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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第3章【不抜なる下】

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第147話「シェルター-14」

「それで、他に何か連絡事項がある者は……」

 シーザさんがそう言った時だった。

 俺たち第32小隊のキャリアーから何かしらの通信が入った事を知らせる音が鳴り響く。


「私が行ってきます」

「頼む」

「お願いします」

 その音にニースさんが動き、第32小隊のキャリアーの中に消えていく。

 ふむ。俺たちのキャリアーの方なら、『テトロイド』経由でダイオークスとも通信が繋がるはずだが……どっちだろうな?

 まあ、それはさておいてだ。


「俺とワンスの方から連絡と言うか、午前中の行動の結果についての報告が有ります」

「それなりに成果は有ったよ」

「分かった。聞かせて貰おう」

 まずやるべきは俺とワンスのによる【不抜なる(フィックスド)(アンダー)】についての説明である。

 と言っても、通常出力での起動はやっていないので、あくまでも低出力版に限った話になるが。


「なるほど……【不抜なる下】……か」

 俺とワンスの説明を聞いたシーザさんはそう呟く。

 その瞳は、どうすれば今後の活動……特に明日の移動の際において、【不抜なる下】を活用する事が出来るかを考えているようだった。


「ふむ。能力の特性上、防衛、迎撃、待ち伏せと言った、一つどころに留まって戦う時に使えそうな能力じゃな」

「実際、【不抜なる下】を使っている間のハルは尻尾の大きさもあって、方向転換するのも難しそうな感じだったね」

「まあ、機動性については間違いなく落ちますね」

「となると、動き回る時は一度解除しないといけないって事か」

 俺たちとトゥリエ教授の間で、【不抜なる下】についての意見が交わされる。

 実際、【不抜なる下】を発動している最中の俺は、明らかに機動力は低下する。

 どうにも【不抜なる下】が妙な抵抗を生んでいるらしく、フリーと戦った時のように【堅牢なる左】と【苛烈なる右】を使った移動すら、目に見えてスピードが落ちるのだ。


「つまり、明日の帰路で【不抜なる下】を利用しようと言うのなら、キャリアーの天井から動かないつもりでいるか、何処か一か所に留まり続ける必要が有ると言うわけか」

「そう言う事になりますね」

 シーザさんの言葉に俺は同意を示し、軽く頷く。


「なら十分に使えるな。しっかりとキャリアーに張り付いていられるのなら、キャリアーが激しく揺れても、振り落されることが無いと言う事になる。それはつまり、行きの時よりも運転が粗いものに出来ると言う事だ」

「確かに、行きと同じ道を戻るだけとは言え、何が起きるか分からない山道でその特性はありがたい物ではあるな」

「まあ、それは確かにそうじゃな」

 で、そうして意見を交わしあった結果。

 行きの時よりも運転が荒くなっても問題ないと言う結論に至る事になった。

 まあ、粗い運転と言うのはそれだけキャリアー自体が横転したりする危険性が有るので、そう言う運転が必要になる事態にならない限りは、無用の結論でもあるのだが。

 なお、トゥリエ教授曰く、流石にこのたった数日の間に俺たちが倒したタイプ:ツリーのミアズマントが、俺たちの脅威になるレベルで復活する事は無い。とのこと。

 となれば、道が分かっている分だけ、帰りも楽になりそうな感じではあるが……


「ちょっといいですか。『テトロイド』の方から気になる話が流れてきました」

「気になる話?」

「ええ」

 と、俺たちのキャリアーで通信を受け取っていたニースさんが戻ってくる。

 その表情はあまり芳しい物ではなく、何かが有ったのだと俺たちに思わせるに十分な物だった。


「ダイオークスから『テトロイド』に至る五本のファーティシド山脈を越える道がありましたよね。あれの中央の道について、『テトロイド』の方で調査をしてくれたようです」

「中央の道……と言うと、大きな音を出す何かが居るルートですよね」

「そうです」

 ニースさんはそう言うと、『テトロイド』側が中央のルートについて調査した結果を話してくれる。

 その話に依ればだ。


・調査が行われたのは、俺たちの報告を受けての為、昨日一日と今日の午前中のみである

・昨日の調査で、確かに大きな音を発する何かが居る事を確認

・その何かは、『テトロイド』側の見解では熊級の特異個体(イレギュラー)ミアズマントではないかとの事

・だが、『テトロイド』側は実際にそのミアズマントを確認してはいない


 と言うのも……


「これは今朝の時点での話になりますが、『テトロイド』側が本格的な調査を行うべく中央のルートに入った時には既にミアズマントはその行方を晦ませ、音源と思しき場所には大規模な破壊の痕跡だけが残っていたそうです」

「「「…………」」」

 昨日の時点では確かに居たミアズマントが、今日になって急に何処かへ行ってしまったからだ。


「一つ確認だが、中央のルートは使えない。と言う事でいいんだな」

「ええ。道路は完全に破壊され、使い物にならなくなっているそうです」

「なるほどな」

 厄介極まりない話だった。

 熊級の特異個体……それこそ鹿王に匹敵するようなミアズマントの行方が突如として分からなくなったのだから。

 これで、俺たちが帰り道として選んだルート上で待ち伏せでもされていた日には……色々と覚悟を決めるほかないだろうな。


「出会わなければ、何も無くて済むが……これは一つの賭けになりそうだな」

 シーザさんの言葉に俺たちは誰ともなしに頷いた。

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