倍もマシな評価だ!!

 ただでさえ仲の良かった友達を亡くして傷ついている雪飛さんに対して、これ以上鞭打つ事なんて許されるはずないだろうが!!


「うん。よし、大丈夫。手は出してない出してない」

 と言うわけでだ。

 自分の記憶をしっかりと確かめて安心した所で、俺は雪飛さんを起こさないように注意しつつ自分の左腕を引き剥がすと、ベッドの上から下りる。


「とりあえず、朝飯を作ってくるか」

 そして、事前の取り決め通りに俺の手で朝飯を作るべく、静かに部屋の外に出ると、リビングに隣接している台所の方に向かう。


「ふんふふーん♪」

「ん?この匂いと声は?」

 が、台所に繋がる扉の前に来たところで俺は気づく。

 部屋の中から卵やベーコンが焼けるような良い音と匂いがくるのと、聞き覚えのある男性の声……コルチさんの声が聞こえてくる事に。


「コルチさん?どうして此処に?」

「おう、起きたかハル!」

 部屋の扉を開けると、俺が聞いた音の通り、コルチさんが朝食の準備をしている状態でそこに居た。

 俺はゆっくりリビングの中に入る。

 リビング中央のテーブルには既に焼きたてのベーコンエッグが乗せられており、同じく焼きたてのトーストと共に、食欲を誘う香ばしい匂いを周囲に振りまいていた。

 うん。俺が作るよりも遥かに美味しそうな朝食だな。


「いやな、今日の予定をお前らに伝えるついでに、俺の分も含めて朝食ぐらいは用意しておこうと思ってな」

「それはまあ、有り難い話ですけど」

 そう言いながら、コルチさんはスクランブルエッグを手慣れた手つきで作っていき、手近な皿に乗せる。

 ああうん。凄く美味しそうだ。

 ちなみに、コルチさんがこの家の中に入れた理由についてだが、何かあった時の為に、この家の玄関の扉を開けられる人間の一人として事前登録されていたからであり、開けられるメンバーの顔と名前については既に俺も雪飛さんも一通り教えられているので、この点で慌てたりすることは無い。

 ついでに言っておくなら、個室についてはその部屋の主以外には基本的に開けられないようになっているので、俺も雪飛さんもプライベートについてはしっかり守られていると言っていいだろう。


「で、一つ聞きたい事が有るんだが……」

 一通り、朝食を作り終ったためなのか、コルチさんが妙な笑みを浮かべながら後片付けをしていく。

 俺はその笑みに対して微妙に嫌なものを感じ、コルチさんが何を言ってもいいように身構える。


「ヤったの……」

 そして、コルチさんが左手の人差し指と親指で円を作り、その円の中で右手の中指を前後させながら発せられたその言葉を聞いた瞬間。


「ふんっ!」

「かぴゃ!?」

 俺は全身のバネを連動させるように動かして右アッパーをコルチさんの顎に向けて叩き込んでおり、俺の右アッパーを受けたコルチさんは軽く体を浮かした後にその場へ倒れ込む。

 恩人?いいえ、違います。今俺の前に居るコイツはただのスケベおやじで不法侵入者だ!

 さーて、人を縛り上げるのに適当な長さのロープは何処に有ったかなぁ……?確かあったはずなんだよなぁ……ふふふふふ。


「いてて、その反応から察するにやってないのか。つまらねぇな……」

「ちっ、浅かったか」

「舌打ち!?」

 コルチさんは目を見開いてそう言うが、舌打ちぐらいは当然だろうが。

 むしろ追撃されなかっただけ良かったと思いやがれ。


「んー……?ハル君?どうしたのー……?」

「むっ」

「おっ、トトリちゃんも起きてきたみたいだな。よ、よーし、それじゃあ、席について朝食にしようぜー」

 と、ここで雪飛さんが起きて来てしまい、俺によるコルチさんの捕縛活動は実質的なタイムアップを迎えてしまう。

 悔しいと言うよりはしばき足りないが、こうなったらこの場でのこれ以上の追及と制裁は諦めるしかないな。


「おはよーハル君」

「おはよう雪飛さん」

 と言うわけで、俺は諦めて雪飛さんと一緒に朝食を食べ始め、それからコルチさんに今日は試験対策として何をするのかと言う予定を聞き、それを実行することとなった。


 そして、俺と雪飛さんの一週間は、瞬く間に過ぎ去っていった。

このへたれ。ヘタレ!弩ヘタレ!!



掲示板と感想欄について、活動報告でちょっと書かせて頂いたので一読よろしくお願いします。


03/10誤字訂正

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