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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第1章【堅牢なる左】
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第16話「試験準備-2」

「だ、ダスパさん!?一体何を考えているんですか!?」

「…………」

 俺は思わず大きな声を上げながら、ダスパさんの方に詰め寄る。

 が、ダスパさんの顔は至極申し訳なさそうにはしていたものの、明らかに俺と顔を合わせる気が無い事を示す方に向いていた。

 いやだがしかしだ!ここで退くのは拙い!色んな意味で!!


「ダスパさーん?」

 俺は出来る限り相手を威圧するような声音でもって、ダスパさんに説明を要求する。


「いやまあ、ハルの気持ちも分かるではやんすが、これには止むを得ない理由が有るんでやんすよ」

「止むを得ない理由?」

 が、その答えはダスパさんの隣に居たライさんから返ってきた。

 ちなみに現在、雪飛さんは現実逃避中なのか、家の方を見て乾いた笑みを浮かべている。

 なので、尚更俺が踏ん張らないといけない状況なのである。


「そうでやんす。まず上からの命令で、出来る限り二人の居住地を近くにするか、一緒にするようにしろと言う通達が来ていたんでやんすよ。おまけにその居住地は常識差からの軋轢を防ぐために、とりあえず彼らがこちらに馴染むまでは異世界人だけが住むようにしろと言う条件付きでやんす」

「でまあ……幾らダイオークスの中が外に比べれば格別に安全だとは言っても、年頃の女子が一人暮らしをするのは流石に良くないとオルガにガーベジ、その他数名の俺の知り合いの女性から言われちまってな……」

「うぐっ……」

 しかし、提示された理由は予想以上に真っ当な物だった。

 確かに最初から常識も何も違う可能性がある相手と一緒に暮らすと言うのは、お互いにとって多大なストレスになるだろう。

 それに、人が人である限りは、やはり犯罪と言う物はどうしても起き、その対象として一人暮らしの女性が狙われやすいと言うのも納得する他無い話だった。

 同時に俺と雪飛さんが一緒に住めば、その内の幾らかの問題にはけりがつくと言う事実もだ。


「まあ、安心しろ。困った時には俺、ガーベジ、ニース、コルチ、ライの内の誰かが直ぐに駆けつけられるような場所は選んだし、この層自体の治安も良い方だ」

「そ、それでも、夫婦でも無い男女が一つ屋根の下で暮らすと言うのは流石に問題が……」

 だがそれでも俺としてはここで退くわけにはいかず、ごねるように問題点を上げる。

 と言うかどう考えても家族でもないどころか、カップルですらない男女が一緒の家に住むと言うのは拙いだろう。

 何か間違いが有った時に、お互いにとって非常に不幸な未来が待ち受けているとしか思えない。

 いや、俺自身はそんな間違いを起こす気なんて毛頭ないが、それでも万が一……、万が一の事を考えると災いの芽は事前に摘んでおくべきだろう。

 人間の理性なんて状況次第では恐ろしく脆い物なんだし……。


「大丈夫でやんすよ。家の中にしても複数人分の内側からカギが掛けられる個室が有るでやんすから、間違いを起こしたくなかったら、きちんとその中に閉じこもっておけばいいんでやんすよ。後は二階を男子禁制にしておくとかと言う手もあるでやんすね」

「うぐっ……」

 が、ライさんから普通の状況なら有り難く、今の俺にとっては有り難くない言葉が投げかけられてしまう。

 その言葉に俺は言葉を詰まらせながらも、何か逆転の一手は無いかと素早く思考を重ねる。


「で、でも仮に俺が良かったとしても雪飛さんが嫌だって言うのなら、変えるべきなんじゃ……」

 そして切ったのは、雪飛さんに理由を求めると言う、後から考えてみれば実に情けなく、しかも最悪の一手だった。

 と言うのもだ。


「え!?は、羽井君!べ、別に私は嫌じゃ無いよ!」

「!?」

「おっ」

「つみっすねー」

 雪飛さんから出てきたのは、俺との同居を認める言葉だったからである。

 その言葉に対して何か上手い返しをすれば、もしかしたらまだ抗えたのかもしれない。

 が、この時の俺には、雪飛さんが若干の上目づかいに熱っぽい言い方をしたその言葉に対して固まる以外の反応は出来なかった。


「あ、え!?いやその、羽井君が好きだとかそんな事じゃなくてね、異世界……じゃなくて、こんな大きな家で、一人ぼっちって言うのは寂しいし、何か有った時だって困るじゃない?それに……羽井君だったら、そんな間違いとかだって起こらないだろうし……」

「…………」

 自分自身でも考えがまとまり切っていなかったり、後でこの言い方だと拙いと気づいて後付けの修正をしているために雪飛さんの言い方はたどたどしく、混乱に満ちており、このまま放置しておくと色々と俺にとって拙い発言も出そうな感じがしていた。

 そんな雪飛さんを見ながら、ダスパさんとライさんの二人は俺に対して諦めろと言わんばかりに肩を叩く。

 ああうん、アレだね。

 この状況でまだ俺がごねたら、たぶん玉無し扱いになるんだろうね。

 流石にそれは嫌だって言うか、俺にも男としての意地とか矜持は有るので、これはもう腹をくくって諦めるしかないな。


「えと……えと……だからその……」

「ああうん。分かったよ雪飛さん。もう分かったから、後はまず家の中に入ってからにしよ?ね?色々決めないといけないことだってあるしさ」

「あ、うん。そうだね羽井君。そうしよっか」

 と言うわけで、暴走しかけていた雪飛さんを止めると、俺と雪飛さんはダスパさんたちと一緒に家の玄関のドアをくぐるのであった。


 ちなみにライさん曰く。


「そうそう、この家でやんすけど、ちゃんと防音されているっすから、窓を開けていなければ中で何をしても大丈夫っすよ」


 との事だが、余計なお世話だと声を大にして言いたい。

 後の追及が分かり切っていたので言わなかったが。

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