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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第3章【不抜なる下】
159/343

第159話「???-2」

「ふんふんふふーん♪」

 これは夢だ。

 それは間違いない。


「ふんにゃにゃふんふふーん♪」

 けれどただの夢でも無かった。

 これは過去に本当に有った事なのだから。


「順調順調。この分なら、近い内に始められるかな」

 そう、これは俺が羽井ハルと言う名と姿を得る前の話。

 暖かな羊水に満たされた母の胎の中では無く、冷たい培養液に満たされた鋼鉄とガラスのシリンダーに浮かんでいた頃の話。


「と、駄目な子発見。ポイッとな」

 聞き覚えのある声が響くのと同時に、何処かのシリンダーから液体が抜けるような音と、何かの叫びのような物が耳では無い器官を伝わって聞こえてくる。


「んー……」

 そしてその声の源である存在が俺の前に現れる。


「この子は良い感じだね。自己法則維持もしっかりと出来ているみたいだし」

 その存在は女性ではあったが、ヒトでは無かった。

 何故ならば、女性の頭には橙色の髪の間から黄色い角の様なものが一対生え揃ろっていたからだ。

 加えて、その瞳は右が赤で、左が青であり、チャイナドレスのような服の上から白衣を羽織ると言う服装も含めて、容姿は異常なほどに整っていた。


「と、電話か。もしもしエレシー?何の用?」

 女性が長方形の物体を取り出して耳に当てる。


「うん?アバター?心配しなくても、装備含めてほぼ完成済み。後はアンタがプレイヤーたちに与えた猶予期間の間に発生した変化に合わせて調整するだけだから、ポッド内の設備だけで自動対応できるよ。だから、アバドモルの準備が終わり次第、順次『インターフェラー・ドライバー』に装填して廃棄場にぶち込んでいいと思うよ」

 女性が何を言っているのかは理解できない。

 けれど恐らくは、俺が理解をしても意味が無い事なのだろう。


「じゃ、頑張ってねー」

 女性は長方形の物体を懐に収める。


「ニャハハハ。さーて、チャンスが巡って来たのニャー。ハンゴンハクザクも倒した事だし、急いで私のアバター(フェルミオ)に細工を施さないとニャー」

 次の瞬間。

 女性が浮かべたのは、底知れぬ狂気と混沌を感じさせる邪悪な笑み。

 そして、女性が笑みを浮かべるのと同時に、近くに在った幾つかのシリンダーの中から、再び耳には聞こえない叫びのような物が聞こえ、それと同時に液体が抜けるような音も聞こえてくる。


「あ、やっちゃった。んー……まあいいか。この程度に耐えられないような子なら、どの道先は見えてるもんね。じゃ、ウスヤミさんに見つからないように、とっとと細工を施すのニャー」

 女性はそう言うと何処かに向かって消え去る。


------------


 それから数分後。


「とりあえず歩き回って見るか」

 先程の女性とは違う声、若い男性の声が聞こえてくる。

 男性は狼をモチーフにした、何処かの辺境に居る原住民のような格好をしていた。


「ん?アバター起動してんじゃん。もー、管理はしっかりしてよね」

 そして、その声を聞き付けたのか、何処かに消え去っていた先程の女性も戻ってくる。


「エレシー?聞こえてる?うん。私。アンタの奴……」

 その後、この二人の間でどのような会話が為されたのかは、俺には分からない。

 だが、不思議とこの言葉だけははっきりと聞き取れた。


「……私は『神喰らい』……」

 『神喰らい』。

 恐らくそれがこの女性の名か、それに準ずるものなのだろう。

 どういう意味なのかは分からない。

 分からないが、この名だけは絶対に忘れてはいけないと感じた。


「ま、警戒するしないは勝手だけどね」

 『神喰らい』がこちらに近寄ってくる。

 と同時に、『神喰らい』が何かをしたのか、男性は部屋の外に弾き飛ばされ、その姿は見えなくなってしまう。


「それにしても人間ってのは、やっぱり油断ならないね。神々と違って不確定要素が多過ぎるせいで、時々とんでもない存在が出てきちゃうし。あの感じだと、そう遠くない内に、人から神に成り上がるかも」

 『神喰らい』は俺が入っているシリンダーを見て、何かの操作をしながら、独り言を呟き続ける。


「んー……不確定要素が多い……か」

 と、ここで突然『神喰らい』が俺の事を見つめてくる。


「んー、どうせ何かしらの偽装をしないと『守護者(ガーディアン)』お母様の目は欺けず、突入させた瞬間に握り潰されるだけなんだよね。そうでなくとも、出禁を喰らっている私に連なる存在は感知されやすいし……」

 なにかとても嫌な予感をこの時の俺は感じていた。

 けれど、今の俺からして見れば、それは幸福の兆しに感じた。


「うん。適当な世界で死産する予定の母親を見つけて、お腹の子とこの子を混ぜちゃおう。そうすれば、私以外が混ざって偽装が出来るし、人間特有の不確定要素もこの子の中に入る。不確定要素がプラスに働くか、マイナスに働くのかは賭けになるけど……まあ、そこは数打てば当たるって奴で何とかなるよね」

 そう言うと、『神喰らい』は笑顔のまま、何処かに向かって歩いていく。


「……」

 所詮は夢の中、過去の出来事。

 全ては既に終わった事であり、今の俺にはどうする事も出来なかった。


 やがて、幾らかの時間が経った頃。

 死神(デス)の断末魔と狂いを正す者(サニティ)の吐き捨てるような声、それから邪悪なる母の高笑いがそれまでの叫びたちと同じように聞こえて来たのと同時に、俺の意識は夢の世界から遠ざかっていった。

約一年半前に張った伏線をようやく回収しました。

意味が分からない?

そう言う方は、拙作「Hunter and Smith Online」の241話~242話をご覧くださいませ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 蝙蝠の翼が生えた首長竜かぁ……
[一言] あそこに繋がるんかいっ! いやぁ……うわぁ……(色々すぎて言葉にならない)
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