表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第3章【不抜なる下】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

154/343

第154話「つかの間の休息-1」

 任務から帰ってきた次の日の朝。


「ああ、周囲を警戒しなくていいって楽だなぁ……」

「なんだかんだで任務中はずっと壁一枚挟んで瘴気が有ったからねぇ……」

「お茶が美味しいですねー……」

 俺たちは自宅で遅めの朝食を味わっていた、

 なお、本日の朝食当番はナイチェルとミスリさんの二人である。

 勿論、長期間の任務で疲れていた俺たちを気遣っての行動であり、まだ任務の疲れが取れ切っていない俺たちとしては嬉しい事この上ない。

 あー、本当に周囲を警戒しないで飲むお茶は美味しいなぁ……。


「気持ちは分かるが、全員間違っても外でそう言う姿は見せるなよ」

「分かってるんで大丈夫でーす」

 シーザさんの咎めるような声も聞こえてくるが、シーザさんの発言は裏を返せば、今日一日家の中でならこういう状態でも問題は無いと言う意味でもある。

 と言うわけで、俺もワンスとセブも、だらけられるだけだらけて全身を脱力させる。


「皆……おはよーう」

「おはようトトリ」

「おはようございます。トトリ様」

「朝食ならもう出来ていますよ」

 と、まだ起きて来ていなかったトトリが部屋の中に入ってくる。

 が、その姿は明らかに疲れが取れていない感じで、今も半分眠っているような雰囲気を漂わせていた。

 まあ、トトリは昨日一日、ほぼずっと『サーチビット・テスツ』を使って周囲の警戒をしてくれていたからなぁ……それだけ疲れるのも当然だろう。

 それに俺の【堅牢なる左】などによる防御も、半ばトトリの探知あってのものだったしな。

 たぶん、今回の任務で一番功績がデカかったのはトトリじゃないのか?


「大丈夫かい?トトリ」

「んー……なんだかすごく眠いし、頭が痛いんだよねぇ」

「頭が痛い?」

「大丈夫なの?」

 ワンスたちがトトリを気遣うように声を掛ける。

 うーん、本当に調子が悪そうだなぁ……これはもしかしなくても、ただ単に任務で疲れているだけじゃないのか?


「そ、その、トトリ様。他にはどのような症状が出ているのですか?」

「他の症状?えーと、何か微妙に食欲が無い感じとかするかな。後は……」

「ん?トトリそれってもしかしなくても……」

「酸っぱい物とか……」

 そして、シーザさんと俺以外の全員がトトリに歩み寄ると、トトリを囲むようにかたまり、小声で何かの話を始める。

 俺は話の内容が気になったので、聞き耳を立てようとするが……。


「ハル。トトリの症状についてお前はどう思う?」

「どう思うと言われても……」

 その前にシーザさんに声を掛けられたので、そちらに集中する事とする。

 まあ、トトリを直接気遣うのはワンスたちに任せればいいだろう。


「俺には何とも言えないですよ」

 で、シーザさんの質問に対する返答については、俺が持っている情報ではそうとしか言えなかった。

 まあ、俺には医学的な知識も、瘴巨人に関する知識も何も無いからなぁ。

 迂闊に適当な事を言って混乱を招いても嫌だし。


「心当たりも何もないのか?」

「うーん。可能性として考えられるのは昨日の一件。あの時トトリは『サーチビット・テスツ』を最初から最後までずっと使い続けていましたし、幾らトトリの特異体質が瘴巨人の指令系と感覚系に対する異常適応と言っても、限界はあると思うんですよね」

「限界か……つまり、『サーチビット・テスツ』の長時間使用と言う名の、本来人間の身体には存在しない部位を動かし、普通の人間が取得する量以上の情報を取得、処理し続けた結果の反作用。と言う事か?」

「ただの直感みたいなものですけどね。と言うか、こう言うのはミスリさんとドクターが専門だと思うんですけど」

「まあ、言われてみれば確かにそうだな」

 と言うわけで、俺としては昨日の出来事から何となく原因を察する事は出来ても、それ以上の事は何も言えない感じである。

 まあ、トトリの身体が心配なのは確かだし、ドクターの診察を受ける事を勧める事と、ちょっと確かめたい事を確かめるぐらいはするが。


「あ、あのねハル君!」

「トトリ、ちょっといいか?」

 と、向こうも丁度話が終わったのか、何故か顔を赤らめ、恥ずかしそうにもじもじしているトトリが俺と同じタイミングで声を発し、被ってしまう。


「あと、なんだ?トトリ」

「えと、ハル君が先でいいよ」

「ん?ああ、じゃあ俺から先に行かせてもらうか」

 そして、お互いに一度譲り合ってしまい、このままでは話が進まないと言う事で俺が先にトトリに質問をする事になる。


「トトリ。もしかしなくても、その疲れている感じってのは、自分の身体の外側、何も無い場所が疲れているような感じじゃないのか?」

「え!?」

「たぶん、『サーチビット・テスツ』を操っている時と似たような感覚を感じるような場所だと思うんだが……」

「え、えーと、その……うん。そんな感じ」

 で、俺が質問を投げかけた所。

 トトリは何度か視線を俺から逸らし、何かを考え込むような仕草をし……その場で両手両膝をついて、明らかに落ち込んでいますと言うジェスチャーを取り、周囲に負のオーラを漂わせ始める。

 一体どうしたと言うんだ……?

 まあ、トトリの発言からして、これで原因は確定したとみてよさそうだな。

 となればだ。


「シーザさん」

「そうだな。今日はミスリとナイチェル以外は全員休みの予定だが、午前中にドクターの元に全員で顔を出して、午後に検査を受けるぐらいはしておくべきだろう」

 俺の言葉にシーザさんは一度頷き、自らが言った言葉を実行できるよう『ナントー診療所』に電話を掛ける。


「そうだよねー、そんな簡単には出来ないよねー」

「悪いねトトリ。早合点しちゃって」

 それにしてもトトリは本当にどうしたと言うんだ?

 シーザさん以外の全員がトトリを憐れむような目で見ているし。

 うーん?本当に分からん。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ