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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第3章【不抜なる下】
153/343

第153話「会議室-4」

 ハルたちがダイオークスに帰ってきた日の夜。

 既に普通の住民たちが眠りに就いている頃、ダイオークス中央塔第92層大会議室では、緊急の塔長会議が開かれていた。


「以上が今回の『テトロイド』郊外にて発見されたシェルターの調査結果になります」

 会議室内の人員の視線を一身に浴びながらハルたち調査班の成果を報告するのは、26番塔塔長オルク・コンダクト。

 そんな彼の表情には、非常に珍しい事に明らかな困惑が浮かんでいた。

 だがしかし、そんな表情を浮かべてしまうのも、今回の件に限っては仕方がない事と言えた。


「それでは皆様の意見……いえ、まずは感想を窺いましょうか」

「また頭の痛い問題が増えた。と、まずは言わせてもらいたいな」

「そうですな。帰り道で襲われた(グリズリー)(クラス)ミアズマント・タイプ:エイプ特異個体(イレギュラー)に関しては、専門家に任せればいいにしても、もう一つの問題は……」

「これを迂闊に口外すれば、それだけで幾つかの都市が傾きかねませんな……」

「いや、我々ダイオークスでも、何の対策も無しに話が広まれば、ただでは済まないでしょう」

 なにせ、26番塔塔長以外の面々……各塔の塔長か、それに準じるだけの有力者たちもみな一様に渋面になっているのだから。

 それほどまでに、今彼らの頭を悩ませている問題は厄介な物だった。


「箝口令については?」

「既に『テトロイド』側の人員含めて、何かしらの音沙汰が有るまではみだりに口外しないようにと、通達済みです」

「ならば一先ずは問題ないか」

「とは言え、人の口に戸は立てられないし、誰が何処で聞き耳を立てているかも分からない。対策は早急に行うべきでしょうな」

「ですな。では……」

 故にまず彼らは、この話が漏れた場合の対策や、どうすれば穏便に済ませられるかを話し合う事となった。

 そして、一通りの対策の案が出され、決定した頃。


「さて、対策の方はこれでいいとして、問題は今後彼らをどう扱うかだな」

「今回の件で、イヴ・リブラ博士が世間一般……いえ、我々を含めた世界中で思われていたような存在でない事が分かりましたからな」

「加えて、異世界人はイヴ・リブラ博士がこの世界に無理やり送り込んだ者たちである事も判明しましたしなぁ……」

 話は直近に差し迫った問題に対する物から、今後の展望に関わる物へと変わる。


「一つ確かなのは、イヴ・リブラ博士が異世界人たちを送り込むことで為そうとしている何か。その何かに彼……ハル・ハノイは深く関わっていると言う事ですな」

「確かに。イヴ・リブラ博士の目的は分からないですが、それだけは間違いない」

「でなければ、あのような干渉がするはずがないですしな」

「【苛烈なる右】とか言う力が、イヴ・リブラ博士の用意したデータを見たら使えるようになったと言うのも、その傍証になるでしょうな」

「まあ、本命か本命にほど近い何か。最低でもイヴ・リブラ博士の計画において、その程度には重要な存在ではあるでしょう」

「その本命をわざわざ怒らせたり、困惑させるようなメッセージを残した理由は皆目見当がつきませんがな」

 まず話に上がったのは、ハルについて。

 塔長会議の面々から見ても、ハルに対するイヴ・リブラ博士の干渉は執拗かつ挑発的な物として映っていたからである。

 実際、イヴ・リブラ博士がアタッシュケースに残したメッセージによって、ハルは明らかに負の方向に傾いた感情をイヴ・リブラ博士に抱いた。

 これを普通に考えれば、ハルを使って計画を進めようとするイヴ・リブラ博士にとってはマイナスに働くはずである。

 にも関わらずこのような事をしたと言う事は、ハルが悪感情を抱いていようが、協力の意思を抱いていようが、イヴ・リブラ博士の計画には関係しない。

 と言う事なのかもしれない。

 ただいずれにせよ……


「いずれにしても、情報が足りなさすぎて、イヴ・リブラ博士の計画の内容は分かりません。これ以上は考えるだけ無駄でしょう」

「そうですな。頭の片隅に置いておく程度でいいかもしれません」

 分からないと言う結論が変わる事は無かったのだが。


「むしろ問題なのは、今我々が画策している計画と、イヴ・リブラ博士の計画が反するか否かですな」

「確かに。例の論文であった人体実験の描写からして、計画に関わらないものは無視するが、計画を邪魔するならば容赦しない。それがイヴ・リブラ博士の性格のようですな」

「それこそ、この広い世界の中で、狙った場所へ正確に異世界人を飛ばせる技術を有しているのだし、今すぐこの会議室へ爆弾を転移させるぐらいの事は出来てもおかしくはないだろう」

「全く。例の記憶から消えるUSBメモリの件も含めて、掌の上で弄ばれている感覚しかせんな」

 室内に重苦しい空気が流れる。

 だが、塔長会議の面々にしてみれば、今も自分たちの命をイヴ・リブラ博士に握られているような物であるのだから、このような空気になるのも当然の事と言えた。


「それで、我々の計画とイヴ・リブラ博士の計画は相反する物だと思うか?」

「少なくとも現時点では問題ないのだろう。干渉も何も行われていないようだからな」

「ただ彼の役割を考えると……そうだな。例の計画には関わらせない方が良さそうではあるな」

「この計画は彼の望みでもあるのだが……止むを得ないか」

「なに。いままでの行動からして、我々がきちんと説明をすれば、納得をしてくれるだろう」

「そうでなくとも、危険性の面からいって、安全が確保されるまでは、貴重な特異体質持ちにして戦力である彼をメンバーに加えるべきではないと思うがな」

「まあ、そうなのですがね」

 重苦しい空気を払しょくするかのように、塔長会議の面々は無理に笑顔を作り、明るく振る舞おうとする。

 そして幾らかの笑い声も出てきた頃。


「ではそろそろ。中央塔塔長」

「ああそうだな」

 中央塔塔長が席を立ち、塔長会議の面々をしっかりと見据える。

 そして、中央塔塔長の口から、今日の塔長会議の決定事項が改めて各塔長に通達される事で、緊急の塔長会議は終わりを迎えることになったのだった。

07/23誤字訂正

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