第160話「M3-1」
『ブーブーブー!』
「っつ!?」
眠っていた頭を一気に覚醒させるような警告音が部屋中にけたたましく鳴り響く。
そして、俺はその音に求められいる効果通り、一瞬にして眠っている状態から起きている状態……それも臨戦態勢に近い状態にまで頭を一気に覚醒させると、急いで服を着替える。
何か妙な夢を見た覚えもあるが、それどころではない。
『緊急事態発生!緊急事態発生!』
「ハル君!」
「トトリたちか」
服を着替え終えた俺は部屋の外に出ると、リビングで警告音の原因を調べる。
そうしている間にも、俺と同じようにこの警告音で起こされたのか、トトリたちが慌てた様子でリビングにやってくる。
「状況は?」
「詳しくは何とも。ただ、26番塔全体に緊急事態警報が発令され、外勤部隊に所属する全隊員は第1層にあるそれぞれの格納庫に集合する事が求められています」
「なるほど。どうやら、詳しい状況説明や各員への任務に関しては、各小隊が格納庫に着いてからになるようですね」
俺はシーザさんたちにリビングのパソコンに届いていた26番塔からの任務を説明し、ナイチェルがその補足をしてくれる。
「分かった。そう言う事なら、今すぐ全員で第1層に向かうとしよう」
「「「了解」」」
そして俺たちは最低限身なりが整えられている事を確認すると、自宅を飛び出し、層の中心にあるエレベーターへと向かう。
「それにしても、一体何が有ったんでしょうね?」
「エレベーターの状態からして、ただ事で無い事は確かだろうね」
現在の時刻はだいたい夜が明ける直前。
元々この時間帯にエレベーターを利用する人間は少ないが、既にエレベーターは外勤部隊と外勤部隊に関わりのある人間以外には使えないようになっているようだった。
また、外勤部隊に関わりのありそうな人間以外が起きて来ていないところを見ると、どうやらまだ緊急事態警報を一部の人間にだけ出す程度の状況らしい。
尤も、緊急事態警報が出ること自体、かなりの異常が発生している事を示しているのだが。
「「「…………」」」
エレベーター内には数多くの人間が乗り込んでいたが、誰も一言も発しない。
全員が既に外に出ている時と同じ程度の緊張感を持っているようだった。
やがて、一度の乗り換えを挟んで俺たちは第1層に移動すると、無言のまま駆け足で自らの小隊の格納庫……第32格納庫に向かい、待機室を抜け、格納庫に移動する。
『詳しい状況とこれからの行動についてを説明します』
格納庫に移動し、それぞれに防護服を着始めた俺たちの耳に、待機室に残って26番塔からの任務の内容を確認するナイチェルの声が、マイクとスピーカーによって拡大された状態で聞こえてくる。
『まず現在の状況は、コード:イエロー。全外勤部隊に出動が要請されている状況です。そして、26番塔だけでなく、25番塔と27番塔にも同レベルの警報が発令されています。また、緊急事態警報が発令されたのに合わせて、第1層回廊のWゲート-40番塔間とNNWゲート-28番塔間が封鎖され、代わりにW、NWW、NW、NNWの四ゲートが常時開放されています』
コード:イエロー……まだ住民を避難させる必要性は出ていないって事か。
しかし25番塔と27番塔にも同じ警報?
おまけに四ゲートを全開にするとは、相当だな。
まさか……、
『警報が発令された原因は、旧市街に生息する竜級ミアズマント・タイプ:ドラゴン。通称吠竜の活動が活発化し、ダイオークスの方に向かって来ている為。どうやら一時間ほど前に行動を開始し、後一時間もすれば、ダイオークスに到達する可能性があるようです』
やっぱりか……。
今のダイオークス周辺の状況で、緊急事態警報が出るとしたらそんなところだと思っていたが、まさかに近い部分もあるな。
なにせ吠竜はグータラ竜なんてあだ名が付けられそうになったミアズマントなわけだし。
『この事態に26番塔塔長オルク・コンダクトは吠竜の迎撃と撃退を行う事を決定。26番塔外勤部隊第1小隊隊長オルガ・コンダクトを総指揮官として、25番塔と27番塔の両外勤部隊と連携して、『吠竜撃退作戦』を決行します』
いずれにしても、竜級ミアズマントがダイオークスに迫って来ているような状況なのだ。
逃げる事はおろか、退く事も許されない事だけは確かだろう。
『ここからは第32小隊に与えられる任務になります』
俺たちはお互いに防護服の状態に問題が無いかを確認し合うと、キャリアーに乗り込み、セブがキャリアーのエンジンを始動させる。
と同時に、ミスリさんが待機室に戻り、ナイチェルの声が出ているスピーカーも格納庫の物からキャリアー内の物に変更される。
『第32小隊はNWWゲートから外に移動。外に出た所で直ぐに右折をしてもらい、そこでトトリ様と『テンテスツ』を降ろしてもらいます』
「え!?」
ナイチェルの言葉にトトリが驚きの声を上げる。
が、ナイチェルはトトリの驚きを無視して、話を続ける。
『その後、シーザ隊長たちはNWゲート-NWWゲート間にて26番塔の外勤部隊が集合していますので、合流。そこからは現場の総指揮官であるオルガ・コンダクトの指示に従うようにとの事です』
「えと……私は?」
『トトリ様はNWWゲート管理局と合流。『サーチビット・テスツ』が用意されているそうです』
「つまり適材適所って事か」
「確かに、竜級ミアズマント相手に確実かつ安全に偵察を出来るのは、それ専門の特異体質か、トトリの『サーチビット・テスツ』ぐらいだろうね」
「……分かった。頑張る」
まずは一度集合してから、再度振り分け……か。
中でやるよりかは効率が良さそうだな。
それと、俺たちとトトリで別行動をとると言う任務内容に、一瞬トトリが省かれたとも思ったが、むしろ前線に立つ俺たちよりも重要かもしれないポジションだったようだ。
『私とミスリ様もこの後NWWゲート管理局の方に向かいますので、トトリ様とはそこでまたお会いしましょう。では、格納庫を開きます。お気を付けください』
「了解」
第32格納庫の第1層回廊に繋がる扉が開かれ、瘴気が流れ込んでくる。
そして、扉が完全に開いたところで、俺たちを乗せたキャリアーはゆっくりと走り出した。
07/30誤字訂正




