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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第4章【威風堂々なる前後】
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第173話「事情聴取-2」

 隔離実験室と言うのは、ある意味ではダイオークスで最も厳重な警備が敷かれている場所である。


「周囲には何も無いんだね」

「これなら、隠れて近づく事も離れる事も出来ないだろうな」

 まず隔離実験室が置かれている建物の周囲には、何も無い空間が広がっている。

 特に、その建物唯一の入り口の周囲は徹底的に死角を生むような物が除かれており、誰の目にも触れずに中に入る事は出来ないようになっていた。


「本当に窓一つ無いんだ……」

「おまけに第53層の床とくっついている部分も、最小限みたいですね」

 加えて、コンクリート製と思しき建物には一切の窓が存在しておらず、排気と吸気の為にもうけられていると思しき数本の管と電線以外には、建物を支えるために設けられている幾つかの柱しか建物の下には何も無かったし、その床下も外から簡単に見える様になっていた。

 恐らくは……うん。下の層とエレベーターなどで繋がっていない事を示す為でもあるのだろう。


「加えて、出入り口は二つのエアロックを繋げることで作られていて、そのどちらにも別々に警備班が常駐しているそうです」

「徹底的だなぁ……」

 で、ナイチェルの言うとおり、唯一存在している入口も、そこまでする必要が有るのかと言うほどに厳重な警備が敷かれていた。

 この分だと、外部から無理やり二つのエアロックを破って突破する事はまず不可能と見ていいだろう。

 ちなみに、情報面で見ても、隔離実験室では物理面と同等かそれ以上の警備が敷かれている。

 例えばとある実験の情報を外に出すにしても、直接データを送信する事は出来ず、必ずUSBメモリなどの外部記憶媒体に一度移し、厳重なチェックを受けた上で外に出されるのである。

 うん。本当に厳重だ。


「それにしても、なんでこんなに厳重なんでしょうね?」

「それは中で行われている実験の内容が内容だからなのじゃ」

「トゥリエ教授。それと……」

 と、ここでトゥリエ教授が中央塔大学の本棟の方からやってくる。

 その横には、この前の『テトロイド』近郊のシェルター調査の計画を立てる時に説明役として居た政府の役人さんが立っていた。


「ああ、そう言えばあの時は自己紹介をしていなかったね。アゲート・セージだ。よろしく頼む」

「あ、はい。どうもです」

 役人さん改め、アゲートさんが俺に向かって右手を差し出してきたので、俺は握手に応じる。


「それでトゥリエ教授が居るのは何となく分かりますけど、アゲートさんがこちらに居るのは?」

「勿論、これから隔離実験室内で行われる例の事情聴取に参加させてもらうためだ。ダイオークス政府としても今回の事情聴取から得られるであろう情報には期待を寄せているのだよ」

「なるほど」

「と言うか、吾輩の話は無視なんじゃな……」

 トゥリエ教授が何か言っているが、それはさておいてだ。

 やっぱりダイオークスとしてもロノヲニトについては気になっているのか。

 まあ、俺自身……と言うか、『神喰らい』エブリラ=エクリプスと言う人物に関する件を除いても、ロノヲニトは吠竜含めたミアズマントの生態、『虚空還し』、瘴気等々、多くの事柄に関して非常に詳しく知っているはずだ。

 それらの情報はどれか一つをとっても、その分野に携わる人間にとっては喉から手が出るほどに欲しいだろうし、お偉方にとっても今後の各種方策を立てる上で役に立つだろう。

 だから、アゲートさんが此処に来た。


「え、えと、トゥリエ教授。実験の内容が内容と言うのは?」

「ぐすん……うむ。これは吾輩が学生時代の話じゃが、隔離実験室で鼠級ミアズマントを生きたまま観察すると言う実験を行ったことが有るのじゃ。あ、もちろん許可を取った上でじゃぞ」

 少しでも多くの正確な情報を手にするために。


「それでなそれでな……」

「さて、何時までも立ち話をしているのも何だ。そろそろ行くとしよう」

「そうですね。そうしましょうか。全員行くぞー」

「あっ、うん。トゥリエ教授」

「…………」

 ただ……こんな重要な事を任されるとなると、もしかしなくてもアゲートさんってダイオークス政府全体の中でも、かなり重要な立ち位置を占めているんじゃ……。

 まあ、確認のしようが無いので、気にしないでおくが。


「入棟希望の方々ですね」

「そうだ」

「では、こちらにそれぞれサインを」

「分かった」

 と言うわけで、アゲートさんも加えた俺たち九人は全員揃ってエアロックに入ると、事前に用意された書類にサインをした上で、次のエアロックに移動。

 二つ目のエアロックでも同じようにサインをして、建物本体の中に入る。

 うーん。本当に面倒なぐらい厳重だな。


「ふむ。普段よりも更に厳重になっているようじゃな」

 尤も、トゥリエ教授の呟いた言葉からして、今の隔離実験室の警備体制は普段よりも一段厳しい物になっているようだし、まるでミアズマントと戦っている時のように肌がピり付くような感覚を俺も覚えている。


「さて、それで例のが居る実験室は……こっちのようだな」

「一応、俺が先頭で歩いておきます。何と言うか、空気がピリピリしている感じがするんで」

「そうだな。全員、それなりに警戒をしておけ」

「分かってるよ」

 俺はアゲートさんの前に出て、先頭を歩きだす。

 そして、俺以外の面々も、シーザさんとワンスの二人と言う何か有った時に戦える面々が、それ以外の面子を囲んで、何時でも守れるように動きだす。


「ここがそうか」

 そうして、しばらく歩いていると、俺たちの前に一つの扉が見えてくる。


「では、行きましょうか」

 俺はその扉をゆっくりと開けた。

08/14誤字訂正

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