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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第3章【不抜なる下】
166/343

第166話「M3-7」

「ぐうっ!?」

 吠竜の喉に突っ込んだ【不抜なる下】の尾に何か細かくて熱い物が無数に当たってくる。

 そして、その痛みによって俺は吠竜の攻撃の正体を悟る。

 そう、吠竜の口から放たれていた光線の正体、それは吠竜の体内で加速と加熱が行われた金属粒子だった。

 どうやって加熱と加速が行われているのかまでは分からないが、少なくとも吠竜の攻撃の正体についてはそれで間違いなかった。


『!?』

「うおっ!?」

 吠竜の喉の方から爆発音のような物が聞こえ、それと共に尾にかかっていた熱と圧力が消える。

 俺の今の位置から何が起きたのかについての詳細は分からない。


「だけど……チャンスだ!」

『【堅牢なる左】起動。鍵爪『竜』・『鯨』・『樹』の保有を確認。【苛烈なる(アサルト)(ライト)】・三本(スリー)(フィンガー)を起動』

 分からないが、吠竜の首の部分に何かしらの被害が発生し、俺を噛み砕こうとする顎の力含めて、僅かの間ではあるが、俺が体を動かす自由が生じた事は確かだった。


『起動時間は最大五秒になります』

「十分!」

 故に俺は【不抜なる下】を低出力版に落としながらリロードすると、その尾を手近なビルに突き刺し、【堅牢なる左】の爪を吠竜の下顎に突き立て、【苛烈なる右】の人差し指と中指の爪は吠竜の上顎を突き破って外気に触れるほど深く突き刺す。

 と同時に、調査の為に預けていたはずのつい先日見つけた樹木の装飾が施された短剣が【苛烈なる右】の親指部分に何処からともなく現れ、短剣を中心として太くて長い一本の爪を形成する。


「ぬん!」

『ギッ!?』

 俺は躊躇いなく親指の爪を吠竜の上顎に突き立てる。

 狙いは頭部の中でも最も重要な部分。

 吠竜の身体の各部位に指令を送るための器官の一つが間違いなく存在している場所。

 つまりは人で言う所の脳である。

 だが、脳を突き刺した程度で吠竜が死ぬとは思えなかった。

 だから俺は……


「おりゃあああぁぁぁ!」

『ギギャアアアァァァ!?』

 吠竜が凄まじい声量で叫び声を上げるのも気にせずに、吠竜の両顎に爪を突き立てたまま、吠竜の顎を切り裂いてしまわないように注意しつつ、円を描くように両腕と体を回転させる。

 すると当然、吠竜の頭も俺の回転に合わせて回り出し……尾を引くことによって俺の身体が吠竜の口の外に出ようとしている事も相まって、先程の爆発によって強度が落ちていた部分を起点として……捩じ切れる!


「ふんっ!」

『今だ!やれ!!アタック2!アタック3!シュート2!シュート3!』

 俺は尾が突き刺さっていたビルに到達すると、吠竜の頭を投げ捨てる。

 そして、俺が吠竜の口の外に出るのと同時にオルガさんの声が無線機から聞こえてくる。


『『『おりゃあああぁぁぁ!!』』』

 見れば、捩じ切れた首から大量の瘴液を噴き上げている吠竜に向かって『雷応油』や酸の槍、ワイヤーロープを編んで作られた網などが投げかけられると同時に、吠竜の脇腹へ『雷霆』が叩き込まれていた。


『カウント3!2!1!起動!』

 そして『雷霆』が起動し……、


『ギギャギャギャygtrfでwさq!!?』

 再び……いや、一回目の時よりも更に強い雷光に吠竜の全身が包まれ、電撃の流れに合わせるように頭を失った吠竜の肉体が激しく暴れ狂う。

 何と言うか……オルガさんが俺の脱出を待っていてくれていたのかが分からないので、口に出す事は無いのだが、アレに巻き込まれなくてよかったなぁ……とは素直に思う。


『やったのか?』

『さあな』

『油断するなよ。相手は竜級だ』

 やがて『雷霆』の放電も止み、吠竜は轟音と大きな揺れを伴いながら、全身を脱力させて崩れ落ちる。

 と同時に、無線機からは俺と同じように吠竜の様子を見守っている隊員たちの声が聞こえてくる。


『こちらコマンド。サーチベース。次の核が活動を開始する前兆のような物は有るか?』

『こちらサーチベース。今のところは何も』

 オルガさんがトトリに質問する声が聞こえてくる。

 複数の核……か。

 事前の説明では、あれほどの巨体を円滑に動かす為に、吠竜の体内にはお互いに同期させた複数の司令部や瘴液ポンプが有るかもしれないと言う話だったが……。


『おいおい、『雷霆』二発以外にもかなりの攻撃を叩き込んでいるんだぜ。これで立ち上がるなんていくら竜級でも……』

『おい待て!』

『嘘だろ……』

「なっ……」

 そうして吠竜の周囲で俺たちがその様子を油断なく監視している時だった。


「あれだけやられたのに……」

『……』

 頭部を失った吠竜の身体が再び動き出し、後ろ脚二本を使ってその場で立ち上がる。


「っつ!?」

 そして吠竜が完全に立ち上がった時だった。

 俺の全身に得も言われぬ悪寒のような物が走る。

 悪寒の出所は吠竜の体内奥深くから、吠竜の首の方に向かって移動しているようだった。

 正体は分からない。

 だが、とにかくヤバい何かが吠竜の体内に蠢いている事だけは分かった。


マルダァク(まったく)

「全員気を付けろ!何か出てくる!」

『『『!?』』』

 気が付けば俺は戦場全域に聞こえるような声量で、警戒の言葉を叫んでいた。

 だが、直ぐにその叫びが正しかった事は理解できた。


サスルガ(流石は)

 吠竜の首の根元、人で言うなら鎖骨の間に当たる部分にあった装甲版が内側から吹き飛ばされ、吠竜の体内に続く穴が開く。


フホォンメイ(本命)

 その穴の中から出てきたのは無数のコードとカメラとスピーカー。


サバト(様と)

 それらはまるで生物のように蠢き、絡み合い、一つの形を成していく。


イデルコトカス(言ったところか)

 為された形は頭に角のような物が付いた人間。


『何だコイツは……』

『気持ち悪いなんてもんじゃねえぞ……』

 だがその全身にはヒトの目を精巧に模したカメラと、ヒトの口を象ったようなスピーカーが無数に配され、大きさこそ普通の人間と変わらないが、見る者全てに嫌悪感を与えるような姿だった。

 しかし、そんな相手の見た目以上に俺が嫌悪感を抱いたのは……


マルアス(まあいい)

「黒い……槍?」

 いつの間にか奴の肉体と同じように吠竜の体内から出てきた、細く……そして、恐ろしく長い一本の黒い槍であった。


ワルガナ(我が名は)ロノヲニト。アルテウマノ(当て馬の)イルジヲ(意地を)ミルセツケテ(見せつけて)ヤルゥオ(やろう)

 そして、奴……ロノヲニトはその槍の穂先を俺に付きつけた。

08/05誤字訂正

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