第179話「確認-1」
「これがそうか」
後で君たちの家の方に送る。
その言葉通り、俺たちが家に帰ると、ダイオークス政府から送られてきたメールがパソコンに届いていた。
アゲートさんの話では、このメールの中に異世界人の写真が複数入っているらしい。
「じゃ、とりあえず展開、出力してみますね」
セブがパソコンを操作して、パソコンのモニターだけでなくテレビの方にもメールの中身を映し出す。
「これは……」
「流石に強かだねぇ」
表示されたメールの中身に、俺やトトリなどは驚きの感情を露わにし、ワンスとナイチェルの二人だけは感心したような笑みを浮かべる。
メールの中には……色取り取りの目と髪の色をした男女の顔写真が何十枚と並べて表示されていた。
「ハル。一応確認だけど、異世界人はハルたちを含めて33人で合っているんだよね」
「ああ、間違いない」
どうしてこんな事になっているのか?
その理由は単純だ。
本当に俺たち……ダイオークスに居る自称異世界人が、自分たちの身内である異世界人の知り合いであるかを確かめるためなのだろう。
その証拠に、各顔写真の下にはチェック欄と名前を書き込むためのスペースも用意されている。
「まあ、これだけの警戒をしてもらえるだけの立場や功績を持っている。と言う事なんだろうな。えーと『ボウツ……」
「『ボウツ・リヌス・トキシード』です」
「そうそう。その『ボウツ・リヌス・トキシード』に保護された俺たちのクラスメイトは」
「まあ、そう言う事だろうな。でなければ、此処までやる意味はない」
ただ、これだけの仕掛けでもって関係のない人物を弾くようにしていると言う事は、どうやら俺たちのクラスメイトは『ボウツ・リヌス・トキシード』にとっても重要な人物として扱われていると言う事だろう。
ダイオークス側が俺の能力について他の都市へ不用意にばらしているとも思えないしな。
しかし、『ボウツ・リヌス・トキシード』って随分と長い名前だな……言いづらい。
「で、これはやっぱりその……」
「まあ、私とハル君で地道にやっていくしかないんじゃないかな。と言うわけでセブ。一先ず男女と年齢で分けてくれる?そうしたら、後は二人で地道に見ていくから」
「分かりました。トトリ様」
いずれにしても、これだけの数の写真をただひたすらに見ていくのは疲れるので、まずはトトリの言うとおり、セブに性別と年齢で分けて貰った方が良いだろう。
で、その間にだ。
「それで『ボウツ・リヌス・トキシード』ってのは、どういう都市なんだ?」
皆から『ボウツ・リヌス・トキシード』に関する基本的な知識を仕入れておくとしよう。
「では私が『ボウツ・リヌス・トキシード』について説明させていただきます。ワンス様たちは私の説明に抜けなどが有った時によろしくお願いします」
「ああ、安心して話して良いよ」
「よろしくナイチェル」
「はい」
と言うわけで、いつもの様にナイチェルに説明してもらおう。
「まず『ボウツ・リヌス・トキシード』ですが、簡単に言ってしまえば宗教都市になります」
「宗教都市?」
宗教と言うと……この世界だから聖陽教会か。
と、俺がその事に思い至ったのを認識した所で、ナイチェルは話を続ける。
「はい。『ボウツ・リヌス・トキシード』は現在聖陽教会の本拠地になっている都市で、全住民の95%以上……実質ほぼ全員が聖陽教会に属していると自覚し、聖陽教会の教えに従って生活しています」
「なるほど」
「ですが、ハル様も知っての通り、聖陽教会には多数の分派が存在、容認されています。そして、『ボウツ・リヌス・トキシード』でもそれは同じことですので、それなりの多様性を有しているようです」
「ふうん……」
まあ、多数の分派が存在し、認められていると言っても、以前俺たちにちょっかいを出してきた自殺派のような連中は居ないんだろうけどな。
あれは今の主流派……と言うか、大体の派閥からしてみれば、目に入り次第排除したい相手だろうし。
「それで『ボウツ・リヌス・トキシード』の政治体型ですが、ダイオークスと同じように塔長たちが居ると同時に、聖陽教会と言う組織の維持と管理の為に教皇と司祭がいます」
「教皇と司祭?」
「はい。聖陽教会の重役に就いている者たちは、直接政治を仕切る事を敢えてしていないようです。その代わり、あまりにも塔長たちが自己の利益だけを追求するような、勝手な真似を続けるようならば……」
「民衆への影響力を行使する……と」
「そう言う事です。尤も、この三百年間、そこまでの事態に陥った事は無いようですが」
うーむ。中々にきな臭い感じもするな。
きっと、教皇も司祭も表だって動かないだけで、実際には裏で色々とやっているんだろう。
そもそもとして、住民の95%以上が信者と言う事は、教育も信者であることを前提とした物だろうし。
後、ナイチェルも裏で何かをやっている点については否定していないしな。
で、そんな風に考えていたら……
「いずれにしても、現教皇エタナール・ファイ・プリエス・アグナトーラスは中立の立場として『ボウツ・リヌス・トキシード』を上手く維持している事だけは確かのようです」
「え?エタナ……?」
「エタナール・ファイ・プリエス・アグナトーラスです。名前の意味までは分かりませんが民衆に支持されている事は確かのようで、恐らくですが、ハル様のクラスメイト達も彼女の庇護下に居るのだと思います。でなければここまでの手間暇をかけて本物かどうかを確かめるとは思えませんから」
「へ、へー……」
お国柄……とでも言えばいいのだろうか?
なんかすごく長い名前が出てきた。
いや、なんて言うか……さ。
今こんな事を気にしてもしょうがないとは思うんだが……この国の人や物の名前を俺は覚えられるんだろうか……。
そんな事が少しだけ気になった。