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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第3章【不抜なる下】
165/343

第165話「M3-6」

「っ……」

 砲撃による衝撃波が、砲弾に仕込まれた炸薬による爆風が、吠竜とその周囲に居る全てのものを大きく振るわせる。

 そして、その振動に合わせるように粉塵が舞い上がり、瘴気と混ざり合って視界を極端に悪くする。


「やった……のか?」

『こちらコマンド。サーチベースに現状の調査と報告を要請』

 俺は視覚による状況把握を諦め、周囲の音と無線機から聞こえてくる声に意識を向ける。

 これでまだ吠竜が生きているのであれば、俺はいち早く出て、吠竜の首か尾のどちらかを止めるぐらいはしなければならない。

 死んでいるならば……諸手を上げて喜ぶだけだな。


『こちらサーチベース。吠竜はシュート1の攻撃によって現在横転中。今のところは活動している様子は……』

『ギュゥゥゥ……』

「ん?」

 そんな時だった。

 俺の耳が微かな音を捉える。

 音の出所は未だに舞い上がっている粉塵の為によく分からない。

 だが何となく、吠竜の方に向かって周囲の空気が流れ込んでいるような気が……、


『よし、シュート1は準備ができ次第、次弾を装填、発射……』

『っつ!?吠竜活動再開します!』

『何っ!?』

「まさか!?」

 トトリの吠竜が活動を再開すると言う言葉が聞こえてきた時、周囲の粉塵はだいぶ薄れ、立ち上がった吠竜の姿をおぼろげながらに確認できる程度には視界は良くなっていた。

 立ち上がった吠竜は両方の翼の大半が焼け落ち、鱗が所々剥げ、脇腹の辺りには大量の瘴液を流した跡が有った。

 だがそんな吠竜の身体の中で今一番に注目するべきは、首の付け根の部分に小さな穴が開き、そこから現在進行形で大量の空気が取り込まれている事と、首の部分から何かが回転するような駆動音がしている事、そして、吠竜の頭が先程砲撃を放ったシュート1が居る方向に向いている点だった。


「!?」

『逃げろシュート1!!』

『えっ?』

『ーーーーーーーーーー!!』

 拙い。

 俺がそう思って、動き出そうとした瞬間だった。

 吠竜の口から赤く発光した何かが一直線に放たれ、先程放たれた砲撃の道筋を逆側からなぞる様に飛んでいく。


『ーーーーー!?』

 一秒にも満たない間に吠竜の口から放たれていた何かは消える。

 そして、光が消えた直後に無線機からは断末魔が、光の到達点からは爆発音が聞こえてくる。


『グルアアアァァァ!!』

「くそっ……」

『化け物め……』

 己の戦果と健在ぶりを示すように吠竜は吠え、周囲一帯にその声が響き渡る。

 その声に俺やオルガさんたちは苛立たされ、一部からは大きく動揺した気配が伝わってくる。


『くっ、まだ勝負が決したわけではない!全員、それぞれの役目を果たす事に……』

『ギュゥゥゥ……』

「またか!?」

 オルガさんが激励の言葉を全員に飛ばそうとするが、それどころでは無かった。

 吠竜は再び先程の攻撃を放とうと準備を始めていた。

 しかもその矛先が向いているのは……防御用陣地。

 つまりは頭であるオルガさんを狙ったものだった。

 いや、それどころか、今の攻撃の威力からして、攻撃の進路上に有るダイオークスにも被害を与えられる可能性すらあった。


「させるか!」

 故に俺は【堅牢なる左】と【苛烈なる右】によって自分の身体を飛ばす事によって、吠竜に向かう。


「【不抜なる下】【苛烈なる右】!」

 そして【苛烈なる右】の射程圏内に吠竜の頭が入ったところで、【不抜なる下】によって自分の位置を固定、全力の一撃を吠竜の頭に入れようと、俺は右腕を振り上げる。

 その時だった。


『グルッ』

「なっ!?」

 吠竜が笑った。

 微かな鳴き声だけで、口も何も動いては居なかったが、確かに俺はそう感じた。

 そして、まるで俺が攻撃を仕掛ける事を知っていたかのように、吠竜は首を僅かに退くことによって【苛烈なる右】を躱す。


『ガアアアアァッ!』

「やばっ!?」

 俺がその事に唖然とする間もなく、俺の攻撃を躱した吠竜の口が、剣山のように口内に敷き詰められた無数の刃を露わにした状態で俺に向かってくる。

 その攻撃を躱す余裕は、【不抜なる下】によって空中に制止している俺には無かった。


「ぐっ!?」

 そして、吠竜の口が閉ざされれば確実に俺の命は無い事だけは間違いなかった。

 故に俺は咄嗟に【堅牢なる左】と【苛烈なる右】を一度解除すると、吠竜の口内に身体が入ったところでそれらを再発動。

 吠竜の牙が突き刺さる痛みをこらえながら、【堅牢なる左】を下顎に向けて、【苛烈なる右】を上顎に向けて発動する事によって、ギリギリ噛み合わされることを防ぐ。


「ぐぎっ、ぐぎぎぎぎ……」

 だが危機は過ぎ去っていなかった。

 吠竜の顎の力は強く、一瞬でも気を抜けば、そのまま噛み潰されるだけの力が俺の全身にかかっていた。

 おまけに、吠竜の口の奥からは強い風のような物が吹き始めており、俺にはそれが先程の吠竜の口から放たれた攻撃の前兆である事が直感出来てしまった。


「何か……手は……!?」

 俺は痛みに耐えながら、必死に何か手は無いかと探る。

 【堅牢なる左】と【苛烈なる右】は下手に動かせない。

 下手に動かせば、そのまま噛み砕かれる。

 外の面々は頼れない。

 俺が【不抜なる下】によって自分の座標を固定している為に吠竜も頭の位置が固定され、大きく動けなくなってはいるが、それでも尾と四本の脚を動かして暴れまわっているのは音だけで何となく想像できたからだ。

 はっきり言って、今の俺が動かせるのは、【不抜なる下】の尾だけだった。


「くそっ!?こうなればもう一か八かだ!」

 吠竜の口の奥から放たれる風が強くなってくる。

 俺はそんな中で、一縷の望みをかけて、低出力版の【不抜なる下】の尾を吠竜の口内の奥深くに向かって挿し込み、その状態で限界にまでサイズを大きくするべく、出力を上昇。

 【不抜なる下】の鱗が生え揃った尾によって、吠竜の喉は蓋をされる。


『ゲガッ!?』

 そしてそれはやってきた。

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