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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第1章【堅牢なる左】
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第14話「会議室-1」

 ハルとトトリが宿で眠っている頃。


「さて、皆様方、夜分遅く集まっていただきありがとうございます」

 ダイオークス中央(セントラル)(タワー)第92層大会議室。

 中央塔第92層に存在している部屋の中で最も大きいその部屋には現在、数十人分の人影が在った。


「御託は良い。早々に用件を話せ。明日の仕事に差し支えが出る」

「そうだ。わざわざこんな資料を事前に寄越したのだ。全員、自分の意見ぐらいは既に持っている筈だぞ」

「確かにそうですな。では、早急に話し合いを始めるとしましょう」

 彼らはダイオークス内に存在している41本の塔に一人ずつ居り、それぞれ自分の塔を管理する塔長である。

 彼らが若干眠そうにしつつも、この場に集まった理由はただ一つ。

 とある緊急の議題について話しあうために他ならない。


「つい先日、我が26番塔の外勤部隊が2名の身元不明者を塔外にてそれぞれ別に保護いたしました。今回の議題と言うのは彼らへの対応をどうするかについてです」

 赤髪の男性の言葉と共に議論が始まる。


「本来ならば、塔長会議に上げるような議題では無いな」

「確かに。常であるなら、それぞれの塔長の裁量の範囲内で十分な処理が出来る事案だ」

「だが、資料が確かならば彼らは異世界人であり、いわばイレギュラーである」

「となれば、通常の身元不明者と同様に扱うのは様々な面で問題が生じる可能性があると言う事か」

「流石は26番塔塔長。賢明な判断だな」

「お褒めの言葉と受け取っておきましょう」

 まず初めに交わされたのは、この議題がこの場で緊急に話し合うのにふさわしいかどうか。

 だが、予め渡された資料を精読していた塔長たちにとってこの辺りはただの確認作業に近かった。


「目下、問題となるのは、どういう方針で彼らと接するかですな」

「まず、非友好的に接するのは無しでしょう。彼らは我々の言葉も解しますし、遺伝子的にも我々との混血が可能である可能性が既に示されています」

「非友好的に接する事によって得られる益と言う物が有るとは思えませんしなぁ」

「そもそも、彼ら自身がこちらに対して友好的に接しようと動いているのに、これを一方的に蹴ると言う事自体どうかと思いますな」

「となれば、彼らが友好的にこちらに接しようと考えている限りは、こちらも友好的に接するべきでしょう」

「そうですな。それが良いでしょう」

「「「がやがやざわざわ……」」」

「では、全体の方針としては友好的に接すると言う事でよろしいでしょうか?」

 その後、幾らかの議論が交わされた後、赤髪の男性が発した言葉に塔長たちは全員で肯定の意を示す。


「では、次の話ですが……」

「その前に一つよろしいかな?」

「なんでしょうか?31番塔塔長」

 赤髪の男性の言葉を遮るように、同じ赤髪でも黒味が強い男性が手を上げ、言葉を発する。


「いやなに、監視役はどうなさるおつもりですかな?彼らと友好的に接する事と、監視役を付けることはまた別だと、私は思うのですが」

「ごもっとも意見ですな。ですが、その件については監視役は彼らの教育係や案内係も兼ねた存在であり、複数の塔から選出されるべきだと私は思っております故、具体的な人員などについては彼らが最終的にこのダイオークスでどういう職に就くことを望むかによると私は考えております」

「では仮に、彼らが26番塔以外の塔で仕事に従事する事を望んだ場合は?」

「その場合は、その塔の塔長にお任せする事になりますな。そもそも、我が26番塔は彼らを発見・保護しただけに過ぎず、彼らの自由を束縛するような気はございませんので」

「なるほど。良く分かった。ならば、私からこの件についてこの場でこれ以上言うのは控えるとしよう」

「貴重なご意見ありがとうございます」

 26番塔塔長と31番塔塔長の間に目には見えない火花が散る。

 が、この場で事を荒立てる意味は無いと判断したのか、お互いに身を引く。


「では改めて次の話になりますが、彼らの望みについてです」

「元の世界に戻る事。でしたか」

「加えて、その方法を自分たちで調査するために外勤の部隊に入る事を望んでいる。でしたな」

「異世界に渡る技術が実現可能かどうかについては、この際横に置いておきましょう。問題は、彼らが外に出る事を許すかどうかです。私個人としては彼らにそれ相応の実力が有れば、外に出ることを認めるのも吝かではないと思っていますが、予め皆様の意見を頂戴しておきたい」

「「「…………」」」

 部屋の空気が一機に張り詰める。


「外の危険性は桁違いですからな。瘴気を無効化できる程度では、危険な事には変わりない。私としては、出来れば彼らを外には出したくない」

「そうですな。トトリ・ユキトビについてはともかくとして、ハル・ハノイの特異体質を失うのはあまりにも惜しい。彼の特異体質の仕組みを明らかに出来れば、今の世界が一変する可能性すらあるのですから」

「だからと言って外勤になる事を望む彼らを一方的に弾くのは不義理な事になる。それは友好的な行動とは間違っても言えんだろう」

「となれば、正面から堂々と入る以外の方法で外勤になる事を禁じ、正面のハードルにしても可能な限り高くしておく。と言うのが一番の方法ですかな」

「そうですな。外に出れるだけの実力が無いと、本人が自分で理解すれば、何の問題も無いでしょうし、それでも外勤になれてしまったのならば、我らとしても納得する他無い」

「「「…………」」」

 様々な意見がそれぞれに違う表情を浮かべた塔長たちから発せられ、大会議室の中を駆け巡る。


「では、26番塔塔長オルク・コンダクト」

「はっ!」

 やがて、議論が一応のまとまりを見せた頃。

 一人の男性の声に26番塔塔長が立ち上がる。


「彼らが本当に外勤の部隊に入る事を望んだ場合には、不正とならない程度に試験の難易度を上げて判断するように。また、監視役については仮の監視役を早急に定め、今後一週間の彼らの動向を見てから正式に定める事とする」

「了解いたしました。では、そのように対応させていただきます」

「では、今回の緊急会議はこれまでとしよう」

 こうして、ハルとトトリの二人が与り知らぬ場所で、彼らへどのように対応するのかが定められるのであった。

03/06誤字訂正

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