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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第3章【不抜なる下】
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第141話「シェルター-8」

「イヴ・リブラ博士は救世主や英雄の類では無く、狂人である……ね」

 シェルターから脱出した俺たちは、隠し通路を単独で調べようとしていた『テトロイド』の人たちを何とか思い留まらせると、中で回収したアタッシュケースを持ってキャリアーに戻って来ていた。


「よっぽどの内容がその論文には記載されていたって事か」

「たぶん、そう言う事だと思います」

 で、現在はトゥリエ教授、ニースさん、それに『テトロイド』側の人一人の計三人が第3小隊のキャリアーの中で最低限の調査を行っており、特殊な機材を扱う能力が無い俺を含む他の面々については、第3小隊のキャリアーの横で情報交換をしているところだった。

 勿論、『テトロイド』側の人員三名の内の残り二名もこの場に居る。


「何と言うか、下手な奴に聞かれたら、それだけで揉め事に発展しそうな話だな」

「あー、やっぱりそうなんですか?」

「そりゃあな」

 ダスパさんはキャリアーの中を見つめながら、面倒そうにそう呟く。


「ハルには以前話したと思うが、イヴ・リブラ博士って言うのはダイオークスの設計者だ。それだけでも英雄視されるには十分なんだが……あー、他の今も残っている都市の大半は、ダイオークスを元にして建てられた物が大半でな。はっきり言って、今もこの世界の人類が存続しているのは、イヴ・リブラ博士のおかげだと言っても過言にならないぐらいなんだよ」

「実際、我々が住むテトロイドも『ダイオークス』を元にして作られていると聞いています」

「なるほど」

 俺はダスパさんの話を聞いて、下手な人物にトゥリエ教授の言葉を聞かれたら、それだけで揉め事に発展すると言う言葉にも静かに納得する。

 実際、ダイオークスも『テトロイド』もイヴ・リブラ博士が居なければ存在せず、これらの都市が無ければ今も人類が残っているか怪しいとなれば、イヴ・リブラ博士が英雄や救世主として扱われる事にも納得がいくし、そんな人物を批判すれば揉め事の一つや二つは軽く起きるだろう。


「でもまあ、イヴ・リブラ博士が狂人だったかもしれない。って言う話には、結構信憑性があるかもしれないね」

「と言うと?」

 と、ここでワンスが口を開く。

 その顔は、色々な物を思い出そうとしている感じだった。


「いやね。イヴ・リブラ博士は確かに世界中で英雄扱いされているんだけど、その人となりについては異常に知られていないんだよ」

「知られていない?」

「そうさ。イヴ・リブラ博士が生きていた三百年前と言えば、既にしっかりとした戸籍や写真や映像の技術が有ったはずなのに、正確な生没年はおろか、出身地に関する記録や、本人を映した写真に映像と言った物に至るまで、何故か一切存在していないんだよ。それこそイヴ・リブラ博士が直接建造に関わったはずのダイオークスにすら」

「……」

 ワンスがもたらした情報は、確かにイヴ・リブラ博士の異常性を表すものだった。

 救世主と呼ばれている程の人物に関する情報が殆ど無い?

 しかもワンスは31番塔塔長の姪で、他の皆よりこの手の情報に触れれる機会が多いはずなのに?


「そう言えば、イヴ・リブラ博士の実績以外の情報で、私が知っている事と言えば、イブ・リブラ博士が橙色の髪に綺麗な赤い色の目をした若い女性……と言う事ぐらいだな」

「僕も同じくらい……かな。噂話と言うか、都市伝説みたいな話なら色々と聞いたことも有るけど」

 シーザさんとセブの口からも、ワンスの話を肯定するような情報が出てくる。

 そして、他の面々の顔色から察する限り、他の皆が持っている情報も同程度のようだ。


「ところで噂って言うのは?」

「え、あ、うん。イヴ・リブラ博士って今皆で言ったみたいに、殆ど情報が無いでしょ。そのせいか、凄く噂が多いの」

「具体的には?」

 なので俺は少しでも情報を得るべく、皆に対してイヴ・リブラ博士の噂でどんなものが有るのかを聞いてみる。

 すると……


「文明の進んだ別の星からやってきた宇宙人説とか?」

「未来人説もあったな」

「人類を守るために現れた神様。または人類をより苦しませるために現れた悪魔っていう話もあったね」

「今も生きているとかは定番の噂だね」

「ついでに今も何処かの都市を裏から支配しているって言う話もあったよね」

「男より女が好きだって話もあったよな」

「今まで反対派だった人が、会った次の日には擁護派に回っていたとかって話もそう言えば……」

「聖陽教会の開祖であるイクス・リープスは、その容姿の似具合から生き別れた双子の兄弟であると言う話もありましたよね」

「瘴気をこの世界に充満させた張本人だって言う話もあったな」

「それに付随して、ミアズマントたちの黒幕だって話もあったな」

「世界で最初の特異体質持ちだって話もあったよな」

「あー、今居る特異体質持ちは全員イブ・リブラの血を引く者であるって言う。どこぞの新興宗教が言っている奴な」

 出るわ出るわ、一山幾らで売れそうなぐらいに、無責任で根拠がまるでない大量の噂が。

 まあ、幾つかは物理的に有り得ないと言い切れるようなものではあるが。


「何と言うか、よくこれだけの噂が出て来るもんだな……」

「本当だね……」

「それだけ謎が多いって事さ」

 俺とトトリの言葉にワンスが呆れた様子で返してくる。


「じゃが、その噂の中には真実も含まれていたようじゃな」

「「「!?」」」

 と、そこにトゥリエ教授がきつい目つきのままで現れる。

 その後ろには、何処か困った様子のニースさんと『テトロイド』の人も居るが……今気にするべきはそこじゃないな。


「真実と言うのは?」

 俺はトゥリエ教授に問いかける。

 するとトゥリエ教授は腰に手を当て、苦虫を噛み潰したような顔のままにある一つの言葉を言い放つ。


「イヴ・リブラ博士は今も生きていると言う話がじゃ」

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