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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第3章【不抜なる下】
150/343

第150話「帰路-3」

『ウホォウウォウウォウ……』

「くそっ……この上なくウザったいな……」

 その後もエイプによる俺たちへの攻撃は断続的に続いていた。

 基本は高台からツリーを投擲してくるのだが、時には岩のように大きな物体もこちらに向かって投げられており、それらの大半は俺が防ぐ事になっていた。

 正直に言って、トトリの『サーチビット・テスツ』による事前の察知が無ければ、何度キャリアーに攻撃が直撃していたかと言う感じである。

 後、走っているキャリアーからキャリアーへの移動とかもうやりたくありません。

 丁度エイプの攻撃が来て、危うく死ぬかと思ったし。


『ハル、落ち着け。今ダイオークスとの連絡が付いた』

「?」

 だが状況は悪化するだけでは無いようだった。


『そして、26番塔は私たちが現在置かれている状況に対して、可及的速やかに対応するべきだと判断してくれた。今は第2小隊を含めた外勤部隊五小隊をファーティシド山脈の麓に派遣し、エイプを迎撃する準備を整えているそうだ』

「それはつまり……」

『ファーティシド山脈を抜けることにさえ成功すれば、我々の勝利が確定すると言っていいと言う事だ』

『そうでなくとも、アタシの見た限りでは、エイプの強さは周囲の環境に依るところが大きいみたいだしね。ファーティシド山脈を抜ければ、状況はだいぶ変わるはずだよ。それこそアタシたちも戦闘に参加する余裕が出てくる程度には』

「なるほど……」

 既にダイオークス側は援軍を用意してくれているようだったし、そうでなくとも山道を抜けることにさえ成功すれば状況が好転すると言う、かなりありがたい情報も出て来ていた。

 尤も……


「ハル君!二時方向から攻撃!数は一!」

『ウホォウ!』

「な!」

 だからと言ってエイプの攻撃が楽になるわけでは無く、飛んでくる攻撃を【堅牢なる左】で撃ち落とすのは相変わらず俺の役目なわけだが。


『ヴボオオアアァァ!ボウウゥゥアアァァ!!』

「っつ!?」

『『『!?』』』

 エイプの物と思しき叫び声が聞こえてくると共に、瘴気の向こう側から何か大きな物が破壊されるような音が聞こえてくる。

 恐らくは、エイプの特異個体(イレギュラー)としての能力だろう。


「相手も苛ついているって事で良いのか?」

『どうじゃろうな……じゃが、タイプ:エイプの特異個体としての特徴についてはだいぶ絞り込めてきたのじゃ』

『と言うと?』

 俺は痛む耳を軽く手で押さえつつ、音が聞こえてきた方向を警戒する。

 と同時に、多少は無線機の会話にも意識を裂いておくが。


『消去法になるが、まずタイプ:エイプの能力は身体能力を強化したり、何か特殊な物体を投射する、もしくは投射物に何かを付与するような物ではないのじゃ』

『うん。まあ、それはそうだろうね。そう言う能力なら今までの攻撃に使って来てもおかしくないし、大きな音を伴う大規模な破壊痕と言う条件にも当てはまらないし』

『そして、その大規模な破壊と言う点から、こちらの位置を知覚したりする探索系と言う線も薄くなるし、防御系統の可能性も低くなるのじゃ』

『と言う事は?』

「ハル君来るよ!三時方向から、三つ!」

「了解!」

 トトリの指示を受けて俺は【堅牢なる左】と【不抜なる下】を起動。

 瘴気の向こう側から現れた大きな岩に対して、第32小隊のキャリアーに向かってくる物は【堅牢なる左】で叩き落とし、第3小隊のキャリアーに向かってくる物は【不抜なる下】の尻尾で軌道を僅かに逸らす。

 既にキャリアーの速度はかなり上がっているため、これだけでキャリアーに当たらないようにするのには十分だった。

 と言うか、キャリアーの中の面々は既に、緊張はしても動揺はしなくなってきているみたいだな。

 平然と、エイプの能力を解き明かしたり、援軍であるサルモさんたち自身との連絡を付けようとしたりと、自分に出来る事をやるようになっているようだった。

 まあ、既に何度同じような攻撃が来たかも分からないぐらいだしな。

 当然と言えば当然か。


『恐らくタイプ:エイプの能力は、至近距離に存在している物に対して有効な物なのじゃ。じゃから、吾輩たちに対して直接使って来る事は無い。そして、能力使用直後に大きな岩を投げるような攻撃が多い事。それに、大きな音を伴う事も考えれば……そうじゃな。強力な音波……いや、衝撃波によって周囲を破壊する能力。と言うのが、妥当な所ではないかと思うのじゃが……すまないのじゃ。やはり情報が足りなくて、確信は持てないのじゃ』

『いや、相手の能力の推測が立つだけでも十分にありがたい』

『と言うか、そう言う能力なら迂闊に接近すると、酷い事になりそうだね』

『そうですね。詳しい材質や強度は分かりませんが、岩を破壊できるだけの力を持った衝撃波なら、人体に対しても十分な破壊力を有していると考えてもいいでしょう』

「つまり、接近戦は極力控えるべき……と」

 俺は無線機から聞こえてきたエイプの能力に関する推測に対して、思わずそう返してしまっていた。

 しかし、接近戦が駄目だからと言って、そこら辺にある適当な物を投げたりしたら、普通に投げ返してきそうな気がする。

 エイプの器用さならそれぐらいは普通に出来るだろう。

 となると……倒す場合は、一体どうすればいいんだろうな?


『まあ、そう言う事になる……』

「っつ!?エイプが移動を開始しました!これは……」

 そうやってエイプを倒す場合の事を考えていた時だった。

 突如として、狼狽したトトリの叫び声が聞こえてくる。


「エイプは私たちの進路上に有る崖の上に移動しようとしています!」

『『『!?』』』

 気が付けば、山道の脇の片側は高い崖になっている場所になっていた。

 そんな場所で至近距離に対して強力な攻撃能力を有するエイプが崖の上に移動していると言う報告。


『セブ!ガーベジ!キャリアーのスピードを上げろ!!』

『もうやってます!』

『全員!しっかり捕まっておきなさい!』

 エイプが何を考えているのかは明白だった。

 キャリアーのスピードが今まで以上に上がる。


「来ます!」

 トトリが叫んだ瞬間だった。


『ーーーーーーーーー!!』

「ぐうっ!?」

 最早音として認識できない大きさの振動が崖の上で放たれる。

 そして、その音に耐えられなかった崖が落石となって、俺たちのキャリアーに向かって降り始めた。

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