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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第3章【不抜なる下】
146/343

第146話「シェルター-13」

「ハル・ハノイ。ワンス・バルバロ。両名共にただ今戻りました」

「お帰りハル君」

「もうすぐお昼の時間ですから、楽しみに待っててくださいね。ハル様」

「へぇ、今日のお昼はコルチさんに、トトリとセブの二人が担当なんだね」

 俺たちが拠点の中に戻ると、既にトトリたちが待機所で机や椅子を準備し、昼食の準備をしている所だった。

 ふむ。今日のお昼は普段よりちょっと豪華な感じで、見慣れない材料が混ざっている気もするな。

 そうなった理由は……


「ご一緒させてもらいます」

「ううっ、女の子の手料理なんて久しぶりだよ……」

「ウチには男しか居ないもんな……」

 俺は待機所の片隅を見る。

 そこに居たのは『テトロイド』側の監視役として、昨日俺たちに同行していた三人組だった。

 うん。もしかしなくても、彼らが食料を持ち込んだんだな。

 そう思ってシーザさんに視線を飛ばしたら、小さく頷いて返してきたし。


「えーと、此処で食事をしていても大丈夫なんですか?」

「問題ありません。どうせ今日は休日扱いですし、上から『ダイオークス』の方々と接触してはならないとは言われてませんし」

「なるほど」

 ただそれでも、彼らがこの場に居て大丈夫なのかを一応聞いてみる。

 まあ、杞憂だったわけだが。


「でさあ、『春夏冬(ノーオータム)』のカノンちゃんの何が良いって……」

「出来たよー」

「おう。分かった。今行く」

 で、昼食が出来るまでの間、俺と三人で『春夏冬(ノーオータム)』と言うアイドルバンドについて話しあっていた……と言うか、アイドルに詳しい二人の話を残りの二人で聞いていたのだが、ちょっと面白い事が分かった。

 まず『春夏冬(ノーオータム)』のメンバーは三人。

 ボーカルのカノン、ギターのフユミ、ベースのハルナで、全員が十代の少女である。

 で、面白いのはここからで、この『春夏冬(ノーオータム)』と言うバンドは二ヶ月ほど前に『アーピトキア』と言う都市で誕生したのだが、どうにも『アーピトキア』と言う都市が全面的にバックアップをしているバンドらしいのだ。

 そのため、かつてない速さで、他の都市でも名が知られるようになってきているとの事。

 勿論、歌唱力などもそれ相応に有るようだが。


「『春夏冬(ノーオータム)』ね。ダイオークスに戻ったら、ちょっと調べてみるか」

 で、一番重要なのは、そう、二ヶ月前に彼女らが現れたと言う事。

 それに苗字が分からないから確証は持てないが、俺の記憶が確かなら、この三人の名前はクラスメイトの中にもあったはずである。

 となればもしかしなくても……まあ、あくまでも可能性の段階でしかないし、今はまだ、他の皆に話すべきではないか。


「「「いただきます」」」

 いずれにしても、今はまず目の前の食事に舌鼓を打つべきだろう。


-------------


 で、食後。


「くっ、あんな可愛い女の子の手料理を毎日だなんて妬ましい」

「タラシ許すまじ。慈悲は無い。くそっ……俺にもっと力が有れば……」

「二人とも少しは落ち着こうか」

 食事前はあんなに親しく話しかけて来てくれていたアイドル好きの二人から嫉妬の言葉と視線を受けつつも、俺はシーザさんの方を向く。

 なんでも全体に通達するべき話が有るらしい。


「よし。片付けも終わったな。では連絡事項を伝える」

「分かりました」

 と、話が始まるな。


「話と言うのは、昨日私たちが見つけたチップの処遇についてだ」

「正確にはチップらしき物……じゃがな。アレをコンピューター等に用いられるチップと同一視するのは、色々と問題が有るのじゃ」

「こほん」

 トゥリエ教授の指摘にシーザさんは一度咳払いをする。


「それで、チップ……らしき物についてだが、私たちが直接持ち帰るのは見つけた五個のチップらしき物の内、二つだけと言う事になった」

「二つだけ?どういう事だ?」

 シーザさんの言葉にコルチさんが疑問を発する。

 その疑問は……うん。シーザさん、トゥリエ教授、ダスパさん、ニースさん、『テトロイド』の三人以外はみんな同じ疑問を抱いているようだな。


「残りの三個は『テトロイド』側に預けるって事だ」

「正確には二個は『テトロイド』側に預け、今後も『テトロイド』側で調査をする事になり、一個は『テトロイド』側の用意した方法でもって、ダイオークスに運ばれることになります。これは既にダイオークスと『テトロイド』の両政府で話し合われ、決定した事です」

「えーと、どうしてそんな面倒な事をするんですか?」

 ダスパさんとニースさんの説明に、今度はトトリが疑問を発する。

 ただトトリの疑問については、俺には既に何故かが分かっていた。


「それは……」

「リスク軽減……俺たちに万が一の事態があっても良いようにですね」

「まあ、ハルの言うとおりだ。帰り道に何が有るかは分からないからな。ハルの短剣のように一本しかない物ならばともかく、複数ある物品ならば、確実にダイオークスへ届けることをまずは優先するべきだろう。現に論文については文面をコピー、データ化して、既にダイオークスと『テトロイド』に送っているからな」

「ああ、なるほど」

 と、思わずシーザさんの見せ場を奪ってしまったが、その後の補足説明もあったので、まあ……たぶん大丈夫だろう。


「それでだ。この拠点を出発し、ダイオークスに戻るのは明日を予定している。そのつもりで全員準備をするように。これで私からの連絡事項は終わりだ。分かったな」

「「「了解!」」」

 出発は明日……か。

 となれば、今日中にシーザさんに【不抜なる下】について話しておかないとな……。

07/16誤字訂正

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